振込み手数料、脱・横並びへ (銀行間手数料引き下げ)

令和3年3月19日付け日経新聞です。多くのメディアがほぼ同内容の報道をしています。全銀協は内国為替制度の銀行間手数料を引き下げる機関決定を行い、同日付でプレスリリースしました。40年以上固定してきた手数料を10月から一律62円とします。フィンテック決済事業者などからの銀行振込手数料が高いことがキャッシュレス化を阻害しているとの声を受け、公取が実態調査してコストを上回る手数料水準であり、仕向行と被仕向行との銀行間手数料に関しては料金の見直しが40年も放置されているなどと指摘しました。全銀協は手数料を下げる前提で見直し研究会を立ち上げ、関連業態と着地を探った結果を決定し、公表したということです。

筆者は30年以上も前から、内為はシステム処理コストだけで見れば一件あたり2円で良い筈で、その前後処理も自動化できると公言してきましたので、今回の引き下げは当然だと思いますし、まだまだ引下げ余地はあると思っています。今回、残念なのは、銀行業界が自発的に見直した結果ではなく、公取、経産省、金融庁に催促された結果だということです。大手銀は仕向取引が多いこともあり、だいぶ以前から引き下げたいと考えてきました。しかし、被仕向取引の多い地域金融機関には収入減となる為、見直しを反対する声も大きかったのです。一部、メガには全銀システムとは別の決済システム構築を創る動きもありました。全銀協は、原則として全員合意の意思決定方式なので、一部でも反対があれば、何も決定できません。

今回は、政府の要請と世論があるので、反対できる金融機関や業態はなく、どこまで下げるかが問題でした。興味深いのは、今回決定事項の中に、5年周期で銀行間手数料(正式には、内国為替運営費)を見直すことがあることです。会長行のMUFGがうまく押しこんだのだと思います。毎回毎回、外圧を使って見直し反対派を押さえこむ苦労と時間が避けられます。

全銀システム=内国為替制度の根本の問題はガバナンスにあります。そのことは行政当局も良く理解しているので、全銀改革の議論においては、必ずガバナンスの問題を提起しています。しかし、反対論が強くて検討すらできないでいます。幸いにもMUFGが全銀協会長を継続することになったので、もう一年大きな改革に取り組める流れとなりました。改革派や行政当局担当者は喜んでいることでしょう。

さて、今回の銀行間手数料引下げで国民経済的な効果が期待できるでしょうか?しばしば参照される現行手数料のモデル料金は、問題となる小口送金で送金額3万円未満だと300円とされます。これを仕向行が利用者から受取り、被仕向行に振込み金額に117円の手数料を乗せて送金しています。10月から117円が62円となります。仕向行はこの62円を前提に自行のコストや戦略を反映して独自の振込手数料を決めることになります。横並びが減ると期待されています。しかし、単純に考えれば利用者負担は300円が245円になるだけです。これで決済事業者が決済サイクルを月数回に集約しているのを毎日にするでしょうか?

62円とする算定根拠は、公開されていませんが、業界内で流布される資料によれば被仕向処理コストが約44円、全銀システム経費が5.75円、利益が約12円とされています。会員銀行の実態調査などの数値が利用されています。利益はコストに対して企業活動基本調査における売上高総利益率で計算していますから、銀行には仕向・被仕向の処理コストと全銀システム経費の継続した削減努力が求められます。しかし、コストだけでなく、送金処理の仕組みに制約がありますので、多頻度小口決済に関しては、全銀システムとは別に新たな仕組みとして創らざるをえません。それが来年2022年に稼動を予定する「ことら」でカバーできるか?かなり疑問です。全銀協も「ことら」は短期的な現実解と認識しています。長期的に利用できる現実解を急いで提示、構築しないと小口決済システムが乱立して、そのハブ機能を外国の決済システムに依存せざるをえなくなる危険があります。

新決済システムといっても技術的にはそんな難しい話ではありません。様々な処理ルールに関して当事者間の合意を得ようとするから話がまとまらなくなります。それでいてネットワーク効果を狙って参加企業を増やそうとする。では、勝手放題に新決済システムを立ち上げて、ディファクトに寄せれば良いかとなると、それも危なっかしい。現在の電子マネーやQR決済の実情を見れば、ディファクト戦略は日本では無理なようです。徹底した競争を避ける風土が邪魔します。

PayPayのように資金力に任せて加盟店や会員数を増やしても、優遇処置がなくなった途端にどうなるか?そうして時間が過ぎて投資を回収する前に新しいテクノロジーか決済手法が出てきてしまう可能性が高い。やはり意思疎通できる親密企業、それも相応の顧客ベースを持つ企業が連携して始めるしかありません。とにかくスピード勝負となるでしょう。それにしても日本は市場規模が中途半端というか充分ではなく、利用者は意思決定が遅いし、猜疑心が強い。典型的な例がマイナンバー・カードです。メディアは必要性や競争を煽りながら、個別サービスの短所をことさらに報道します。一般利用者は積極的になりきれません。サービス機能や還元策よりもメディア対策の方が重要なようです。

そう考えると「ことら」が、成功の条件を揃えているとは見えない。いかんせん遅い。メディア対策は何もしていない。B2Cではなく、B2B2Cのビジネスモデルだから、自分たちはお得意のB2Bだけ考えれば良いと思っているのでしょうか? 勝手に開発して後は従来の営業手法で決済事業者達にプッシュ販売すれば良いと思っているかに見える。プッシュ戦略を取る限り、決済手数料は急速にゼロに近づいてしまう。決済が儲からないとなると、決済サービスから撤退するか、付随サービスで収益化を図るかしかなくなります。振込み手数料を極端に高くして、振込なら他の銀行に行って下さいという戦略が一番合理的かもしれません。

 

                     (令和3年3月25日 島田 直貴)