銀行送金手数料下げ検討(全銀協、公取の報告受け)

日経新聞の令和2年4月22日付記事です。公正取引委員会が21日付で公表した報告書「フィンテックを活用した金融サービスの向上に向けた競争政策上の課題について」を受けて、全銀協は金融インフラに関する適切な料金体系を探る予定で、利用者の負担する手数料が下がる可能性があるとの内容です。公取は昨年秋から、銀行とフィンテック事業者間のAPI接続に関する交渉において銀行サイドに独禁法に抵触する恐れはないか調査を始めました。それは、今年5月末を期限とする銀行API接続に関する契約交渉が進展せず、各種審議会等でフィンテック事業者から、銀行の手数料要求が高すぎるとか、契約条項における責任分界が厳し過ぎる等、銀行の優越的地位の乱用を疑わせる指摘が相次いだことにあります。公取としては、銀行の違反行為を摘発するというよりは、自分達がフィンテックや銀行送金の仕組みと料金体系について知見がないので、まずは実態を調べるということでした。銀行(26行)、フィンテック事業者(7社)、IT企業(8社)、家計簿サービスなどの利用者(2千名)からヒアリングやアンケート調査を行なった結果を公表したものです。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/apr/200421.html

当初、公取は銀行対フィンテック事業者という構図で、国策としてのフィンテック推進と消費者利益を視点とする調査を考えていましたが、調査の過程で、銀行対決済インフラ提供ITベンダーが重要な構図として新たに浮かび上がったようです。当然のことです。報告書を見ると、新しい視点や事実は見当たりませんが、オープンAPIに関わる銀行界のシステム課題やコスト構造、利用実態などが提示されています。これはこれで、我々がなかなか入手できないというか、銀行界が公にしない数字が、多く盛り込まれています。銀行のコストや手数料に関する不透明性が繰り返し指摘されています。これまで外部からの指摘を馬耳東風と流してきた銀行界としては、耳が痛いというレベルではなく、何らかの対応をせざるをえないことになります。

詳細レポートにおいては、いくつか銀行の優越的地位の乱用、取引拒絶・妨害、差別的取り扱いの疑いがある行為も例示されていますが、法令違反と断定してはいません。こんな噂もありますといった程度。個別銀行の行為や業界としての慣習などで問題となりうる点を@独占禁止法に抵触する可能性があるA競争政策上、留意すべき事項B政策提言等に区分して指摘しています。そのどれも、厳しく指摘するというよりは、気をつけて下さいといった程度です。今後もウォッチするので、改善する気がなければ強制度をあげますよという感じです。

報告全体の印象からすると銀行とフィンテック事業者の関係では大きな問題となる点は上げられておらず、両者間のマナーのある姿勢が伺えます。それに対して、銀行と決済インフラのIT事業者の間で競争原理が機能していないという強い指摘に傾いています。特に、全銀ネットとCAFISに対しての厳しい見方が随所に記述されています。その原因にベンダー側の姿勢もありますが、銀行のガバナンスの欠如と努力不足が指摘されています。これらは、随分と昔から言われてきたことですが、公取から公の場で指摘されるということは、銀行界と銀行ITを寡占する大手IT企業の不作為というか、努力不足が公認されたことになります。

今回の公取の姿勢は、最終的利用者の利益が基本なのでしょうが、少々、フィンテック企業に肩入れが過ぎるようです。国策としての未来投資戦略にフィンテックサービスを推進するとあるので、それを是としているのでしょう。その点の勉強不足は明らかです。例えば、家計簿サービスの利用者で銀行口座保有者数は約500万人と推計しています。その内、9割は無料サービスを使っています。その6割は無料でなければ使うのを止めるとします。有料でも月額300〜500円です。年間25億円前後の売上しかない産業です。銀行界が負担するAPIシステムの保守費にもなりません。これが国が推進すべき新規産業なのか?家計簿サービスではなく、もっと別の総合的な個人向けポータル・サービスで、口座情報などごく一部だとすれば、今回の手数料問題などどうでも良い話になります。

送金手数料も銀行間送金手数料やCAFIS手数料が長年変わっていないとか、コスト見合いで高すぎるなどとしています。例えばCAFISによるNTTデータ社の営業利益率が10%と高いとしますが、GAFAなど米系IT企業に比べれば、低すぎるとも言える。公取が私企業の利益率だけで、価格が高いというのはいかがなものか。(筆者は、ベンダーの努力結果との見合いだと思っていますが。)要は、競争政策などと言いながら、金融ITにおける競争原理をいかに拡充するかとの視点が全く触れられていない。競争政策の当局者としては、的を外し過ぎではないか。他ベンダーへの変更意思やその場合の阻害要因などを銀行から聞いてはいるが、だからどうすべきかが全くありません。せいぜい、既存ベンダーからの仕様提示が難しいといった程度で、これもどう直すべきかがありません。せめて、経済産業省の産業政策責任を問うくらいはして欲しい。

預金口座情報は誰のものかという問題も大きいのですが、これの深堀もありません。銀行は銀行のものだとする考えが大半だが、お客が要求すれば提出するとします。利用者は自分の情報だから自分のものだと言っています。最新の入出金情報と残高は両当事者のものだが、それ以前の情報を銀行が無償で提供する義務はないとする程度の取りきめが必要ではないか。さもないと、この問題は繰返される。または、銀行が個々人に口座情報を渡すから、それを自分でフィンテック・ベンダーに送付して家計簿管理すれば良いではないか。本来はこれが筋である。PCやスマホにそうしたアプリを載せれば、今回のような問題は解決できる。利用者はそれが面倒だから、フィンテックを使うのであり、それだけのメリットがあるのであれば受益者負担すべきだろう。無料でなければ止めるということは、その程度のサービスだということで、国民経済的な価値はないということになるのではないか。

今回の公取レポートは、フィンテックによる金融サービスについて公取の目線からの全体整理という価値は大いにあると思いますが、根本的問題は公取の担当外にあることになっています。銀行界の保守的、否、変化忌避文化だとか、ITガバナンス欠如とか、新興産業に対する上から目線だとかです。全銀ネットの銀行間手数料が長年見直しされておらず、百数十円と高いといっても、それが独禁法上なんの問題があるのか?深堀りされていません。当初、公取事務局長が発言したように、「我々には経験も知見もないので、まずは実態を勉強させてもらう。」と勉強した過程で感じたことを並べたのが、今回のレポートかと思います。金融界と名指しされた大手ITベンダーは、疑念を持たれた事項につき、改善すべきは改善し、場合によっては公取と相談しながら、改善を阻害する相手方に対する法的手段を含めた対応を考える契機になればと思います。全銀協が少し、手数料体系を見直した程度で、お茶を濁すのであれば、この問題は繰返されるでしょう。

                 (令和2年4月23日 島田直貴)