マイナンバー活用、海外と差


令和2年5月16日付けの日経新聞記事です。10万円給付の申請にマイナンバーカードがあれば便利で、マイナンバーと預金口座を連動していれば、早く現金が入手できる。しかしながら、現在のカード発行率は国民の15%程度であり、今回のパンデミック対策におけるマイナンバー不活用が行政サービスのスピードを大きく阻害しているという論調です。海外(米国やエストニア)などと比較しながら、マイナンバー制度の普及を進めるべきで、その為には利便性を実感できる改革が急務としています。

筆者も当コラムでマイナンバーについて、しばしば意見を書いてきました。番号が漏れたとしても、その番号から芋づるで個人情報が流出するような仕組みにはなっていない。仮に漏れても困るような内容はない。政府が番号を使って思想統制しようとするなら、政権打倒運動に参加すれば良いし、税務調査に使っても別に困らない。ただ、守秘義務を持たない組織などが使うとなると絶対に抵抗するが、今の仕組みではそれも不可能といった内容です。

マイナンバー制度に肯定的な筆者ですが、まだカード発行申請はしていません。理由は手続が面倒なことと、カードを入手しても使う時がないからです。行政は、自分達の業務効率に有益なのでカードを作って下さいなんて、主客転倒なアプローチではなく、もっと顧客志向のマーケティングをしないと普及する筈がないと、折ある都度に発信しています。グリーンカード以来、国民背番号制度については、革新を自称する人達によって、国による思想統制に悪用されるという反対論があり、それに、過度に配慮した保守系政権が必要以上の制約を盛り込み過ぎたことがあります。この制約が、カード発行手続や各種サービスとの連携を難しくしているのです。

10万円給付において、マイナンバーカードがあれば、給付申請に便利だと聞いた人達が、カード発行申請の為に役場へ押し寄せて3密を発生させています。地公体によっては、来庁者に郵便の方が速くて便利ですと書いたビラを配っているとか。ドライブスルーで申請書の書式審査だけを行なって、書類を預かるケースも報道されていました。ネットが一番便利なのですが、なんせ役所のシステムは頻繁に止まる。下手すると間違える。それでも、国民の多くが、10万円貰えるならと、突如、マイナンバーカードに前向きになる。極めて判り易い話ですが、QR決済還元サービスと全く同じです。第二波、第三波があるかも知れませんが、現金給付が今回限りだとすると、カード発行申請ブームは一時的なもので終わるでしょう。

自民党はチャンスとばかりに、預金口座との紐付けを法制化する検討を始めたそうです。アベノマスクと同じで、可能になる頃には必要がなくなっているでしょうが。法制度というのは、後追いにならざるをえないので、次の機会に利用できるということで仕方ありません。預金口座との紐付けは、任意であれば、2018年から始まっています。昨年末で3メガの全預金口座数1億超の2%程度で番号登録されています。口座開設や何かの窓口手続の際に、銀行が登録を勧める(半強制)のが登録理由のようです。預金者の積極的な意思ではない。制度設計の段階では、任意紐付けを開始して3年ほどしたら、義務化を検討することになっていました。自民党の義務化検討は、当初予定に沿ったことでもありましょう。

取引口座との紐付け義務化は、証券取引で先行しました。2018年末までに全口座のマイナンバー登録を義務化していたのですが、一向に登録が進みません。昨年6月時点の登録率は、41.4%だそうです。困った政府は、期限を2021年末に延期しました。筆者も登録していませんが、特段、証券会社からの督促はありません。取引額が些少なので納税義務がないからでしょう。こんな人が全証券口座の半分強だということになります。この例を見ると、現金給付をインセンティグとする預金口座紐付け作戦は、タイミングを失っています。政府与党が、次にどんなインセンティブを発案するのか楽しみです。コロナ対策に巨額な補正予算を組む中で大きな手を打てるのか。

銀行にとっては、預金口座とマイナンバーを連動させる為の手当ては済んでいます。漏えい防止にも様々な対策を施しています。今の2%登録率が100%に向かうことで、システムの容量対策や紙ベースの登録処理体制などに負担は増えますが、見える範囲ということでしょう。それよりも、マイナンバーカード発行率を高める仕組みを創って政府に貸しを作るとか、カードと連携したサービス開発を進めるとか、今の内に構想を固めておくことです。フィンテック事業者などのセキュリティ・レベル(一般的なイメージですが)では、国民が番号登録してくれることは期待できない。その点、銀行は信用されています。政府のように、後追いばかりだと、気がついた時は手遅れとなります。マイナポイントでのキャッシュレス25%還元は7月に始まります。次のマイナンバーカード発行ブームが来そうです。

                            (令和2年5月18日 島田直貴)