進む金融分業 (大手身構え)


日経新聞「始動する新仲介」特集記事です。令和3年11月2日付です。11月1日に施行された新仲介制度には多くの金融機関だけでなく、一般事業会社も強い関心を示しています。ただ、新制度で扱える商品やサービスに制約がある為、どちらもビジネスプランを固めきれず、腰が引けていることも事実です。そうした中、大手は、まずは新仲介のプラットフォーム作りを先行させています。MUFGや野村グループ、そしてSCSKなどのIT企業です。

先行するイメージのMUFGでは、12月から資産運用基盤「マネーキャンバス」をスタートさせます。野村をはじめとする大手証券3社もCIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)組織を新設し、資産運用に関する統合した情報提供態勢の整備を急いでいます。そのCIOには組織横断(営業、FM、エコノミスト、アナリスト等)で数十人単位のメンバーが集まります。野村は200人だそうです。

MUFGは、まずは富裕層を狙っています。これは何年も前から検討してきたのですが、従来型富裕層ビジネスの枠を破る方策が見つからずに検討に留まっていました。今回の新仲介制度でビジネス機会が見極めたのでしょう。一挙に動き出します。主管部門はウェルスマネジメント戦略部です。これまで、顧客の財産を「まもり・つなぎ・ふやす」ことを標榜してきたが、個別商品の提案に留まっていた。これからは、「顧客の過去・現在・未来を理解し、その人生観や将来像に寄り添うことを目標にする。」とします。こうした標語はどの企業も打ちあげますが、実際の活動となると個別商品販売に逆戻りするのが常です。しかし、同社は、「ゴールベースアプローチ」を活動指針とセットしました。

ゴールベースとは、米国などの資産運用支援で共通のプリンシプル、活動メソッドでして、金融資産拡大よりも、金融資産で何をしたい、どうありたいかをサポートすることです。わが国は、その点で大分遅れており、金融OBなどは、「わが国に顧客の為を真に思う金融機関などない。結局は、会社が指示する商品を売ることしか考えていない。」と言い切る始末ですし、顧客からすれば、「そんなに奨めるなら自分で投資すれば良いではないか。成功したら私に教えろ。」となります。筆者が競馬の予想屋と表現する所以です。当たるのが確かなら他人に教えず、自分だけ馬券を買ったら?という理屈です。こうして、過去、30年間個人の金融資産は価値を増さず。銀行口座の中で昼寝してきました。

MUFGは富裕層ビジネス用のデジタル・プラットフォーム「MUFG Wealth Management Digital Platformを構築しました。機能は大きく3つ、@統合View : グループ内で散在する顧客情報を一元的に管理、表示する。 Aゴールプランニングシステム : 顧客人生のゴール、ライフイベントに応じたキャッシュフローや総資産に関する課題やニーズを見える化し、ポートフォリオ運用や資産承継、事業承継の対策案を提示する。 Bネクストベストアクション : アナリティクスモデルを活用して顧客の状況に合わせた適時適切なアクションをアドバイザーに提言する。

このプラットフォームと合わせて、MUFGは上記のMoney Canvasを活用する予定です。こちらはスマホを使った資産形成サポートが主目的のアプリです。ニュース、コラム、運用スタイルの診断に加えて株式、合同金銭信託、クラウドファンディング、投資一任型サービスを提供開始します。来春には保険商品を予定しています。このサービスの特徴は、同グループが最近戦略として打ち出したオープン化です。グループ内各社の商品だけでなく、大和証券や損保ジャパンとも協業します。財閥系金融機関としてはかなり思い切った方針変更です。地方銀行などにもMoney Canvasの提供を検討しています。金融機関のオープン化が進むと、IT業界で起きた水平分業化が起きることになります。MUFGは金融におけるGAFAMのようなポジションを狙うのでしょう。

地銀界では、足利銀、佐賀銀などが、SBI証券や楽天証券、そして独立系IFAなどと組んで仲介事業に乗り出しています。大手IFAとは様々な金融機関が資産運用ビジネスで協業しようとしています。新仲介制度は、従来の専門分化した金融業態を更にアンバンドルしてリバンドルし直す効果がありそうです。それが金融庁の狙いなのかも知れません。今回の制度変更で金融庁はフィンテックなどノンバンク企業に金融への参入の道を開こうとしますが、むしろ金融のオープン化やチャネルの全面的な革新に繋がる可能性が高いようです。最終的には、金融市場の活性化と金融資産の有効活用に結びつく筈です。

こうした動きはITベンダーも見逃しません。ゴールベース運用を手助けし、オープン戦略を可能とするプラットフォームの商品化を進めようとしています。先行するのはSCSK社でして、今年6月にサービス名「TAMP」(Turnkey Asset Management Platform)をスタートさせました。こちらは、これから質量ともに拡大が期待されるIFA向けで、ポートフォリオ分析や金融商品の発注までをサポートします。ロボアドと重複する面もありますが、違いは、やはりオープン化です。顧客の多くは一社に自分の資産全てを集めるのは避けます。プライバシーもありますが、リスク分散という意味もあります。これからの金融ビジネスはオープン化、リスク管理、セキュリティ対策がキーワードとなるだろうと思います。

 

                            (令和3年11月23日 島田 直貴)