大手証券、企業投資を拡大

日経新聞の令和2年1月30日付記事です。大手証券が自己資金で企業投資(出資)を拡大しているとして、大和証券、野村、SBI、マネックス、ゴールドマンなどの動きを紹介しています。単独、または、提携でファンド会社を設立、そこ経由で地方企業や事業承継などに投資します。投資額は数百億から1千億程度です。投資先からの配当やIPO収益を目指します。背景には、委託手数料収入が2018年度で5130億円と手数料自由化前の4割弱になっていることを上げています。減少した手数料収益7千億をリカバーするには、余りに規模が小さいですが、とにかく収益源を増やしたいということなのでしょう。

総合証券会社の収益源は大きく4つです。売買仲介、自己売買、M&Aなど投資銀行業務、そしてアセットマネジメントです。売買仲介とアセットマネジメントは比較的収益が安定しており、自己売買と投資銀行業務は、経済状況や市況の影響を受けて、業績が大きく振れます。できれば、売買仲介とアセットマネジメントで固定費をカバーして、経営を安定化させたい。それが、預り資産重視のビジネスモデルだったのですが、なかなか思惑通りにいきません。仲介手数料は日々低下して最近ではゼロというケースも出てきました。そこで、自己資金を自己売買ではなく、企業向け投資に振り向けようというのが、この記事の内容です。証券会社もビジネスモデルの改革に四苦八苦しています。

1月24日付日経新聞「大機小機」に「資本家でなくなった銀行」という表題の面白いコメントが載っていました。戦後のわが国銀行は、単コロという疑似エクイティを供給してきた。メインバンクとして企業の業績不振時に融資は劣後性を持ち、政策株からのキャピタルゲインも得た。人の派遣などプライベートエクイティ機能も果たした。要は単なる金貸しではなく、企業にとって資本家の機能を提供してきた。銀行を通じて、日本経済全体をインデックスファンド化していたとも言える。それがバブル崩壊後の経済低迷により、エクイティ性貸出をエクイティ・デット・スワップせざるをえなくなり、資本家としての機能を放棄した。銀行界の現在の苦境は、マイナス金利だけでなく、本質的な構造転換が起きているからだとする見解です。非常に判り易く、納得のいく節だと思います。

先進国で間接金融残高の対GDP比率が100%を越える国は日本だけです。ドイツを除けば、各国は50%以下です。その理由として、かつて日本の銀行融資はエクイティ機能を持っていたということで理解できます。情報化の進展もあり、資金の供給、需要における情報非対象が激減しますから、直接金融、市場型化が進むのは、自然節理です。これは、20数年前に始まった、金融自由化の背景でもありました。単純に考えれば、わが国銀行融資総額は、GDPが伸びない限り、今の半分になる。その上にマイナス金利ですから、融資中心の銀行が苦しむのは当たり前ですし、これは一過性でもない。

デジタライゼーションが、全金融機関にとって生き残り戦略における合言葉です。顧客接点にスマホを組み込み、価値のありそうもない決済データを掻き集めてデータドリブンだとか騒いでいる。何か違うのではないか?そんなものは枝葉末節の話で、ビジネスモデル変革などと言える代物ではないだろうと感じています。金融サービス業は法人取引のエクイティ化を図り、マスリテールはフル・デジタル化するのが、判りやすい。ビジネスモデルは複雑にすると必ず失敗します。システム開発と同じで「シンプル・イズ・ベスト」です。昔は、「KISS」(Keep It Simple,Stupid)と言いました。

エクイティ・ファイナンスへのニーズがあるのは、中小零細企業でしょう。大手中堅企業は、すでに実施していますし、大手銀行G、証券Gがついています。小規模企業の資金調達においては、無担保で低利、迅速な調達が求められます。そんな都合の良い調達手段はないので、今は銀行融資とリース、ファクタリング、制度融資などを組み合わせています。証券会社は、このセグメントにファンド経由で参入しようとしているようです。遠からず、証券化手法を使って、リースや売掛債権だけでなく、POファイナンス、クラウド・ファンディングなども手掛けることでしょう。このマーケットは、数十兆円あります。そして今の金利は5〜10%ですから、ブルーオーシャンそのものです。

何故か、銀行はこのセグメントに注力しようとしません。リレバンだとか称して、廻りくどいことを繰返しています。顧客企業のキャッシュマネジメント、資本政策サポートを通じて、資金利ザヤを大きく改善し、手数料収入、キャピタルゲインを得るには、金融商品機能の品ぞろえ以外に何が必要か?それを考え、他社に模倣されない仕組みに仕上げることが重要です。その仕組みに、デジタル・テクノロジーを組み込むことで、ローコスト、パーソナライズ、ベスト・サービスを実現できないか?

少し、マスリテール戦略を離れた方が良いかもしれません。小企業向けエクイティ・ファイナンスで稼げるようになれば、その利益でマスリテール事業に成功したデジタルバンクを買うなど簡単ですし、近道ではないか?望む姿から逆算して、今、何をやっておくかを考え尽くして、シンプルに整理し、素早く実行して修正することです。

                     (令和2年1月30日 島田 直貴)