カカオバンクと日本のチャレンジャー銀行

韓国でIT関連の仕事をする友人が「カカオバンクがとにかく面白い。凄い勢いで利用者を増やしている。」とカカオバンクのスマホアプリを見せてくれました。子供向けのアニメのような画面が並んでいて、ハングルですから、何もわからない。こんなものが?と思いながら、いろいろなメニューを見せてもらっていると、変動金利の預金サービスではリアルタイムで利息取得額がグラフで履歴表示される。その臨場感というか、ゲーム感は確かに楽しめる。代表的なヒット商品は「26週間貯金」だそうで、毎週1千〜1万?を増額貯金する自由積立預金です。1万?から始めて毎週1万?ずつ増額して、最後の残高は350万?(30万円強)です。増える実感を楽しみながら半年で30万円貯金できる。週単位で積立額を増やしていくなどが、日本の定額積立と違うところです。

カカオバンクはカカオ社(韓国の人口の9割が利用するカカオトークの運営会社)が10%出資し、韓国投資金融持株(58%)、KB銀行(10%)などと共同で設立しました。2017年7月27日のサービスインです。開業5日で口座開設100万、2カ月で390万口座という驚異的なヒットとなりました。サービス戦略としては「SNS世代をターゲットとし、基本的な商品に絞り込みながら金利や手数料での優位性と顧客利便性を武器とする。顧客には最小限の画面操作だけの直感的なUIを提供する。」としました。「同じだが違う銀行」を標榜し、7分で口座開設、5分で融資、50秒で送金などを実現したのです。韓国ではICカードを使った住民登録番号が全国民に付与されていますので、公的な本人確認はオンラインで完了します。

2017年末のことですが、カカオバンクについては韓国の友人が、メディア記事などから作成した資料を日本語訳して、筆者にも読ませてくれました。2か月で400万近くの口座を獲得した爆発的ヒットには度肝を抜かれましたが、カカオトークのようなSNSの威力と不安も感じました。利便性やUIだけでなく、商品に特徴があるかと思って確認したのですが、特段、目新しい金融商品はありません。ただ、口座開設者の70%がデビットカードを申込みしていたので、これがポイントだろうと思いました。

韓国の家計は住宅費や教育費で膨大な負債を抱えています。家計債務はGDPの93%、可処分所得の153%と極端に大きい。しかも、急拡大を続けている。さすがに中央銀行も不安となり商業銀行に対し、抑制を指導しました。ローンだけでなく当座貸越も絞り出しました。資金調達に困り出した個人の前に、カカオバンクがローンやデビットカードを主力とするサービスを開始したのですから、一挙に飛び付いたのでしょう。いずれ、中央銀行からカカオバンクにも圧力がかかるし、高騰する不動産市場に異変が起きたら、家計全体がパニックになるリスクが高いので、この大ブレイクも長くは続かないだろうと判断したのは、2年前です。見事に外れました。

日本でカカオバンクを知る人は殆どいません。しかし、欧米では世界で最も成長している銀行として有名です。筆者の予想に反して、同行は急成長を続けました。その理由は、頻繁なサービス更新と新商品の投入です。無料のコンビニATM利用、低料金の国内外送金、口座内金庫(セーフティボックス)、画面デザインのカストマイゼーション、モイム通帳(グループ毎に発行できるデジタル預金通帳)などです。単なる安さやスピードだけでなく、人とのつながりなどにも注力したサービス設計で差別化しています。こうして、若者を中心とした顧客層のインフラとなることで持続した高成長を続けているようです。

日本では割勘サービスが決済事業者登録を必要となるなど、規制が細かいのですが、韓国では意外と自由が効くということです。トラブルがあったらどうするの?と友人に聞きますと、「トラブルはしょっちゅうある。しかし、当事者同士で話をつけるか、訴訟騒ぎも結構多い。日本のように裁判に時間と金がかかることはないので、大きな問題になっていないし、国民の多くはそんなものだと思っている。」ということでした。

カカオバンクは韓国版チャレンジャーバンクですが、その成功の背景には、スマホや高速デジタル通信網の普及(世界トップレベル)があります。意思決定と行動の速さ、チャレンジ精神などもあります。筆者は極言と知りつつ、「日本の銀行が1年か2年かけることを韓国では1週間で実行する。」と表現します。それを信じる日本の銀行員はいません。自分の目で見に行きなさいと言っても行く人はいません。

加えて、システム構築は殆ど内製です。ITと業務に精通した専門家を内部に抱えています。カカオバンクの場合、社員数は700人弱で、300人弱がIT技術者だそうです。(2019年11月)最新の技術を使って、Webベースのシステムを構築し更新し続ける。いろいろなアイデアを出し合って、すぐに実装する。顧客に受けなければ、停止して次のアイデアに取りかかる。まさにアジャイルです。日本のアジャイル開発はPOC止まりのウォーターフォール開発です。加えて、IT実装力を持つ銀行業務精通者は殆ど消えました。

カカオバンクを率いるのが二人の共同代表で、二人とも金融業のベテランで戦略、ITに秀でた人だそうです。彼らが若い技術者の功名心を刺激しながら、コミュニケーションを密にしつつ、即断即決する。こうして見ると、日本の銀行がチャレンジャ−バンクを作っても、一発芸人で終わるでしょう。金融ビジネスは安心、安全が大切とされます。筆者は、それに安定(継続性)を足していますが、更に、アメイジングを加えなくては駄目だと思うようになりました。金融におけるスマホ活用は決済だキャッシュレスだと言われ、その普及にはAPIとコスト負担のルールが前提だと騒いでいます。勝てる訳ないよな〜と思います。

                     (令和2年1月14日 島田 直貴)