地域銀が新社会人にスマホ取引推進

ニッキンの令和2年2月21日付記事です。地域銀行で若年層向けにスマホ取引を推進する動きが広がっているという内容です。今春のキャンペーンでは、無通帳口座やアプリ登録を促す銀行が多いそうです。足利銀行、北陸銀行、静岡銀行などが、ギフト券やキャッシュバックなどを500円とか1千円贈るそうです。無通帳化すると年250円程度のコスト削減になり、顧客接点の拡充にもなるという狙いです。

そもそも、窓口への来店客は毎年5〜10%減少しています。替わりにATMを使うのですが、ATMは顧客との双方向接点として弱い。顧客ロイヤリティが下がってしまう。スマホ・バンキングを推進したいのですが、これが思うように進まない。理由は簡単です。ネット銀のようにATMや振込手数料が余り安くならないからです。既存の優良顧客とのバランスも考える必要があり、新規参入銀のように、やたらと低料金化ができません。とはいえ、デジタル化の流れに沿ってスマホ・バンキングを普及させることも急務です。そこで、新入社員が給与振込口座を開設する時を狙うことになります。

給振口座は、勤務先の取引銀行に開設するでしょう。勤務先としても、取引関係のある銀行の方が、いろいろとありがたい。人口の6割以上を占める大都市圏以外であれば、どうしても地域No1地銀に口座開設することが圧倒的に多くなります。筆者が務めた企業は、100社以上の銀行と取引があったので、社員が自由に給振銀行を選択できました。変わった先輩がいて、法人取引中心の日本興業銀行に口座を開設しました。何かと不便だったと思うのですが、本人は興銀がメインバンクだと自慢していました。日銀がデジタル通貨CBDCを直接発行するようなことになれば、給振りや公共料金などの口振も受けることになるでしょう。日銀はそんなことをしないでしょうが。

現在は、どの銀行も個人口座数に対するスマホ・バンキングのアクティブ利用率は5%未満です。口座開設の時にネットバンキング利用契約をセットにするなど拡販に努めていますが、実質的な利用率は漸増といったところです。窓口やATMとのサービスに差がないからです。米国のような小切手というキラーアプリもありません。発展途上国と違って支店は近いし、ATM網は発達していて、誰でも口座が持てる。こんな国は日本くらいです。自慢しても良いことなのですが、将来の枷となる恐れもある。結局は、種々の優遇策でネット利用促進を図るしかないのですが、この方法は本質的ではなく長く続く筈がない。ネット専業銀行も、それを知っていますから、急いで差別化戦略を展開しようとしています。この点は、既存銀行と大きく違う。既存銀行は周回遅れです。

先日、ネット専業銀行の業績や戦略を比較調査したのですが、住信SBIネットやソニー銀は、スーパーアプリを戦略的サービスの柱としているようです。グループ内の銀行、証券、生保、損保、クレジット、送金事業など金融関連サービスだけでなく、旅行、教育、外食、小売、健康、ハウジングなどと統合したサービスを提供し、それにコンサルを付加するという構想です。(コンサルといっても、一般的には中立ではなく、特定商品サービスの販売支援を兼ねるので、この2行の場合もそう考えて良いでしょう。)金融庁は、近く、包括的金融仲介業を制度化する予定です。ネット銀自身が包括代理店となるか、グループ内に包括代理業者を設置するか、動きが出てくるでしょう。

この場合、スーパーアプリは包括代理業者が運営管理するかも知れません。スマホ上のアプリは、あくまでユーザーインタフェースです。バックに商品やサービスに関わるプロセス(勘定処理や手続処理など)、DB、知識ベースなど商品サービス提供企業のシステムが存在する。スーパーアプリのバックエンドと連携先のシステムをAPIで繋ぐことになります。APIを単純なインタフェースと位置付けると、提供できる商品サービスは、画一的単純なものに限られます。それでは、継続的な差別化になりません。利用者の時々のニーズ・シーズに適した組合せとカストマイズが必要となりますが、それをエッジで行なうか、APIがアプリケーションを持つか。欧米系のアプリケーション・パッケージでは、APIといってもアプリケーションにインタフェース機能を持たせてマイクロサービス化したものが多い。

住信SBIネットやソニー銀は、勘定系の全面更改を計画しています。いずれもクラウド上でBaaS化するとしています。BaaSといっても、定義が定着していない中で日立や富士通が勝手に標榜しているのかと思うのですが、両行ともに外部との業務提携のインフラとして考えている様子が見えます。ソニー銀などは、昨年10月に勘定系から総勘定元帳を分離してAWS上に財務会計システムとして移行させてしまいました。こうなると、銀行勘定系オンラインと呼ぶ必要はない。業務系オンラインと海外一般の呼び方にできます。まさに、ポスト三次オンです。

フィンテックがデジタライゼーションに吸収されつつ、対象サービスが拡大していきます。その原因は、銀行が提供するサービスの多様化です。その一方でチャレンジャ−バンクが設立され、ネオバンクに参入する企業が増えようとしています。顧客接点を制覇しようとして、携帯通信事業者などが金融仲介業に参入してくるでしょう。美辞的に言えばエコシステムなのでしょうが、スーパーアプリの覇権争いそのものです。その競争において、自社ポジションをどう位置付けるのか、自社アプリとDBをITアーキテクチャの中にどのように組み込むのか?表面的UIとしてのアプリで競争しても一発芸人で終わるでしょう。システム・アーキテクチャがビジネス戦略のコアとなろうとしています。ビジネス、テクノロジー、ITアーキテクチャを戦略的に考えられる人材が欲しくなります。

                     (令和2年2月25日 島田 直貴)