振込手数料、少額ほど安く (銀行、来夏にも料金改定)


日経新聞令和2年9月30日付記事です。注目されている銀行間送金手数料の見直し案を紹介しています。全銀ネットが内国為替制度運営費を設けて、仕向行が送金額に応じた従量制で運営費を負担する計画だそうです。送金額が低いほど運営費を下げるので、小口送金などで顧客負担料金が下がる見通しとのこと。顧客負担料金は、各銀行が個別に判断します。来年3月までに具体的な詰めを終えて金融庁に認可申請する予定です。ただ、赤字取引となる銀行も予想される為、公金取り扱いの有料化を求める可能性や料金体系の複雑化を避ける為に、一律の値下げ案もあるとしています。

良く読んでも、判らない内容です。まず、銀行間手数料を全銀ネット経由で支払相殺するようです。仕向行から被仕向行への支払手数料を送金額に応じた従量制にする。その際に、小口送金の手数料を抑えるようにするというだけのことなのでしょうか?そもそも、全銀ネットに銀行が支払う手数料は、個々の銀行の取り扱い規模によって、一件当たり数円から十数円です。3万円未満を顧客が送金する時の振込手数料を300円とすれば10%にもなりませんし、現時点で見直し対象外です。要は、この300円に市場競争原理を入れるのか、仕向行と被仕向行の間の手数料(117円という例が使われることが多い。) を下げて、どれだけ利用者に還元できるのか。20%や30%ではとても魅力的とは言えません。

そもそも、3万円送るのに300円が高いのか?1%です。ノンバンクの決済手数料と同じ水準です。3千円送るのに300円なら確かに高いと感じます。送金額に対する率で考えるのか、金額帯毎に固定額を決めるのか?または、固定の基本料金と定率の従量料金を組み合わせるのかなど、銀行界としては手数料戦略を考える必要があります。その際に、ノンバンクなどの決済サービス戦略や今春から検討の始まった小口専用決済システム(全銀LITE)を想定した自らの決済サービス戦略を考慮することになります。全銀ネットという決済インフラにおける銀行間手数料という個別銀行の戦略が色濃く出る課題を業界として検討することに無理があるようです。取りあえず、今は、世間や政府がうるさいから、静かにしてもらえる程度の値下げ案(一部に他行決済から撤退する銀行が出るかもしれないが。)を出しておくというのが、業界としては大人の対応といったところでしょうか。

8月6日に3メガとりそな2行が、多頻度小口決済用に新たな決済インフラを構築すると発表しました。その後、新たな動きは発表されていません。むしろ、批判的な意見が報道されることが多い。曰く、20年前のJ-Debitでは到底インフラ機能を果たせない、Bank PayやJ-Coin Payはそもそも顧客需要を得られていないとか、J-Debitは、CAFISや全銀ネットを介するので、結局は安くならないとかです。ただ、この5行が、多頻度小口決済の新インフラを大手銀の立場から、決済サービス戦略の一環として、ゼロベースで考えているとしたら面白いのですが。

9月29日付の日経クロステックで、「MUFGとAkamaiの新決済ネットワークが始動」という報道がありました。両社の合弁会社Global Open Network Japanは決済ネットワークGO-NETを今年12月に本番稼動させるそうです。最初のペイメント事業者はグループ企業のMUニコスですが、来年3月までにクレジットカード会社4社が参加する見込みだそうです。同ネットワークは高速大量処理とグローバルネットワーク、そしてセキュリティが売りです。既に10万トランザクション/秒の処理能力を確保しており、世界最大のペイメントネットワークであるVisaNetの6万5千件を越えています。Akamaiネットワークは、秒100万件の処理技術がありますので、IoTなど超大量データの扱いも視野に入れています。IoTデータから直に発注を飛ばし、併せて支払処理まで済ませることができるかも知れません。

政府や学者は決済システムの相互運用性を強く要請していますが、決済インフラでは、更に多種多様なネットワークが出現しそうです。処理の堅確性、迅速性や利便性、コストなどで我々個人や企業、そしてペイメント事業者は決済インフラを選択することになるでしょう。当然、最適ルートを選別する為のツールが出現します。相乗り決済を代行する事業も出てくるでしょう。第三者には楽しみなことですが、当事者には複雑怪奇な戦略が求められます。やがて政府が相互運用性を強制するでしょうから、決済インフラもペイメント事業者も常にサービスと価格の競争にさらされます。技術を磨きながら、新サービスを低コストで提供し続けなくてはなりません。それが国民経済に資するかどうかは判りませんが。

事業として考えるならば、決済の処理チェーンにおいて、どこを握るのが一番ビジネスとして良いのか?それが決済サービス戦略の要となります。Paypayなどが展開しているように、エンドユーザー・インタフェースを握るのか、それともスーパー決済アプリで、その上層を狙うのか?まさに、次の次を睨んだ戦略が不可欠です。決済がコモディティ化して価格勝負だけになるとすれば、自社で参入するよりも、他者に競合させておいて、その上澄みを取るのか?規制が競争における差別化ポイントに大きな影響を与えますが、規制機関にそこまでの戦略を見通す能力があるのか?まだまだ、試行錯誤が続くでしょう。

そういえば、コロナ禍でフィンテック企業の業績に大きな影響がでているようです。特にオンライン融資関連が厳しい。海外では、ユニコーンが揃って業績悪化にあえいでいます。身売りが相次いでいます。国内でもマネーフォワードが開始一年でオンライン融資から撤退を決めました。環境は刻々と変わります。最終利用者は、何をもって利用サービスを選別すべきか、少なくともメディアの情報だけに左右されていると、後悔する結末になりそうです。利用者にとっては、ロイヤリティを無視したサービス選択を続けることになります。

 

                          (令和2年9月30日 島田 直貴)