東証障害 システム設定に不備


日経新聞令和2年10月6日付記事です。1日に発生した市場の全日全面停止に関して東証が障害原因を公表しました。銘柄名や基準値段など基本情報を格納するディスクが故障し、予備機への自動切り替えができなかった理由は、システム設定の不備だったということです。東証は更に検証を進めて、社外取締役4人で構成する調査委員会で原因究明と管理態勢などを調査するそうです。

この障害発生後、東証の説明があいまいで納得できないとするメディア記者から立て続けに、取材の申し入れがありました。コメントできるような事実の公表がないので、取材は遠慮させて頂きましたが、何でも良いからと言ってくる記者が何人かいました。東証が、まともに説明しないから、記者は情報や知見のありそうな人を捜して、そのコメントを載せます。それは憶測なのですが、記事では専門家の意見となり、多くの人はあたかも事実であると思ってしまう。東証がそれを恐れず、説明を後回しにできるのは、やはり独占的地位にあり、文句あるなら他の取引所を使ったら?と考えているのでしょうか?

記者たちの疑問は、2点に集約されます。第一は何故、予備機への切り替えができなかったのか?第二に、手動で切り替えれば午後には市場を開けたのではないか?会員証券会社との障害時連携の仕組みに問題があるのではないか?です。その通りだと思いますが、記者達には、「少しお待ちなさい。今、東証と富士通とで説明の中味を練っているから。恐らく、技術面では設定ミスという人的ミスとして、証券会社との連携に関しては、対応できない会員もあって、市場の混乱が見通されたと言うでしょう。」と伝えました。

社外取締役4名による調査委員会が更に調査するそうです。この調査結果は、金融庁への報告にも使われます。金融庁としては、東証からの直接説明でしたら、何故何故を繰返して、真の原因に突っ込んでいくでしょうが、独立社外取締役達(第三者といえるか疑問ではありますが)相手に、そうそう厳しい追求はし憎いでしょう。筆者もIT関連の訴訟で金融機関の手伝いをしました。毎回、笑うのですが、裁判官や弁護士が発言する時に「自分は文系出身なのでITは判らないのですが・・・」が枕言葉でした。

社外取締役でなく、純然たる外部を使わないのは何故かと聞けば、東証は「わが国資本市場の心臓である取引所システムを外部に開示することはできないから。」と言うでしょう。たかが、200万ライン程度の大きくもないシステムです。IT専門家であれば、全体を理解するのにさして時間を要しません。ましてや、今回は障害対策の仕組みと、関連するソフトの運用管理状況に絞れます。IT素人の委員にとって、障害対策関連の技術的説明を受けても、鵜呑みするしかないでしょう。その上で、落とし所を明示或いは暗示すれば、思い通りの調査報告書になるのではないか?金融庁のシステム検査官がその程度の報告書で納得する筈はありませんが。

筆者が始めて東証と接触した時のことは今でも鮮明に覚えています。1971年4月のことです。IT企業に就職して大手証券会社担当の営業になったばかりです。取引所内に設置する場伝プリンターが不調を続けました。技術者が静電気の強い場所でその影響だというので、大きなゴムマットを買って下に引いたりしました。そこに東証職員が来て、罵詈雑言を浴びせてくるのです。邪魔な奴だと怒鳴りつけようとしたら証券会社の課長が止めとけと言うのです。後で、なんで低姿勢なのかと聞きましたら、東証は大蔵省みたいなものでトップは大蔵事務次官OBだ。東証理事長は、日銀総裁と同等で民間企業が逆らえる相手ではないとのことでした。以来、私は東証との付き合いには消極的で、部門責任者となっても東証との組織的接触は避けましたし、避けられない場合は、部下ではなく自分が対応するようにしました。10年程前に、ある事案で東証と揉めた証券会社を手伝ったのですが、「全然、変わってねえや」 と思ったものです。ですから、富士通の今の苦境には同情しきりです。

東証は取引システム設計理念の第一に高速処理を上げています。富士通の技術者は顧客に従順で言われた要件を必死に守ります。その為のアクロバティックなソフト開発スキルは素晴らしい。(褒めてるわけではありません。筆者は顧客と喧嘩してでも技術者としての矜持を守るエンジニアが好きです。)障害させないことも重視しますが、それはハードの冗長化などでの対応です。今回は対象ディスクの電源を落とせば、高速処理用のキャッシュにあるデータが消えてしまう。キャッシュを使うのであれば予備機と二重書き込みすることが多いのですが、それはなかったようです。スピードに邪魔だと思ったか。

障害時の運用態勢ですが、会員制という限定された利用者との間でなんとでも調整できると思っているように見えます。今回も、複数の証券会社に再立ち上げしても大丈夫かと聞いたところ、混乱が予想されたので終日停止にしたと発表しています。ところが、大手証券会社などで、東証から質問を受けたという会社が見当たらないのだそうです。殆どの証券会社は注文の取り消し、再注文できる態勢ができているようです。銀行のシステムでは、それが当り前ですが。取引所としては、受注ログとその後の処理状況を確認すれば、各トランザクションに対して再立ち上げに必要な処理が把握できます。それも、当初の受付順に再処理できる筈です。そんなロジックも高速化に邪魔なのか。

自動切り替えの設定ミスという話にしても、設定を触ったのならテストをした筈です。したのであれば、テスト範囲に漏れがあったことになります。設定ミスでの障害といえば、メディアは何となしに納得してくれる。今回はどうでしょうか?記者達の東証に対する不信は相当に強いものを感じます。東証がそれに気付けば、ますます情報を出さないでしょう。悪循環となります。要は東証のトップ次第です。

東京の国際金融市場としてのイメージが悪化するとの意見があります。しかし、海外では今回の終日停止は殆ど報道されなかったそうです。日経の論説記事では、海外メディアにスルーされたことが寂しいと書いていました。国際的な金融市場となる為には、インフラ・システムの安定性やコストだけでなく、産業文化や独自性なども不可欠でして、隠ぺい体質は最も嫌われます。海外の金融関係者にとって、東京という地名からは、治安の良さとおいしい食事しか思い浮かばないようです。いっそ、ワーケーション・ベースの証券取引インフラを作れば良いかと思うのです。

 

                           (令和2年10月7日  島田 直貴)