損害保険業界解説書「損害保険ビジネス」


金融財政事情研究会から出版されています。損保会社でシステムに長年携わった方達3名による編著です。

筆者島田には、金融界の中で損保業界は縁遠い存在です。個人的に親しい飲み友達もいますし、大手損保会社の殆どに、何度も訪問し、役員会などで講演することも多かったのですが、それでも何故か馴染みが薄い。思い出すのは、役員会での講演を依頼された時、担当者が余りに細かく講演内容に注文をつけるので「そこまで話すことが決まっているなら、自分で講演しろ。」とか、別の損保会社で「御社は人から情報を取るばかりで、情報交換にならない。会う意味がない。」と啖呵を切ってしまったことばかりです。

この業界の方達は、個人的には良い人達だと思うのですが、秘密主義が強すぎるのではないか。ビジネスに関して、また、自分の会社に関して、外部に語らなさすぎる。組織的な情報公開も少ないので、どんな構造で、どう動いているのか、何を考えているのか判らない。それでいて、規制当局や協会などには従順というのが私のイメージだったのです。

その点、本書は、極めて率直に業界の実態を紹介しています。各ページに「そうだったのか」「えっ、本当?」といった記述が並びます。ようやく、この業界の全体像が理解でき、具体的にどんな商品をどう扱っているか判ったように思えました。一見して平易な説明ですが、全体を考えながら読むと実に重いというか、深い内容です。長年、損保業界とつきあっている友人も、同じような感想を語っていました。

本書を書いたのは、異なる損保会社で長年、システム関連に従事された方々です。同じ志の人達が集まってトムソンネットという会社を設立し、コンサルや研修などをNPO的に展開しています。http://www.tmsn.net/

本書では、システムの技術面に関して余り多くを書いておりません。業界の構造、歴史、商品、ビジネスモデル、経営上の課題等を判り易く、直截に書いてあります。業界発展の為には、販売チャネルを始めとしたビジネスモデルの変革が必要だと、繰り返して主張しています。3人の編著者に共通した強い思いなのでしょう。ということは、その壁が相当に厚いことを意味しています。新しい収益源としての海外戦略の難しさや危険性にも率直に触れています。今の状況で大災害が発生したらとんでもないことになると警告していますが、現実となってしまいました。損保産業が、大規模なパラダイム・チェンジを実行せざるを得なくなったということでしょう。

三井住友海上の例では、事業比率34.0%、損害率69.5%で、合わせたコンバインドレシオは、103.5%と本業では赤字だそうです。米英韓の70〜76%台に比べると損害率は極めて低い。しかし、事業比率が10%以上も高いのが問題だと指摘しています。事業費の内、代理店手数料も高いのですが、社内経費も7、8%高い。今回の大震災で損害率は一挙に上がります。ソルベンシーマージンは十分ですから、経営が危うくなることはありませんが、資本は相当程度毀損します。早急に利益率を大幅改善して資本強化しなければ、海外勢のM&A攻勢を受ける恐れがあります。業務BPRを大規模に行い、代理店チャネル戦略の見直しを急がなくてはなりません。大災害の直後には、保険料収入が増えるのが過去の例ですが、その追い風のある間に、ビジネスモデルの大改革を行う損保会社が出てくる筈です。

編著者達は、損保のビジネスモデル改革には、ITが欠かせないと強調します。保険会社経営者の多くは、細かな技術を知りませんが、意外とITの価値を理解しています。その点、ITを戦略と言いながら、自分では考えずに丸投げする銀行経営者と違います。メガ損保の今後のIT戦略にも興味がありますが、今後、重要性が増すと著者がいう乗合プロ代理店のIT戦略が面白くなると思います。

本書は損保会社や代理店の新人を主たる対象に書かれたそうですが、是非、IT関連の方々にもお奨めしたい。この本で損保業界の基本を押さえた上で、損保ビジネスのパラダイム・チェンジを推進する創造的なソリューションを考えて頂きたい。金融界では久しぶりにワクワクするような仕事が創り出せると期待しています。