金融庁が「ITガバナンスの調査結果レポート」を発表

金融庁は令和2年6月30日に「金融機関のITガバナンス等に関する調査結果レポート」を公開しました。https://www.fsa.go.jp/news/r1/20200630.html

事務年度末ということもあり、29日と30日には多くの広報が行なわれました。メディアも当レポートを報道しませんでした。今月、セミナー等でお会いした方々でこのレポートに気付いた人も殆どいませんでした。金融ITには重要なレポートなので、閲覧をお奨めいたします。

昨年6月に従来のシステム関連行政方針の刷新版として公表された「ITガバナンスの論点」に従って、同庁がアンケート調査やヒアリング等で調べた結果をとりまとめています。また、今年7月からの令和2年事務年度における、金融IT行政の対話論点や検討事項が記述されています。同時にサイバーセキュリティと金融機関のシステム障害に関する分析レポートも公表されています。当コラムでは、ITガバナンスのレポートについて概要をご紹介します。

レポートは大きく@地域銀行における共同センターと自行のIT戦略・ITガバナンスのあり方 Aメガバンク・大手生損保等のグローバルITガバナンス Bデジタライゼーション等による金融業の変化に合わせたモニタリングのあり方について記述しています。

今回、AのグローバルITガバナンスが主要テーマとして上げられたのは、大手保険会社が海外事業拡大の一環としてM&Aを積極化させていますが、海外でのシステム開発で大幅な開発遅延やコスト超過事例が続出したことから、実状を調査しITガバナンスの見直しを強く要請したようです。国際化に遅れた保険業界では、保険システムのグローバル開発に実績のある日系ITベンダーが存在しない為に、開発トラブルが急増したのでしょう。メガバンクの海外システム関連で大規模な開発トラブルが続きました。それが、ようやく収束しそうだと思ったら、保険業界でも起きていたとは気付きませんでした。

@の地域銀行のITガバナンスですが、金融庁の関心はもっぱら共同センター問題に集中しているようです。地域銀行(地方銀行と第二地方銀行)の9割以上が共同加盟ですから、仕方ありません。特に共同化による柔軟性の欠如とコスト高止まりは同庁が以前より懸念する問題であり、昨年秋に地域銀全行にアンケート調査を行いました。その結果をFISC調査による信金・信組業界の数字と比較しています。

その結果、対預金量のシステム関連経費率は、地域銀が0.18%、信金が0.12%、信組が0.11%でした。規模と逆相関となっています。業界全体の共同化を行なう信金・信組に対して共同化グループが乱立する地域銀ではスケールメリットが出ていないこと、共同化の対象範囲が違うことが原因だと推測しています。確かに対象範囲は業界によってかなり異なります。加えて、地域銀では、個別行のニーズも共同化範囲に相当程度反映されます。共同を主催するベンダー(複数)によれば、個別行のニーズをある程度反映させながら共同運用するには、加盟行数10行が限界との説が多い。それ以上になると、採算ライン内で各行ニーズを聞いていられないということです。かなり納得できる説です。信金などのように、全て共通仕様とすれば、開発・保守費用は相当程度、抑えることができますが、競合の厳しい地域銀としては、営業面でのダメージが大きくなります。

金融庁が特に懸念するのが、収益規模の小さな地域銀行ほどIT関連経費の負担が大きいことです。行政関係の人からしばしば、クラウド化するとか、もっと安い共同に移るなどの方法は取れないかと質問されます。移行には相応の費用がかかることや、適当な移行先のないことを説明してきました。当レポートでも、共同の契約期間中の解約金や移行に必要な現行共同の仕様開示に膨大な費用が発生する等、ベンダーとの契約条件を問題視する記述があります。

デジタル化の前提となる新技術については、POC等は行なうものの実運用に至らないケース、クラウドも多くの地域銀が利用中としながら、実態は単純OAのSaaSや採用パッケージがパブリック・クラウド上で稼動するなど、自社スキルで実用化している訳ではないことが明らかになっています。

こうした問題認識から、今後、金融庁としては、スケールメリットを確保する為にも業態を跨った共同利用を検討する、ベンダーとの契約関係のあり方を調査する、デジタル化人材の確保・育成を推進するなどの必要性を強調しています。更に、基幹システムのスイッチングコスト低減・外部拡張性充実に向けた研究を行なうとも明記しています。基幹系システムの柔軟性やコスト高止まりに関して、行政としては具体的な解決策を追求すると意思表示です。

決済システムのケースと同じで、金融機関の料金・コストやサービス・レベルを問題として追求していくと、それを提供するベンダーの問題が浮き彫りとなります。ベンダーに解決策がなければ、全く別個の解決策を採ることになります。ただ、当件では時間が余り残っていません。コロナの影響で地域銀経営の持続性に残された時間は短くなりつつあります。一般事業会社であれば、自助努力して駄目なら清算となりますが、社会インフラとしての銀行はそうはできません。後手後手しておきながら時間切れに持ち込み、誰かに救済されるのを待つ作戦は、当該銀行もそのメインベンダーにも許されません。特にベンダーの矜持というか会社の品格が問われているのです。地域銀が信金や信組の共同に加盟するとか、金融庁が外部委託先としてのITベンダーを直接行政指導するのか。筆者は、信用金庫が地域銀を救済合併すれば、取りあえずの問題回避はできると思っています。

 

                       (令和2年7月10日 島田 直貴)