DXで個人金融再建 (三菱UFJ銀 半沢頭取)


日経新聞の令和3年4月6日付記事です。三菱UFG銀行の半沢新頭取が相次いでメディアの取材に応じています。ニッキン4月9日号にも会見内容が報じられていました。大筋は以下のような内容です。

日経新聞

◇不振の個人取引をDXで再建する。現在のリテール経費率は84%と全体の65%を大幅に上回るが、店舗の4割を廃止し、3割前後の店は業務縮小とタブレット化を進めることで10人態勢を目指す。

◇過去5年で来店客数は半減し、スマホ取引が2.5倍となっている。若年層を中心とする顧客との接点拡大と取引の活性化を進める。その為に外部アプリとの連携を図る。法人向けも外部との連携を進める。

◇持ち株会社にデジタル専門の事業本部を設置し、権限プロセスの簡素化を図る。

ニッキン

◇重点課題として国内収益基盤を強化。ウエルスマネジメントと法人向けに経営課題解決型アプローチを拡充する。21年度中にウエルスマネジメントのデジタルプラットフォーム(タブレット化)を仕上げる。

◇新設するデジタルサービス部門がDX化を推進し、損益分岐点を下げる。その為にネット取引の殆どをネット完結できるようにする。

◇アジア事業は買収による量拡大から質向上による収益重視に変換する。

◇グループ一体化の為に意思決定の迅速化や行員の挑戦・参画の機会を広げる。本店を建て替えて、グループ企業の本館とする。


これを見て意外というか残念に感じることが多い。筆者は、MUFGはもっと効率経営で長期戦略を着実に展開し、DXでも進んでいると思っていたのですが。どうもそれは贔屓目に過ぎたようです。

第一にリテール事業がこんなに非効率とは思いませんでした。SMFGに比べて収益性が劣ることは知っていましたが、それは一時的な損失などによるもので、リテール事業が高コストという構造的原因とは思っていませんでした。今更、若年層向けのDX化で経費率を抜本的に改善できるとも思えません。

第二にアジア事業の収益性改善といいますが、国内よりはるかに金利水準の良いアジア市場で期待ほどの利益が出ていないようです。買収して何年も経つのに、高収益化の目安が立っていないとすれば、今までどんな現地法人経営をしてきたのか?今更、それを矯正できる方策があるのか?試行錯誤を繰り返すうちに身動きとれなくなるのが、これまでの日系企業が繰り返した海外買収戦略です。他業種とはいえわが国代表的企業の失敗を繰り返さないという保証がMUFGにあるのか?

第三に、富裕層ビジネスですが、何年も前からDX化を検討していました。それが、ようやく今年2021年にタブレットベースのプラットフォームができるといいます。何故、こんなに時間がかかるのか?

第四に本社立て替えでグループ企業の本社を集約してグループ一体化を図り、挑戦参加型の組織に変えるとしますが、何年かかる話なのか?実現するための具体策があるのか?

きつい意見ばかり並べましたが、好ましい変化もあります。半沢頭取が相当に突っ込んだ本音ベースの考えを記者に話していることです。銀行界、特にメガバンクは自社に都合の悪い話をしません。これは対社外だけでなく社内でも同じです。常に大本音発表的というか自分達は他に比べて進んでいる(いなければならない。)という思いこみから来ています。

昔、何回か大手銀行のCIOを対象にアンケートを実施しました。海外の著名銀行も対象で、グローバルレベルのベンチマーキングでした。直接CIOや頭取に面談して回答をお願いします。上級幹部ですから自分で回答は書かずに部下に書かせるでしょう。それは承知です。回答は様々なチェック項目に対してその銀行がどのレベルにあるかと0から7とかレベルをチェックして、フリーコメントも応えてもらいます。
邦銀の回答を見ると殆どの項目が最上位で、充分に実施して効果が出ているとなります。フリーコメントは殆どありません。米銀大手などは、上から3番目とか4番目が多く、未達の理由や改善案なども記入してあります。我々は依頼先銀行の現状を知っていますから、そんなに高いレベルの筈がないと思いますが、勝手に回答を書き換えることもできません。
結果として国際的ベンチマークでは邦銀が飛びぬけて高くなってしまいました。3年程で銀行に回答してもらうのを止めて我々の評価をデータとして使うことにしました。
日本だけです。匿名でデータを扱うのに、何故こんなに見栄を張るのかと我々チーム内で不思議がったものです。折角のベンチマークが役にたたず、当該行にもメリットがないのは明らかなのですが。書類回答だから記入者が上司に忖卓していることも考えられますが、流石にお宅の回答は信用できないから直接インタビュー方式で調べさせて下さいとも言えませんでした。

しかるに半沢頭取は目標未達や弱点を率直に表明します。社外よりも行内への影響が大きいでしょう。実態を知って課題を経営陣と共有できます。即ち、各行員が自分は何をすべきかを理解できます。こうして挑戦参加型の組織に変わっていくことが期待できます。

三菱グループは昔から組織の三菱と言われます。その具体例はいくらでも上げられます。別に文書化されている訳でも規定化されているわけでもないのに、殆どの人が同じようなアプローチで仕事を進めます。これはこれで、大きな強みとなる組織文化です。それでいて個人同士の付き合いでは、開放的で率直な人が多い。この使い分けは見事です。こうした素地があれば組織文化の変革も可能かと期待できます。新頭取がどのように改革を進めるのか、期待を込めて拝見しましょう。最後は軍隊方式でコマンド&コントリールです。時間勝負ならこれしかありません。

 

                               (令和3年4月16日 島田 直貴)