金融 業務削減4万人分 (大手13社がDXで生産性向上)


日経新聞の令和3年11月19日付け記事です。日経新聞が銀行、証券、保険の大手24社にDXによる人材への影響を聞き取り調査して、その内、DXによる業務量の変化を回答した13社の合計が、表題の4万人分ということです。この13社は、20年度までに8700人分の業務量を削減しており、3年以内に2万9769人の削減が見込まれているとのことで、合わせると13社合計の従業員数38万人の10%前後、4万人分の業務が削減されるということです。

業務量が減る分、約7千人を配置転換して、残りは退職などの自然減で人数調整する方向で、各社はリスキリングという再教育に力を入れているとします。例えば、りそなHDでは、1700人を3〜6カ月の研修を経て、事業承継やDX支援業務に回す計画だそうです。大半の回答企業は、DX人材としてリスキリングすると考えている模様です。しかしながら、DXスキルとしてWeb会議が使えることを目標とするなど、笑えない回答例もあったとのこと。日経が記事にこんな事例を紹介するのは珍しく、余程、取材チーム内で話題になったのでしょう。

この記事で記者は何が言いたいのか?DXで大勢の金融マンが職を失うと言いたいのか?DXの目的がビジネス改革でなく人減らしで良いのか?と問題提起したいのか?と思いながら記事を読み続けると、筆者が考える金融業界の課題や論点がズラリとならんでいました。

@ 今のDX化は企業全体の変革にはほど遠い。

A デジタル化スピードに会社転換がついていけてない。人員削減も制度面の制約があり容易ではない。

B 金融・保険の労働生産性は米国の6割、英国の5割だがキャッチアップにはほど遠い。

C JPモルガンチェースにはエンジニアが5万人以上、全社員の2割いるが、日本では5%程度である。

D IT投資額も米銀大手では年1兆円という例があるのに、メガバンクでも2千億程度である。しかも、その7割は維持運用目的で戦略的投資が少ない。

といったことです。そこで、雇用の流動化と再教育が大きな課題であるという論調です。

ところで、日経新聞グループが大々的に調査した結果をこの記事で打ち止めにするとは思えません。近い内に金融DXの戦略的展開を求めるキャンペーンを始めるでしょう。その時には雇用の流動化とリスキリングが大きな柱となるようです。我々は、日経グループが記事で主張する内容には、こうした背景とシナリオがあることを認識したうえで、事実と記者の意見を区分して咀嚼し、自分なりの解釈をしなくてはなりません。間違っても、日経がこう書いているからと鵜呑みにして、あたかも唯一の真実のように他者に吹聴することは避けるべきです。

例えば雇用の流動化ですが、これは経営の側からすれば、間違いなく欲しい制度環境です。米銀大手は、プロジェクトに必要な人材を短期間に数百人規模で採用します。ただし、プロジェクトが終われば、その大半は転出します。させるという方が正しいでしょう。そういう働き方を望む人が日本にどれだけいるのか?昔、米国を模倣して、これからはアウトソーシングだ、非正規雇用だと騒ぎ、その結果、今はどうなのか?きちんと、メリット、デメリットを見極めて、我が国全体、自分の属する業種、自社の事情に沿った適用を図るべきです。

金融庁は金融機関の業務範囲を年々広げてくれています。金融機関は持株会社化して、その傘下に高度化会社などを新設しています。我が国の場合は、転職するとしても、こうした関連会社への転籍が主となるでしょう。その場合、各関連会社によって必要なスキルは異なるはずです。そのスキルをどのように習得支援するかが最終的な課題となります。

そのスキルですが、リスキリングというジャーゴンで一括りにするととんでもないことになります。まして、DX人材に求められるスキルなど、研修で簡単に身につくようなものではありません。大手金融機関はどこでもDXスキルをビジネス、デザイン、テクノロジーの三つで分類しています。どれも各分野のエキスパートに求めるスキルカテゴリーです。しかし、これだけでは全く不十分です。スキルのベースとなる資質が抜けています。

優秀とされる人材の共通点にビジネスの資質があります。価値観、理解力、情報収集力、分析力、整理力、コミュニケーション力などです。加えて多様な分野にまたがる教養知識も必要です。こうした資質の上にエキスパートとしての専門的スキルが乗ってきます。これをT字型人材と言います。中高年になってから集合やオンライン研修などで身につくとは思えません。筆者は家庭環境で3歳までに基礎が固まると思っています。

ところで、どんな組織でも、組織の求めるスキル人材はおおざっぱに言って2割、6割、2割に上、並、下とレベル分類できます。そして、上の2割はやる気にさえなれば、どんなエキスパート・スキルでも習得します。ところが、下の2割はどんなにプッシュしてもやる気にならない、または、要領が悪い。当然例外がありますが、あくまでも例外です。経営としては当てにならない。

組織の生産性を上げるには、下の2割はAIやRPAなどを使って自動化分野で働いてもらう。上の2割と並の6割は、チームとして小分け編成にして、それぞれが得意とする分野で頑張ってもらう。特に新規事業分野で活躍してもらいたい。預為など伝統的業務は上位20%の人材である必要はないでしょう。この考え方からすると、金融機関の人員配置は真逆です。彼等の多くは日本国民の中で上位20%に属する人達なのですが、活かせない。ですから、筆者は40年前から金融は人材の墓場と言い続けています。

苦労を与えて生き残った人を昇進させるなど旧帝国陸軍の人事です。チャンスを与えて経験と失敗を積み重ね、成長を支援することが必要なのです。半年程度の研修でエキスパートに仕上げられると思うこと自体が信じられない。不要とは言いませんが。

今の人事政策を続けていられる時間は残り少ない。他人事ながら、忸怩たる思いがあります。まずは、やらせてみて欲しいのです、DXはその良い機会となる筈です。

 

                                  (令和3年12月1日 島田直貴)