銀行手数料下げ (埋まった外堀)

日経新聞令和2年6月23日の記事です。安倍首相が16日の未来投資会議で振込手数料の引き下げの具体的方策の検討を指示したことを受けて、銀行振込のサービスについて議論が激しくなっています。そもそもが、4月22日の公取レポートが発端のような見方もありますが、手数料高止まりと決済システムの銀行独占については、随分と昔(30年以上前)から散発的ではありますが、議論が起きていました。ですが、今回ほど盛り上がらなかったのは、社会的にそれほど大きな問題ではなかった為です。筆者が35年くらい前に、「銀行振込はヤマトの宅配よりも手間がかからないのに、料金も時間も比較にならない。現金を宅配で送った方がはるかに便利だ。」などと講演で話すと、皆さん、ニヤニヤしながら、そうだ!と言いますが、それでおしまいでした。この記事でいう、外堀とはなんのことか?記者は掘る場所を間違っていないか?が当コメントの主旨です。

今回は多方面から銀行送金の料金やオープン性に対して疑問が頻出しています。政府の審議会などでフィンテック企業が、銀行振込に関するクレーム意見を発したことが発端で、公取の調査が決め手となったとされますが、こうした不満やニーズは昔からあって、国家戦略としてのキャッシュレス化やデジタライゼーションの推進において、銀行決済の閉鎖性が大きな障害となってしまったという流れです。銀行界は、その流れを把握できずにいて、「外堀は埋まった。今後はきれいな負け方が重要になる。」(金融庁幹部の発言とする日経記事)という事態となってしまいました。公取のレポートや全銀協の小口決済サービスに関する検討開始については、4月24日付の当コラムでコメントしています。

http://www.fin-bt.co.jp/comment787.htm

メディアの報道を見ていると記者が決済の業務フローやそれをシステム化する際の技術的要件について理解できていないと思うことがしばしばあります。例えば銀行間手数料が40年間も変わっていないとか、その手数料が高すぎるとかです。筆者からすると、そんなことは銀行間の問題であって、外部がとやかく言うことではないと思います。実際問題、顧客が支払う振込手数料は、消費税抜きで400円、600円から少しずつ下がっています。まずは、消費税を免除にすれば良いではないか。そもそも二重課税ではないか?首相も誰かに言わされたとしても、碌に知りもしないことを、雰囲気に乗って手数料が高いなどと言わん方が良い。マスク無料配布と同じ恥をかきかねないなどと。

ところが、銀行界もNTTデータ(全銀システムやCAFIS、ANSERのベンダー)は後手後手に回って、まさに外堀を埋められてしまった。経産省だけでなく金融庁も、社会のデジタル化を進めるにあたって、小口決済の低料金化とオープン化は避けられないと考えています。今は、その方法として小口決済システムをどう構築したら良いかを考えている。その際に、今、利用者が保有する銀行預金口座を活用したい。その為に、全銀システムを使いたいという袋小路に入ってしまう。預金口座を使うのは良いが、全銀システムを前提におくなと言っても納得してもらえない。

そもそも全銀は閉鎖的な会員制度を取っているから、安心正確安全を維持している。取引件数も1日平均675万件しかないからこそ、様々な安全策をとることができる。その675万件といっても総振や口振などバッチ伝送の取引が多い。しかるにキャッシュレス決済などと称して、割勘清算など身元不確かなP2P決済まで通されたら、送金額を越える処理コストになってしまう。銀行を潰したいのか?単純な数百円決済など余所でやれというのが当たり前です。毎度のことですが、決済の利便性、コスト、安全性を確保するには、決済額によってシステムを分ける必要がある。先進諸外国は昔からそうしています。超大口(例:1億円以上)、中口(例:10万円とか100万円以上)、小口の三つです。小口を超小口(千円以下など)としても良いですし、100円しか送らないけど、絶対に間違いなく速く送りたいのであれば中口決済を使うなど、運用はなんとでもなります。顧客がそれだけの手数料を払えば良い。わが国では、大口の日銀ネット、中口の全銀ネットという世界に誇る決済システムがあります。その全銀ネットを破壊してはいけません。困るのは企業や相応額を間違いなく送りたい人達です。大学の入学金をスマホ決済で送金したい親もいるでしょうが、それは自己責任です。

では、小口決済をどうするか。電子決済代行業者と希望する銀行が集まって新しく決済システムを作ればよいことです。不動産や宅配業者など一般事業会社が参加しても良い。システム開発は、難しいことではないでしょう。ブロックチェーンを使いたければ使えば良い。パブリック・クラウドを使うのもよし。業務仕様をできるだけシンプルにすれば、コストは桁違いに抑えられる。開発ベンダーもNTTデータや大手ベンダーなど高いところを使う必要もない。10人ほど気の効いた技術者を採用して内製しても良い。とにかく、銀行界の歴史的なやり方を一切、忘れて、マルチアカウントで借方貸方の仕訳機能をコアとする。各アカウントは顧客指定の銀行口座やフィンテック・アカウント、スマホ番号などと紐付ける。それに口座確認やAML機能を載せる。全銀システムをコピーして、小口決済専用ネットワークを作るなんて考えたら、その時点で自滅する。ゼロベース、リスクベースで考えることです。首相の指示など、動こうとしない人達に強制する方法も時には必要ですが、決済だからと一緒くたにすると、とんでもないことになります。

                                         (令和2年6月29日 島田 直貴)