銀行融資伸び悩み (法人取引とフィンテック)

日経新聞の令和2年3月6日付記事です。全国銀行融資の伸び率が1月に2.2%と下がり、青森、秋田、山形、静岡、奈良、山口、佐賀の7県では前年比マイナスになったそうです。日銀統計に基づく報道です。7年振りの不調に、金融緩和政策による資金需要が一巡したとの見方がある。中小企業の破綻件数も増加傾向にあり、更に新型コロナによる経済への悪影響などで、信用コストが増えるリスクが高まるでしょう。加えて、資金需要の低迷は、金利の低下に結びつきます。既に、1%未満の貸出が331兆円と全貸出額の67%にまでなっているそうです。記事では、私募債など資金調達の多様化が融資鈍化の一因であるとか、中小企業の需要を掘り起こしても利益になり憎いといった見方も紹介しています。

銀行業界の経営課題はトップラインでして、最大の収益源である法人向け融資が規模も利益率も下がることは、その課題が更に悪化することを意味します。ここ数年、フィンテック、金融デジタライゼーションといったIT活用が注目されていますが、法人向け融資でのIT活用は、新しい動きが殆どありません。筆者は、フィンテックの対象分野は、中小企業取引、富裕層取引(主に高齢者が対象となる)、個人向けローンの順に優先付けすべきだと主張して来ましたが、メディアが煽るのは、若年マス個人向けのスマホバンキング(入出金や明細照会で銀行収益にならない。) ばかりです。結果、銀行は、これを優先します。若年層の銀行離れには「将来を考えるのも大切ですが、その前に衰弱死してしまう。」と言うのですが、それに賛同しても実行する銀行はありません。本当に妙な業界です。

ITベンダーにとっては、少量多種の法人向けデジタル・サービスは商売にならないから、ビジネス・テーマになり憎い。せいぜい、AI融資審査とか称してPOCをやる程度です。これは営業活動というよりは、広報活動としか思えません。取引ログや外部データを使ってAI審査をやっても、その精度は、従来の財務データによる統計的予測と大差ありません。極言すれば、月末の預金残高を目で追っておけば、似た精度で倒産を予見できるという事実が何を意味するのか。

「銀行融資がGDPを越える先進国は、日本以外にない。IT化とグローバル化は、必ず対GDP比での銀行融資額を減らすことになる。今から、融資以外の資金調達手法を中小企業に提供する戦略を打ち出すべきだ。」と言い続けています。それが、フィンテック最優先分野に中小企業を上げた理由です。2月27日付の日経新聞Analysisに一橋大の上杉教授が「中堅・中小の資金需要 刺激を」という寄稿文を載せていました。

ポイントとして、@20年前の予測(日米の学者による共同研究)よりも銀行借り入れ依存度は更に低下している。A中堅・中小企業の依存度の落ち込みが顕著B金融機関は貸出手法の創意工夫が必要ということです。目から鱗の指摘がいくつもあります。銀行借り入れ依存とは、企業部門の総資産に対する銀行借り入れ額の比率です。20年前と比べて、その比率は35.7%から18.5%へと大きく減少しています。総資産額が35%増えているのに、銀行借り入れは、445兆円から312兆円に下がっています。この下がり方は尋常ではありません。

資本金10億円超の大企業の依存率は、27.7%から16.6%に下がっていますが、借り入れ額は159兆から153兆と微減です。対して、資本金1千万〜10億円の中堅・中小企業では、42.6%から20.7%と半減しています。借り入れ額は、286兆から159兆から44%も減少しています。総資産は、15%弱増えていますから、20年前の依存率のままだとすれば銀行界は、160兆円もの資金需要を取りこぼしていることになります。筆者の感覚よりも、遥かに速く、中堅・中小企業の財務戦略が進化していると言えそうです。18年度の法人企業統計調査では、中堅・中小企業の現預金残高は160兆円で大企業の70兆円を大きく上廻っているそうです。道理で、預金ばかり増えて、融資が伸びない訳です。

上杉教授は、こうしたトレンドに対して銀行は、コミットメントライン融資やコベナンツ付き融資を増やすなどして、中堅・中小企業の資金需要を刺激すべきだと言います。資本金1千万未満の零細企業の金融機関借り入れは48兆で依存率39.2%です。市場規模が小さいし、与信コストも高いですから、クラウド・ファンディングなどで対応すべきでしょう。実際、信金・信組では取組みを進めています。要は、中堅・中小向けをどうするかです。リレバンや事業性融資などは、メディア受けするかも知れませんが、上記トレンドからすると、伝統的預貸ビジネスの範疇です。

経産省は、SCCC(supply Chain Cash Conversion Cycle)を以前から提言しています。これはサプライチェーン取引の調達から売上回収までのサイクルを短縮することで、運転資金の効率化を図る考え方です。政府は2020年までに5%改善する目標を立てています。産業界は、総論賛成ですが、各論に置いて多くの課題が指摘され、採用が進んでいません。一番の課題は安価で簡便なシステムだとされます。それよりも、サプライチェーン関係企業の全てが歩調を合わせるなど全く非現実的です。金融EDIと同じことです。金融界を動かすには、またまた、業法による制度案件とするしかないのか?

コミットメントラインやコベナンツ融資は、SCCCのような複雑で多様な仕組みは必要ありません。個別の金融機関で実行可能です。リスク管理や契約条件の整備などは必要ですが、その前提となる情報としては、何をどのように集めるのか?会計クラウドなどを通じたモニタリング・サービスが肝となりそうです。会計士、税理士などとの協業も必要ですが、金融機関は既にその態勢が出来ています。取引先の中小企業などと組んで全体スキームを設計するプロジェクトを立ち上げるのが早道ではないでしょうか?IT面での難しさは全くないと思いますが。

 

                       (令和2年3月9日 島田 直貴)