クラウドネィティブ開発に遅れ ( IT企業の技術者に反乱のおすすめ )

日経コンピュータ2020.3.19号「乱反射」欄の記事です。日経BP北川氏の論説です。日本企業のクラウド化が進まず、マイクロサービス、コンテナ、サーバーレス、API連携、DevOpsなどを使うクラウドネィティブ開発が一向に進んでいない。関連スキルを持つ技術者は数千人(筆者はそんなにいないと思っていますが。)大企業の3分の一はこれら技術を知らない。IT業界は、従来のウォータフォール開発でのSIビジネスでやっていけるので、クラウドネィティブに移ろうともしないと書いています。

ガートナー社は日本のクラウド利用は米国から7年以上遅れていると指摘する。IDCは「世界の企業は60年かけて5億本のアプリケーションを稼動させている。今後、23年までに新たに5億本が作られ配備される。その9割がクラウドネィティブになる。その中には、DX化と合わせて、考えもつかなかったサービスや企業が登場する。その原動力は50倍のスピードを持つクラウドネィティブである。」と言うそうです。5億本だとか、50倍だとかが数字的に正しいかどうかは知りません。ただ、マイクロサービスなどが、アプリケーション開発と更新のスピードを大幅に改善(革新か革命か?)する可能性は大です。

北川氏は面白い事例も紹介しています。三菱マテリアルが、Javaでのアジャイル開発に挑戦した時の話です。社内外60人でコンサルの指導を受けながら開発したそうです。頻繁な機能更新が可能でSIベンダー3社の見積りの25%のコストで済んだ。プロジェクト終了後、SIerの技術者は、「もうウォータフォールはやりたくない。母体のIT企業に戻りたくない。」と言ったそうです。この話にも、いろいろと前提があるのでしょうが、技術者達が昔の技術や手法よりも、新しい技術と手法に進みたがるのは自然であり、至極当然であります。その方が、国民経済的にも極めて有益です。

経産省いうところの“2025年の崖”で言えば、日本企業の8割が崖から転落する可能性があると北川氏は言います。筆者は2割も助かるのかと思うのですが、特殊な事例や主張を並べているだけだと思う人もいるでしょう。北川氏は賛同できることを引用しているだけで、全体の主張はご本人の考えでしょう。読む我々は、自分の経験などに基づいて、その主張が正しいか判断すれば良い。

米国では、1990年代後半にWebサービスが注目されました。日本では、Webで展開する新サービスのことと思われました。「当社でもWebをやっている。」と言いました。2000年代に入ると、米国でマイクロサービスやコンテナの考え方が出てきました。大手IT企業に加えてベンチャーや個人がチャレンジして成果物をOSS公開しました。そして2010年代には、多くの技術者が関連技術を身につけています。今日では米国ではクラウドファーストとは、クラウドネィティブのことだそうです。冒頭の、日本はクラウドで米国に7年遅れという話は、その通りです。スキルで言えば、20年遅れと言って良いでしょう。

金融機関で大規模なプロジェクトやDXを始める際に、CIOやCEOが社員達に計画を説明する場に立ち会うことがあります。「XXベンダーに委託してオープン系システムを創るので、コストが安いし、寿命が長い、レベルアップも早くなる。」と説明して皆さん納得します。筆者は、それは余りに時代錯誤と言いたいのですが、じっと我満して黙っている。これも結構辛い。大手金融機関は、クラウドファーストと言います。AWS、Azure、GCPを使えばクラウドファースだと思っている。アホか、ただのダブルロックインじゃないか。と思っても口にはしません。説明するだけ無駄なことが多い。そもそもユーザー企業の中に、実働部隊がありませんし、それを指揮する実戦経験者がいない。

最近、BaaSと称して銀行勘定系を更改、新規開発する計画が相次いで発表されています。その銀行や受託ベンダーなど関係者の話を聞くと、共通する問題があります。ユーザー、ベンダー双方がクラウドネィティブで開発することを合意しているのですが、それぞれの役割・責任分担が明確になっていない。加えて、双方ともに、相手から期待される役割を果たす為のスキルも意欲も持ち合わせていないことがある。思わず、大丈夫かと聞くべきなのですが、大変ですね頑張って下さいと別れる。メディア・ニュースとは大違いのことが多すぎる。

グローバルIT企業の業績を見ると、クラウド事業の成否が業績を大きく左右しています。IaaSトップのAWSは年間1兆4千億円もの設備投資を通じて、毎年、数十の大規模な新サービス、数千の機能改善を提供しています。日本IT企業が全社束でも到底太刀打ちできません。石油と同じで国内になければ輸入するしかない。原油から何を創るかが勝負です。米系クラウドを原材料として、付加価値の高いアプリケーション、サービスを創れば良い。

しかし、現在の日系IT企業にそうした考え、実力を持つ企業が見当たりません。各社、相変わらず、派遣事業に頼っている。ビジネスモデルを変えて、収益力を改善するなどと言って20年を越える。米系大手の営業利益が20〜30%に対して、良くて5%とか7%で自慢しています。根っこの問題は、ユーザー企業側に、内製力がないからだと思います。だから、産業としての競争原理が働いていない。何も全て内製化しろとは言いません。少なくとも、新しい技術を理解して、内外のスキル保有者を集めて、開発管理できるようになるべきです。ITを武器として見れば、その武器を命中率60%の傭兵に丸投げして国を守れるのかということです。ユーザー企業自身の労働生産性はOECD平均の60%を越えることができないことを意味し、それでわが国の金融機関はやっていけるのですか?ということです。

アプリ開発の生産性に有効な技術は何かというと、今は、マイクロサービスです。そのインフラ技術の多くはOSSとして公開されています。それをユーザーが自分でインテグレートできれば良いし、ベンダー提供のサービスを利用しても良いでしょう。要は、自社ビジネスを支えるサービス・アプリケーションくらいは、自分で考え、自分で作るべきだということです。作ったアプリをコンテナに乗せて外販しても良いし、必要なサービスをオンデマンドで安く入手できれば費用も時間も大いに助かる。これに遅れれば、比較60%の低労働生産性が40%とか30%とかに下がる。致命的なハンディキャップとなります。

IT企業に働く技術者の皆さんへのお願です。武漢ウィルスでテレワークしている今がチャンスです。ご自宅でOSSを参照して、マイクロサービスやコンテナを勉強して、自分で何か作ってみて下さい。副業を認めるIT企業も出てきましたので、小さなサービスを受託開発するなどアルバイトすれば更に勉強になります。そしてから起業して下さい。または、転職して下さい。これが、今回テーマとした「反乱のおすすめ」です。

クラウドネィティブの技術には、まだ、様々な課題や制約があることは事実ですが、その解決や枯れるのを待っていると、IT先進国からの遅れが更に広がるだけです。超保守的な金融業界では、こうした挑戦をするケースは稀でしょうが、金融機関は誰かが旨くやれば、一斉に真似します。DXで経営改革しようとする金融機関もあります。クラウドネィティブの技術者が働く場所は金融業界にたくさんあります。自主防衛を目指す金融機関を見つけて下さい。

 

                     (令和2年3月19日 島田 直貴)