マイナンバーと預金口座ひも付け任意に


日経新聞の令和2年11月28日付記事です。政府はマイナンバーと預金口座のひも付け義務化を見送る方針だとのことです。コロナ禍における給付金支払いの混乱で、マイナンバーと口座を自動連動できれば、混乱が避けられたとの理由で、マイナポータルに預金口座を登録しておけば、正確迅速かつ自治体の負担を大幅に軽減できるとの考えで、口座とのひも付けを急ぐ方向となりました。その際に登録口座を一つにするか複数にするか、任意とするか、義務化するかという議論から、全口座を義務付けしてしまえば将来の課題も解決できるとの意見が強まったと聞いています。当然に、進まないマイナンバーカードの普及を進める意図もあります。

結局のところ、当面は給付金や児童手当てなどの支給に、銀行窓口やマイナポータルで任意の口座を一つ登録することにしたとのことです。登録は2022年度からを想定しているそうです。銀行の間では、この登録口座の奪い合いが起きるでしょうが、必ずしも個人がメイン口座を登録するとは限りません。2024年頃には、本人の任意で、複数の口座登録を可能として、相続や災害時の口座確認などを可能にする。並行して新規口座開設時には、現在の任意登録を義務化することを検討するそうです。

そもそも、給付金支払い手続の遅延という行政自身の失態を繰返さないという名目で国民や金融機関に登録手続の負担を押し付ける発想が不純だったということでしょう。金融機関が事務負担を嫌って反対の意見を述べたかどうかは聞いていませんが、政府内にも拙いと考える良識派がいたということでしょう。このコラムでも繰り返し主張していますが、マイナンバーについては、余りに行政視点ばかりが際立ち、利用者利便と都合への配慮がない。もっとマーケティングの発想を取り入れるべきと、このコラムでも主張してきました。韓国などは、マイナンバーに相当する住民登録番号を民間企業が認可ベースで連動させて、様々なサービスを展開しています。有名なエストニアもそうです、まさにオープンイノベーションです。それに対してわが国は、セキュリティを恐れ、一部政治勢力による国によるプライバシー侵害可能性の指摘に過剰なまでの配慮を加えて、日々刻々マイナンバー制度のUIもUXもレベルを落としています。

政府に金融機関口座を知られるのを嫌う層があるのは容易に納得できます。しかし、大方の国民は、知られて困るようなことはない。逆に考えれば、任意で口座登録してもらって、税務署は登録のない口座を中心に調査すれば良い。銀行は、マイナンバー未登録口座をDB化しておけば、多方面からの調査回答の作業を大幅に低減できます。この調査回答事務に要する銀行側コストは、地域金融機関でも数億円かかっているそうです。それを省力化できれば随分と助かります。登録口座には政府負担で金利優遇しても良いでしょう。

電子政府のインフラとしてのマイナンバー(カード、マイナポータル)がなかなか普及しない。その理由や対策は立法府と行政府も一生懸命考えているのでしょうが、キーソリューションが見つからない。マイナポイントでキャッシュレス25%還元といっても、上限が5千円での時限制度ですから、カード発行やマイナポイント登録で戸惑っている間に、期限が過ぎてしまいます。三密回避を要請しながら、何度も役所に脚を運ばせようとする中央政府の無神経さには、個々の国民だけでなく、地方自治体もあきれるばかりでしょう。

行政のDX化と行革が菅政権の中心政策の一柱になっています。具体的にははんこをなくすとか、データや書式の標準化が叫ばれています。共に、耳触りの良い、一見判り易い標語ですが、実効果は余り大きくない。なぜなら、作業が減るわけではないので、コストの過半を占める人件費は減らない。処理スピードもさして改善しない。作業、即ちプロセスを減らすことでした効率化は実現しないからです、三文判を押す手間を電子承認しても減るのは朱肉のふたを開ける時間くらいでしょう。政治家、キャリア官僚や学者で具体的な業務プロセスまで考えられる人は稀です。

これは、金融機関の事務処理合理化の長い歴史でも変わらぬ事実です。まずは、プロセスを減らすことが重要です。その為には権限規定も変えなくてはなりません。それを実行するのは極めて難しい。昔、それに成功した大手銀行がありました。その方法は、まず、人を大きく減らす。すると担当者達は苦しいから、不要なプロセスをなくすしかない。それから、現場を救うと称して当該業務を自動化する。即ち、折角整理したプロセスが元に戻ったり肥大化しないように、システムで枠をはめてしまうのです。人減らし、プロセス見直し、自動化の順番を間違えると効率化に結びつきません。

誰かが泣くだけの効率化は、穴だらけになります。今現在、働いている人達が、入社以来存在しているプロセスを変えるというのは、至難の技です。変えない理由はいくらでも列挙できます。変えると、こんな働きやすい環境ができます。達成感や幸せ感につながります。というBPRシナリオが必要なのですが、マイナンバーに関していうと、誰にもそうしたメリットを見出せない。最初からボタンをかけ違えたのか、今からでも修正が充分に可能なのか?少なくとも、現在の問題点を並べて、コロナ禍のようなイベントを利用して、一つづつ潰していく方法は失敗間違いないでしょう。行政だけでなく、金融機関も同じです。

 

                   (令和2年11月30日 島田 直貴)