グーグルのクラウド事業は3年で1兆5千億円の営業赤字

日経XTechの令和3年2月19日付け記事です。グーグルGCPが2020年度決算説明において、始めてクラウド事業の収益状況を公表し、同事業の売上130.6億ドルに対して営業利益は56.1億ドルの赤字だったということです。一昨年から3年間の連続赤字で合計146億ドルとなります。この業績には驚きました。IaaS同業のアマゾンAWSが2020年度売上454億ドル、営業利益135億ドル、営業利益率29.7%に対し、余りにも悲惨な結果だからです。クラウドTop5はどこも利益率30%以上を確保していると思い込んでいました。

売上がAWSの3分の一と規模のブレイクイーブンに至っていないからなのか?だとすれば、どの程度の規模がIaaSの採算ラインなのか?AWSの推移からおおよその目安は出せるでしょうが、元々、AWSはネット通販事業用のIT資産を外販化していますので、単純な比較はできません。GCPはAWSと熾烈な研究開発競争をしながら、AWSの頻繁な値下げ攻勢にも対応しなくてはなりません。現状の競争力比較では、GCPに勝てる要素が見つかりません。通常なら撤退を考えるのが米系企業ですが、本業にまだ余裕があり、クラウドの成長性を確信しているということでしょう。

世界全体のIT市場は4兆ドル弱です。その内のデータセンター関連と企業向けソフト市場約7千億ドルがIaaS事業者の狙う置き換え市場です。全部は無理ですが、30%をクラウド化するだけでも2千億ドルです。日本全体のIT市場の1.6倍に相当します。海外の大手IT企業は、グローバルアイで市場を見ます。対してわが国のIT企業の視野の狭さや低さは、海外大手IT企業一社にも及ばない。経産省担当幹部の顔が見てみたい。

アルフアベットのポラットCFOは販売チャネルの直接販売化を進めているとします。確かに代理販売チャネルは営業利益を落とします。外資系IT企業が日本でビジネスする時に、直販が難しく、パートナー制度と称する販売代理チャネルに依存しなくてはなりません。結果としてグローバルな営業利益目標30〜40%に対して日本での実績は10〜20%劣ります。日本法人のトップは毎週月曜の朝、本社トップからの叱責電話に1時間以上絶えなくてはなりません。ですから、日本での直販比率を上げる戦略を打ち出すのですが、成功事例はオラクルとSAPくらいでしょうか。両者には他にない製品があるので、価格でチャネルコストを吸収してきました。最近、風向きが悪くなりつつありますが。

上記はパブリック・クラウドでIaaSに関する話です。PaaSやSaaSの場合は、規模のメリットもさることながら、市場は細分化されます。しかし、ブレイクイーブンすると利益率はIaaSよりも数段高いことが一般的です。日本のIT企業は、Azure、AWS、GCPに規模も技術力も到底太刀打ちできませんから、グローバル大手のIaaSの上に、自社のPaaSやSaaSを乗せるビジネスを狙うことになります。特にSaaSであれば、中小零細のIT企業でも可能ですし、事実、既に多くのIT企業が事業展開しています。銀行などは、クラウド利用状況のアンケート調査に対して、活用中と記入するのですが、実態は役員室がSansanで名刺管理しているだけといった笑い話に事欠きません。

さて、こうした状況の下、わが国金融業界のITパワーとクラウド対応を考えると、なんとも悲惨な状況しか思い浮かびません。その原因は内製力のなさに尽きます。筆者は実戦部隊のない軍はない方がマシと言います。コストを抑え、最新技術を利用できるというのが、外部委託の理由づけに言われますが、そうなった例があるでしょうか?そもそもユーザー企業の本業に関するアプリ開発まで外部依存するとはどういうことか?A社は銀行ユーザーを多く抱え、銀行業務を熟知していると言う銀行をしばしば見ますが、「本業でもない外部業者の方が自行より銀行業務に詳しいなどと良く言えるものだ、銀行業免許を返して銀行代理店になるべきではないか?」と腹の中でつぶやいてしまいます。結果、業務に精通しない複数の担当者間を伝言ゲーム的に分業したウォーターフォール開発が行われる。それに要する費用、時間、労力の全てがITパワーに反映される。わが国IT産業労働生産性がOECD平均の60%しかなく、金融業も同じく60%という劣悪な原因はここにあるのではないか?ソフトは良く判った者が自分で作るのが、一番生産性が高いのは間違いない。開発規模の拡大に伴って分業化してきたが、今は分業を前提とした開発体制の作業ルールが目的化してしまっている。

業務を一番判っている人が自分で(または自分が率いるチームで)開発しデリバリーするのがベストだとすると、PaaSやSaaSの上に、こうしたアジャイルな体制で開発したアプリを載せれば良いとなります。このPaaSやSaaSにAWSやGCPを使っても良いですが、多少の問題が出てきます。クラウドベンダー・ロックイン、コストの妥当性、業界特殊要件の反映などです。最近、筆者は折に触れてわが国金融業界(地銀、信金、信組など業態別で構わない)専用のグループ・クラウドを構築する案です。クラウドの基本技術の多くはオープンソース化されています。ただし、大事なところには各クラウドベンダーのノウハウと技術が埋め込まれています。ですから、AWSやMSなどと提携しても良い。しかし、自分たちでガバナンスは確保する。そのグループ・クラウドの上に、各金融機関、各業態の業務精通者がアプリを搭載する。これが、これからの内製ではないでしょうか?金融機関の経営者にこの話をする時に、「いつまで観光バスに乗って寝ているのですか?自分で好きな時、好きな場所に運転したらよいではないですか?道路や車そのものを作る訳ではなく、それはクラウド業者やメーカーの物を使えばよいだけです。全行員運転手(プログラマー)化しないと、稼ぎは外部に持っていかれ、自分たちは何も変われませんよ。」と言っています。皆さん頷きますが、実行に移す経営者はまだ現れません。

 

                          (令和3年3月2日 島田 直貴)