マイクロソフトがAzureで内製化を強力推進(IT業界を壊す懸念)


日経xTECHの令和3年2月2日付け記事です。日本MSが2月2日にメディア向け説明会で、内製化をキーワードとするAzure販促強化策を発表しました。委託と多重下請けのIT業界構造に頼っていては市場ニーズを捉えられないとして、ユーザー企業の内製化を支援するそうです。クラウド利用する場合でも、クラウドSIerに依存していては、人材育成や開発スピード、コストへの悪影響から、企業のDX化は進まないとの認識があるとします。そこで、ユーザーが自分事としてDXを進めていく為には内製化が必要であり、一挙に変革することは無理としても、MSが並走しながらユーザー企業がアジャイル、DevOpsなどを取りあえず経験しつつ深化させたいとのことです。

筆者は昔からの内製重視論者です。理由は官庁のシステムを見れば判ります。金融界でも内製力のある金融機関とそうでない金融機関では、スピード、業務品質、業務独自性、コストに大きな差があります。この差はIT人材から出てきます。ただ、自力開発なら良いということでははなく、ビジネスやサービスに結びつく設計や開発技法、開発力、運用力など総合的なITケイパビリティを身につけるには、経験と実践が不可欠であることは自明です。

わが国のIT市場(通信を除く)は13兆円規模です。殆ど成長していません。むしろ減少する年が多い。昔、60%以上を占めていたハードは半分を切り縮小一途ですが、それを受託やクラウドなどが補っています。クラウドもユーザー企業が自力で使うことは少なく、クラウドSIerと呼ばれる伝統的な開発受託会社が請け負っています。つまり、ハード購入費がクラウド関連に変わっただけと言えるでしょう。この開発受託ビジネスが労働集約的で低生産性であることも周知の事実です。国内IT技術者の75%がベンダー社員という国は日本以外にありません。わが国は特殊すぎます。その結果が良ければ良いのですが、ベンダーロックインや技術革新への対応遅れなど弊害の度が過ぎます、経産省の産業政策(大昔にIBM対抗で乱立する国産メーカーを6社体制に再編したことを成功と考えている)の致命的ミスだと言うのですが、経産省の人達は自分に責任があるとは思っていません。今だに大手ベンダーを中核に据えて、25年の壁だとか他人事のような警告を発するだけです。IT人材不足についても、適当な計算式でX十万人不足だとか形式的な教育プログラムを提案するだけで、具体的な解決策を示せません。なら、自分でお手本を示してみなさいと言うと、自分達は政策を考え予算をつけるのが仕事だ(とまでははっきりとは言いませんが)と、実態はそういうことです。

金融に限ってもわが国のITレベルは、いつのまにか中国、韓国、シンガポール、台湾などに抜かれ2周遅れとなってしまいました。昔、我々が海外に視察に行くと下にもおかぬもてなしで質問漬けに会いました。今ではアポとるのも苦労しています。彼らには時間の無駄のようです。クラウドやAIなどの新技術は、ただ取り入れるだけでは何の意味ありません。使いこなす国と形だけの国では実効果と技術力に差が開く一方ですから、諸外国への遅れを取り戻すのは並大抵の努力では無理です。正直なところ筆者は国の施策としてのデジタル庁などには何も期待していません。個々の企業や組織の自助努力しかないと思っています。日本人は真似して改良するのが得意(本当かどうかは確認していませんが。)ですから、ベストプラクティスさえ見つかれば、真似することで一挙に改善できる可能性があると思っています。

それをMSが動いてくれるという記事ですので期待して調べてみました。残念ながら並走という言葉に現れるように、MSが主体者の役割を果たすということではないようです。これなら、PFNが発表した1500ケ所のAI塾で子供にデジタル教育を行なうという案の方が実効性が期待できると思うのです。

東日本大震災の時に、役所や企業がセールスフォースのPaaSを使って、極めて短期間にアプリを開発してシステム対応を行ないました。その時に活躍したのがエンドユーザーでした。業務さえ知っていればWebベースのシンプルなアプリなら簡単に作って稼動できることを実証したのです。これなら内製化が進められると喜んだ記憶があります。結果は、拡がりませんでした。なぜなら、エンドユーザーにはITは本業ではありませんし、他システムとのデータ連携に大きな手間コストがかかるからです。プロセス連携となると更に大変でした。欧米のようにアプリを単純に考えずに、やたら管理範囲を広げて整合性や統合性を追求するという習性はどこからくるのかと疑問に思ったものです。アーキテクチャを考えもせずに、やたらと問題を広げて複雑化する国民性は今でも変わりません。問題は単純化することで解決しやすくなると考える西欧とは大違いです。

MSの並走プログラムは、クラウドSIerを連携パートナーとして使って、AzureLIght-upというアジャイル開発、スクラム開発のハッカソンとCloudNativeDojoという2〜3カ月間の体験プログラムを低料金で提供することが柱です。一足飛びの内製化は難しいとのことから、まずは実践して顧客自身が自走できるようにするとのことです。役所の旗振りだけよりは前進ですが、筆者の経験からすると試してみる企業でも、試して終わりだろうと悲観的です。

そもそも内製力とは何か。何故、必要なのかを各企業が考え尽くす必要があります。内製の対象はコード開発と思う人が圧倒的に多い。コーディングは早晩、自動化されるでしょう。クラウド関連の技術革新で運用も全面自動化に向かっています。業務知識もデータモデリングとプロセスモデリングで設計(論理レベルにとどまるかもしれませんが)とルールベースで相当程度に整理できます。それらを全体としてまとめ上げるには、アーキテクチャ(全体、テクニカル、アプリケーション、データなど)スキルが必要ですし、急速に進化するテクノロジーの適用可能性を熟慮した実装モデルの立案力が必要となります。それができたら、内部でどこまで実装するか、外部にどこまで委託するかの判断となります。つまり内製力というのは、各企業のIT化を実現する為に自社内に持った方が良い経験スキルを蓄積することかと思います。プログラマーを集めても内製力にはなりません。

韓国の銀行で基幹系システムのリーダーだった人達と長時間話をしたことがあります。彼等は、日本の金融機関CIOと同様な知見を持っていますが、大きな差は、自分でやったことがあるかないかです。失敗した場合の教訓など深みが余りに違うと感じました。日本のIT管理者に経験がないと言ってしまうと、身も蓋もないのですが、今更仕方ありません。廻りを気にしないで、自社だけでもという気で進むしかないでしょう。でもそれが戦略なのです。クラウド化するくらいで戦略だなんて言わないで欲しい。

 

                          (令和3年2月4日 島田 直貴)