銀行管理職の常識 「支店の底力」Part


地域金融研究所が昨年末に発行した図書です。支店長等銀行管理職を対象に経営管理や顧客との対話に必要な金融関連主要トピックスを大蔵省OBや銀行OBなど各界有識者が解説しています。http://www.chiiki-kinyu.co.jp/

例えば、

犯罪収益移転防止法改正、外国送金の確認義務、外国人登録制度の廃止と在留カード創設、事業金融(プロジェクト・ファイナンス)の活用方法などです。これらは、制度変更の際にメディアで報道されていますが、その詳細は殆ど知られていません。それを判り易く、かつ、銀行支店長や経営マネジメントの立場から具体的にどう対応すべきか説明されています。また、コンプライアンス、リレバン、顧客企業の海外進出支援、顧客満足、人事管理など支店経営に関わるテーマ、クラウドや公的介護保険制度改正など顧客との共通話題の解説など広範なテーマに渡っています。銀行のマネジメントに必要な時事知識の内、充分な情報がないテーマを選定し、利用するシーンを想定しての説明となっています。それも学者ではなく、銀行員や関係省庁担当者による実務的な説明です。

金融ITに直接関係のない本書を筆者(島田)が何故、このコラムで紹介するのか?理由の第一は、金融IT関係者がビジネス・ユーザーと対話する時のネタになることです。筆者は、IT企業幹部が銀行幹部を訪問する際に同席することがしばしばあります。常に感じることですが、「何故、ベンダーはパンフで自社紹介し、なんか買ってくれ!」としか言わないのだろう?これでは、お客の経営者からすれば、単なる時間の無駄で、ストレスを感じるだけではないかということです。たまに、顧客と共通の金融業界話題になっても、新聞記事を繰り返すだけです。それも顧客を苛立たせます。ビジネス・ユーザーの現場目線での双方向会話が必要です。本書は、現在、必要とされる話題の全てを網羅している訳ではありませんが、規制や業界動向を解釈する時の切り口や整理方法を教えてくれます。

理由の第二ですが、ITソリューションを設計する時の業務要件整理の視点に参考となることです。制度案件をITソリューションとして設計する時に、役所が公表する要件では、とてもIT化できません。ToDoリストになっていないからです。例えば、犯罪収益移転防止法の改正ですが、国際的にはAML(アンチマネーロンダリング)ですが、わが国の場合は、反社会勢力対策と金融犯罪防止のための本人確認法の機能を合わせもっています。それに金融機関の内部不正防止まで対策を求める法律となっています。そこに、AML先進だとして欧米パッケージを持ち込んだところで、カバーできる範囲は、国際テロ集団や麻薬犯罪集団の資金洗浄に限定されます。また、今春発布される政省令やパブコメからは、とうていIT化の仕様を導出することはできません。金融機関の現存する本人確認、取引内容確認等のプロセスに変更追加しなくては、業務を屋上屋で重ねることとなり、現場を混乱させるだけです。その点で本書における警察庁担当者の解説は、平易で理解しやすいのですが、更に今年7月までに移行される外国人登録制度は、非居住者や永住外国人などに関する本人確認の制度変更につき、現場での具体的処理方法を銀行担当者が解説しています。ビジネス・ソリューションの説明になっていません。

ITソリューションの妥当性を説得する為には、それがユーザーの考えるビジネス・ソリューション(具体的施策)に合致しなくてはなりません。そのビジネス・ソリューションは、ビジネス・イシュー(制度変更等を含む経営課題)から派生、展開されます。いくら、ビジネス・イシューに合致したITソリューションだと強調しても、ユーザーは自分のビジネス・ソリューションの実現しか頭にありませんから、納得しません。つまり、会話にならないのです。顧客であるユーザーの言葉で話すとはビジネス・ソリューションを話すということです。昨今のITベンダーや顧客企業IT担当者は、この視点が余りに弱くなっています。しかし、ユーザー用語で話せ、考えろといっても、具体的な素材がなければ、言われた方もどうしたら良いかわかりません。最善の方法は、ユーザーに教えてもらうことです。教えてもらうには、良い質問をすることです。良い質問の為の事前知識としては、本書に記載されているレベルでの現場目線での知識が必要になります。

つまり、本書の読み方としては、銀行界の今年のテーマに関して必要知識を得ることと、IT化を行う際に前提となる現場目線での要件粒度の把握の二つがあります。金融ITに関わる方達(ユーザー側、ベンダー側双方)にも、多いに参考となることでしょう。