テレワークの実態調査(日経BP総研)


日経クロステックの令和2年6月9日付報道です。日経BP総研イノベーションICTラボが、テレワーク実態調査の結果をシリーズで公開しています。

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01307/060500003/?i_cid=nbpnxt_pgmn_topit

回答者の仕事の内、80%以上がテレワーク可能との回答が45.5%、50%以上が35.8%だったそうです。20%以上は11.3%、20%未満は6.5%なので、81.5%の人は仕事の半分以上がテレワークで可能だとなります。テレワークが困難な仕事の代表が研究・開発や物流など、試験設備や運搬設備が不可欠な仕事で、逆に向いている仕事は設計やイラストなど創作的な作業だとします。

翌日6月10日には、テレワークの生産性への影響を報じています。生産性が上がったとする回答は12.1%で、変わらないが24.8%.つまり下がったのが75.2%です。60%未満にまで下がったのは11.7%もあります。

メディアは、コロナ緊急事態宣言の最中に、テレワーク推奨を大合唱しました。街中の専業主婦らしき中高年の女性も、テレワーク万能のようなことを言う状況でした。自分の仕事はテレワークできないなどと言うと、いかにも原始的な労働者というイメージが出来上がりました。この調査レポートは、その点で冷静な報告をしています。特に生産性が下がったとする正直な回答が、75%と多いのは興味深い。

筆者の経験でも、ちょっとした資料が手元になくて作業が止まるとか、誰かと相談したいと思っても相手がいない。こうして中断するだけで優に2、3割の時間が消えてしまいます。紙で蓄えた資料(ファイリングしているがインデックスは頭の中。これがプロフェッショナルの生命線です。)をスキャンしておけば良かったと悔やんでも手遅れ。今からデジタル化する気力も時間もない。引退した大先輩が数カ月かけてスキャンしたという話を聞いて、「その後、見ることがありますか?」と質問したら苦笑いしながら返答なしでした。

メディアではハンコが悪の根源みたいな報道が連発されます。都心の人出が20%程度の時に出勤した人がTVの取材に「ハンコもらいに出社する。」などと答えるのを見て、やらせ報道だと感じたものです。ハンコなどは、決めごとですから、簡単に対応できる。実際にハンコの塊とされる金融界の本部管理部門ではテレワークが大活躍しています。(大手信金以上の大手が中心ですが。)むしろ、自宅での作業で、スペースや家族との間合いに苦労したようですが、これは、業種を越えた障害でしょう。筆者などは、空気感が仕事モードになれないのが辛い。ドラッカーは、会社空間と生活空間、そして地域空間が現代人に必要と言っていました。

80%の作業がリモートワークですむとすれば、我々は週に1日、出社すれば良いという計算になります。シフト制をとってフリーアクセスにすれば、会社の事務スペースは8割を減らせることになります。賃貸オフィス業は大変だなどと、風吹いて桶屋を夢想します。実際はそこまではならずに、仲間との協業や接触を求めて、出社する人も多いでしょう。その時に、集まるグループのインフォーマル・リーダーが、組織の実験を握るでしょう。

インフォーマル・アナリシスという調査メソッドがあります。仕事で困った時、誰に何を相談するか、5つ答えて下さいとアンケートをとります。それを集計すると、特定少数の人に集中します。その人の今の地位やミッションとは関係ない結果が出てきます。特定の業務やスキルを組織としてカバーできていないことや、地位や職種に関係なく少数(数%)の人が,会社を動かしているのが歴然とします。テレワークでは、この隠れた組織行動を置き換えることはできないでしょう。少人数のフラット組織である企業は別ですが。

対面をカバーする為にWeb会議システムを利用する例が急増しました。従来から本格的なTV会議システムを導入している金融機関でも、Zoomなど簡便なツールを一斉に採用しました。やむをえず、筆者も使いだしたのですが、確かに簡単だし、便利です。でも、実のある会議は無理かと思います。発言するのはごく一部の参加者で、大半は顔を映すだけです。インフォーマルな会話は殆どありません。取締役会か審議会なら、これで良いのでしょうが。

会社務めをしているころ、喫煙コーナーに行くと、他部門の責任者も集まります。そこで、かなり密な相談や情報交換が行なわれます。戦略や人事は喫煙コーナーで決まるなどと言われて、非喫煙者までが喫煙コーナーにやってきました。今は、全面禁煙ですから、ベンディングマシン・コーナーが代わりになっているそうです。ソーシャル・ディスタンスが解除される時に、こうした密な会話空間は元に戻るでしょうか?テレワーク空間で一種多数決的な情報共有と意思決定になるのでしょうか?それとも、ビッグブラザーがすべてを決めて、それをWeb会議で通達するようになるのでしょうか?社員数の多い企業は、組織をどうやって維持するのか?少数プロフェショナル集団によるフラット組織が、RPAなどを使って定型業務を自動化し、創造的な業務に特化すれば付加価値を高められるでしょうか?無駄やノリシロの有益性が消えるのか?

まさに、壮大な社会実験が始まりそうです。ゼネラリストvsスペシャリストの組合せではなく、スペシャリティを備えたゼネラリストでもあるプロフェショナル集団を、どのように集めて、支援してチーム化するか。金融機関のようなプロフェショナルによるサービス産業は、組織・人材を再編成する時代に向かうような気がします。フィンテックなんぞどうでも良いから、ポスト・コロナを描いて、それに合わせたDX展開が必要なようです。ゼロリセットするか、改善を積み上げるか?それともノアの方舟を創るか?

                               (令和2年6月12日 島田 直貴)