金融庁が規制緩和とDXを推進(今年度行政方針を公表)


日経新聞の令和2年9月1日付記事です。金融庁が8月31日に公表した令和2年度金融行政方針を紹介する内容です。金融庁は「コロナとの戦い、コロナ後の新しい社会を築く」と題して発表しています。この日経記事では、@新型コロナへの対応A金融資本市場の機能強化B郵政グループの不正販売改善状況の監視の三つを本年度(令和2年7月から3年6月)の柱と紹介しています。金融庁の公表資料も3つの柱となっていますが、@Aは日経記事と同じですが、Bは、郵政の監視ではなく、金融庁そのものの改革であります。

郵政の販売態勢に関するモニタリングは、行政方針では、@のコロナ対応の中で(5)持続可能なビジネスモデルに関する金融機関との対話において,業態別の論点が記述されており、その一つとして郵政に触れているだけです。記者が郵政について取り立ててクローズアップする意図は判りません。しかし、事情を知らない読者の中には、郵政が悪どい販売を行なっていたので、金融庁が見張ることが大きなテーマになっていると思う人もいるでしょう。記者が郵政に対して再発を警告しているのか。

同じ記者ではなさそうですが、9月5日付の日経朝刊に「青森銀とみちのく銀の統合案」と題して報道していました。両行は否定していますが。業界筋では、かねてより可能性の高い組合せとされています。気の早い記者は、青森銀のNTTデータ地銀共同とみちのく銀の日立NEXTScopeのどちらが残るのかと聞いてきます。筆者は「どっちでも良いじゃないの」と答えます。本音では、本業をこなせるなら安い方が良いなどと、あきらめの考えなのですが。

同一県に複数の第一地銀があると、その競合は公私に渡って極めて厳しいものとなります。スポーツとは全く異なります。ましてやラグビーのノーサイドとは程遠い。その両者が経営統合や合併などで、一体化するのは至難のことです。まだ、隣県の他地銀の方が融和し易い。メガのように規模や収益力の強弱だけでは決まりません。といって、対等を重視すると、全てが中途半端になります。金融庁は、その辺りは充分に認識していますので、なんでもかんでも統合などとは考えていない筈です。政治家は判っていないようですが。

金融行政方針は、金融庁の金融機関向けの政策や指導監督の方針そのものですから、金融機関の経営陣と企画部門は綿密に公表資料を分析します。自社が検査官などから指摘されそうな拙い点、経営施策に盛り込んだ方が良さそうな点を列挙して経営に反映させます。特に、明示されていないが、暗示的に記述されている事項を重点的に分析します。筆者は、大昔に大蔵省の関連団体に出向している時、他省庁のレポートで金融に関わる資料の分析をさせられました。大蔵省文書課長の経験を持つトップから懇切に役所文書の読み方を指導してもらいました。出向が終わって、IT企業に戻ってから2、3年は役所文書の書き方や読み方の癖が抜けず、上司から、お前の文書はややこしいと叱られたものです。

今回の行政方針では、持続可能なビジネスモデルという表現が随所に出てきます。遠藤長官の時代から、強調されていましたが、今年は更に重要視されているようです。業態によって、ステークホルダーも経営環境も異なるので、具体的なサステナブルの意味や施策は行政方針に明示されていません。各行の説明と資料を受けて、検査官達との対話で深堀しましょうとなります。資料の提示は強制できますし、虚偽の報告には罰則があります。金融庁としては、数多くの事例をデータを元に検証しますから、そこから得るノウハウ、知見は、月額4百万円のコンサルなど足元にも及びません。検査官からすれば、酷い金融機関を叱るよりも、素晴らしい金融機関の事例を学んで、それを他の金融機関に紹介する方が楽しい。良さそうな経営計画に何か障害があれば、その解決や支援もしましょうというのが今の金融庁でして、ドラマ半澤直樹のような意地悪なだけの役所だったのは昔の一時期のことです。しかし、金融機関の被害者意識はDNA化されており、どんな小さなことでも、欠点を指摘されるようなことを恐れます。ですから、どのあたりをついてくるかと事前に把握して、隠すなり言い訳のロジックを作っておきたい。金融庁改革に関連して、筆者は、高い評価の銀行には預金保険料率や税率の優遇ポイントをあげたらいかがかと提言しています。

大手銀行との対話論点として「外貨資金調達における流動性リスクなどの実態を適格に把握する。」とあります。これは、単にグローバル経済がコロナで混乱しているからだけではなく、一部の大手銀にリスクが予見されているからでしょう。一昨年あたりから、このリスクは指摘されており、少しずつ改善されてきたので、もう公開文書に明示しても構わないということなのかも知れません。

地域金融機関のビジネスモデルに関するモニタリングの項では、「将来に渡って健全性を確保していくことが必要であり、経営状況やガバナンスにつき深度あるモニタリングを行なう。」とあります。つまり収益性に懸念のある先はしっかりウォッチするということです。その上で、「改正金融機能強化法や独禁法特例法などの活用、システム等の業務基盤・管理部門の効率化を含めて経営基盤の強化にどのような方策があり得るか、幅広く検討を促す。」とあります。サラっと読めば、ただ読み流ししまいますが、官僚文書の中で一言触れているだけのことが、後に大変な意味を持つことがあります。キャッシュレス化やデジタライゼーションの項でも、昨年来言われていたことが、簡潔ながら列挙されています。今年と来年は、地域金融機関、特に地銀にとっては大型台風が絶え間なく続きそうだ。そうか、行政から見ると、金融改革に残された時間がいくらもないのだという印象であります。

 

                                (令和2年9月8日 島田 直貴)