地銀DX法人向け進まず (日銀が報告書)


日経新聞の令和3年3月30日付記事です。日銀が中期経営計画を公表している地銀77行のDXに関連する対応状況を分析した報告書「デジタル時代の地域金融」(3月29日公表)を紹介しています。

https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsrb210329.pdf

記事では、DXを使って業務改革に注力する地銀は6割になる。個人向けではキャッシュレスやスマホバンキングなどが普及しつつあるが、法人向けサービスは「AI融資など差別化余地」のある分野で検討段階に留まる地銀が多く積極的なのは2行だけと書いています。大手銀に比して規模が小さい地銀では人材や予算が制約となっており、セキュリティやアンチマネロンなどの対策が負担となっている。アライアンスや業態を越えた業務提携などが効果を期待できそうだと書いています。

筆者が異和感を抱いたのは、日銀がAI融資を推奨しているのに、地銀が消極的だとの記事論調です。確かに日銀は会計クラウドなどと連携したAI融資に関心と期待を持っています。しかし、このサービスが大きな効果をもたらす確信は持っていません。日銀の研究会などでAI融資に取り組んでいる銀行から経験事例などを熱心にヒアリングしています。説明する銀行はメディア向けの宣伝文句とは全く異なる本音を説明します。例えば、従来の統計分析による審査と精度に差がないとか、信用リスクは企業のキャッシュフローや預金残高推移をみていれば充分に把握できる。むしろ、オンライン融資だと営業地域外の申込みが多く、不良債権比率があがるなどなどです。こうした課題を解決する為に、今後の努力が必要なことは確かですが、果たしてそれが、どこまで銀行トップライン改善に結びつくのか?それも今の金利状況下で。日銀はこうした実態を把握しています。

記者のフィルターを通したニュースは、えてして実態から離れ、読者をミスリードします。キャッシュレス化やスマホバンキングで、業務効率化と顧客サービス改善を図る方向は確立しつつあり、法人向けは停滞しており、特に主要な融資関連が遅れているというのが記者の認識です。果たしてそうなのか?

日銀は、このレポート公表の同じ日に「わが国の銀行におけるデジタル・トランスフォーメーション」というレポートも公表しています。

https://www.boj.or.jp/research/wps_rev/rev_2021/data/rev21j02.pdf

両者を合わせてご確認頂きたいと思います。実に客観的に冷静に分析しています。

まず、DX関連の用語定義をしています。金融界ではこの定義が定着するでしょう。紙情報の電子化(ペーパーレス化)をdegitization、業務の自動化をdegitalization、電子データを活用した金融サービスをDX:degital transfiomation としています。例えばRPAはdegitalization一つとなります。そして、地域金融機関のDX化に共通する傾向を整理しています。

1.BPRなど業務プロセスの見直しに注力しており、自動化による事務量削減で人件費削減と人員再配置が試みられている。ただし、その効果を実感できない地銀も少なくない。事務を根本的に見直して、業務プロセス全体を一気通貫で自動化し大きな効果を実現する例もある。

2.キャッシュレスやアプリ・ウェブを使った個人向け預金・決済サービスに注力する地銀が多い。ただし、このことは既存の対面・接触サービスとの双方に経営資源を割り振らなければならず、二重コストの負担が避けられない。リアルとデジタル・サービスの需要と供給のバランスを取りながら、両サービスの融合を目指すべきである。

3.少数ながら法人向けサービスに射程を広げる地銀もある。取引先のデジタル化支援などである。

情報収集やプラットフォーム開発に加えて、資源制約の緩和策として他金融機関との連携も拡がっており、効果を発揮する事例が増えている。特に中小企業向けデジタル・サービスは参入余地が大きいようだ。ノンバンクに対する資金力、信用力の優位性を活かしてトランザクション・レンディングやZEDIを活用した取引先財務会計との連動は新たなニーズ発掘に結びつく可能性がある。

4.地域社会のデジタル化推進が期待されていることを認識する地銀は多いが、まだ、検討段階とする地銀が多く、他行の動向を睨みながらの検討段階である。地域密着を標榜する地域金融機関にとって、デジタル化は一見相性が悪い。これは戦略リスクになる危険がある。例えばキャッシュレス決済は既にコモディティ化が進み、大規模ノンバンクなどとの競争を考えれば、地域銀が投資に見合った収益を上げるのは難しい。

といった現状認識と進むべき方向性を提示しています。日経記事とはかなり論調が異なります。筆者は全面的に日銀レポートの方が実態を示していると考えます。

日銀のもう一つのレポート「わが国の銀行におけるデジタル・トランスフォーメーション」も簡潔で正確な実態報告だと思いますが、大企業グループと連携した金融DXや中小企業向けプラットフォーム構築など、日銀としては思い切ったアイデアも提示していて興味深いレポートです。是非、ご一読をお奨めします。

 

                        (令和3年4月5日 島田 直貴)