銀行のCRM (北国銀行)

日経金融新聞11月13日号の記事が、北国銀行のCRMシステムを紹介しています。新CRMシステムは、来年の8月以降の稼動予定ですが、それに先立ち「ニーズシーズシステム」という商材情報システムを来年4月に導入予定だそうです。新CRMでは、行員のスケジュール・交渉履歴・商談進捗状況・クレーム情報などを共有化するそうです。ニーズシーズシステムでは、不動産売買・求人・販路開拓などの情報を登録して、CRMと連動させる予定になっています。

ここ10年近くの間、大手金融機関が繰り返してCRMの導入を行なってきました。ただ、聞きますとCRMの定義は千差万別で、統合顧客DB、SFA、インバウンド型コールセンター、アウトバンド型コールセンター、ダイレクト・チャネル、DBマーケテイング、ワントゥーワン・マーケテイング、果てはビジネス・インテリジェンス等々です。地銀の場合は、地域密着の強みを活かすとの題目で、地域情報と連動させることが多いようです。それで競争力が強化されたという話は聞きません。時々、成功利用例を聞きますが、「では、何件の事例があり、銀行業績にどう反映し、顧客のロイヤリティがどれだけ上がったのか?」と聞くと、回答が得られたことはありません。このような数値的成果を求めるようなものではないのかも知れませんが。

当該記事を見ると、デモ画面が写真で掲載されていますので、既に数ヶ月の開発作業が行われているのでしょう。来年8月の稼動を考えれば、一年以上の開発期間です。開発費は優に億円単位になると思います。しかし、150万顧客の属性や取引情報を画面で確認することで、どれだけ顧客のロイヤリティを向上できるのかは、はなはだ疑問です。CRM導入済みの他行の人に聞いた話では、結局は欲しい情報が手に入らないと言います。では、欲しい情報とは何かと聞きますと、それは顧客と状況によると答えます。顧客と状況をタイプ分けして組み合わせれば、欲しい情報のカテゴライズが出来るではないかと聞きますと、それは顧客との対話の流れで変わるから無理だと言います。結局は、情報をエンティティで考えるのではなく、プロセスで考えるから網羅性や柔軟性をもったシステムができないのでしょう。先例にもとづくプロセスではなく、エンティティでものごとを考えるスキルと習性を銀行員は学ぶべきです。IT化は、それを支援するツールとなります。

CRMにおける顧客情報は、基本情報、属性情報、取引情報に大別できます。基本情報と取引数値情報の多くは、業務処理系の一つないしは複数のシステムから、電子的に入手できます。ただ、取引推移を分析できる程の履歴情報は保存されていないことが多いようです。最大の課題は属性情報や交渉履歴です。ITで自動的には収集できませんので、顧客と接触する都度、担当者が入力する必要があります。その情報は、主に入力担当者が見ます。PCを叩くより、頭に入れたほうが早いので、結局は入力しなくなります。忙しいのに、入力するインセンティブがないのです。

データの未整備なコンピュータほど使えないものはありません。

銀行経営者は、CRMを導入すれば、自動的に顧客情報が蓄積されて、自分も管理職も担当者も便利になって、営業力が増すと思い込んでいるようです。KKDセールスの経験と感の部分がITで全面的に置き換えられる訳がありません。登録された情報をもとに、上司が部下に行動指図をすることで隠れた度胸を引き出せる筈がありません。

営業活動は、対人活動という一種アートの世界です。これを、体系的に強化したいのであれば、まずは営業担当者のミッション&ロールを再定義しなくてはなりません。顧客との接触回数や契約件数だけでなく、プロセスを管理・評価する制度が第一です。次に、営業活動のプロセスを整理する必要があります。顧客のタイプや、販売目標に応じた折衝ステージやそれを客観的に評価できる管理項目と基準が必要です。そして商談成立の確率を算出するロジックを組み立てます。こうした一連の流れを使い込むことで、より精緻で使い勝手の良いシステム(ITだけでなく、仕組み全体)に進化させていくことが大事です。できたCRMとチャネル・ミックスを適合させることが、銀行のデリバリー戦略になります。

しかし、残念ながらCRMはIT部門の管轄です。営業活動を体系化するには営業部門、評価制度を見直すには人事部門などが主管部門です。縦割りの組織構造では、とても調整しておれないでしょう。ITベンダーとしても、こんなヤヤッコシイことを整理していたら、自分のビジネスが遅れてしまいます。こうしてIT一人歩きのシステムを繰り返して作ることになります。どちらが、国民経済や銀行経営に有益であるかは明白ですが、ハコモノ至上主義のわが国には、それでよいのかも知れません。要は、経営のITリテラシー次第となります。