収益源となる地域商社に (山形銀 長谷川頭取語る

日経新聞の令和2年1月7日付コラム(列島発)での山形銀行・長谷川頭取のインタビュー記事です。同行が昨年12月に設立した100%出資の地域商社TRYパートナーズに関して発言しています。多くの地方銀行が、地域商社の設立を企画していますが、山形銀の地域商社は工業製品のB2Bビジネスを想定している点が他行と異なります。このビジネスモデルは、銀行業高度化等会社が制度開放されてから考えたものではなく、8年前から実施する山形成長戦略プロジェクトの一環として山形大学や慶応大学先端生命科学研究所との産学連携の延長線上にあります。

政府は、地域商社を多地域に設置しそれらを連携させて地域振興の核とする考えです。そのあるべき姿を「農産品、工芸品など地域に眠る魅力ある産品やサービスの販路を、生産者に代わって新たに開拓し、1円でも高く生産者から産品を買い取れるよう、市場から従来以上の収益を引き出す役割を担う。 魅力ある地域の商材に即してマーケテイング・販路開拓を行い、その収益と市場の生の声を生産者にフィードバックする。その後段階を追って、他地域との連携、観光等異分野との連携なども進め、域外から投資を呼び込めるようなビジネスモデルをプロデユース。地域の事業インフラ整備にも貢献する。」とします。

しかし、多くの地銀が考える地域商社は地産地消であり、名産物を首都圏など他地域へ紹介販売する程度の話です。これでは、とても地域振興にはならず、当該企業の成長にもなりません。2、3千円の商品を年に一回買ってくれる客を1万人集めても、2、3千万円前後にしかなりません。毎週、或いは毎月買ってもらえるような商品か、または、単価の高く波及性のある商材でなくては地域振興にはなりません。高単価ビジネスを狙うのであれば、まずはB2Bとなります。

商社がB2Bで商談を成功させるには、マッチングとファイナンスが成功要因です。マッチングには売り側、買い側双方のビジネスや商材技術に関する専門知識が不可欠です。商社マンは、特定地域や商材に関する専門知識を持っており、それが、商社の存在価値です。銀行業務知識と幅広い顧客関係だけでは、とても商社機能を果たせない。その専門人材をいかに育成するか?または、外部との連携で人材を手当てするか。

山形銀は5年後に地域商社の売上目標を30億円としています。総合商社の営業利益率が2、3%ですから、地域商社の営業利益率を3%としても、年間1億円にも満たない営業利益です。地銀の平均的な業務純益が150億円ですから、せめて900億円前後の売上がないと、とても新収益源とはなりえません。足し算でビジネスモデルを考えては駄目です。例えば、営業利益率10%、売上300億円を実現する為に、必要なビジネスモデルはいかにあるべきかを考え尽くす必要があります。

大きな営業利益を狙うとすると、どうしてもB2Bビジネスとなります。しかし、地域限定の地銀にとって薄利多売の機会は少ない。多くの地銀が重視するビジネスマッチングやコンサルも、今のところ担当者一人当たりの売上1千万前後が相場です。とても収益事業とは言えません。購買件数を増やすか、高い単価と利益率を可能とするビジネスは何か?意外とサブスク・ビジネスやプラットフォーム・ビジネスが時代に合っているようです。

クラウド・ビジネスでは、IaaSよりもPaaSの方が利益率は数倍あり、SaaSは更に数倍となります。セールスフォースのように、AWSのIaaSを使ってSaaSを提供すると、AWS並みの利益絶対額を稼ぐことができます。仮にアマゾンがSaaSに参入しても、必要な経営資源が異なるのでAWSの競争力が落ちて、他社がAWSの市場を侵食するかもしれない。そうなっても、セールスフォースとしてはIaaSベンダーを変えれば良いだけです。最終商品ビジネスの方が模倣は難しく、付加価値も高いということです。

こう考えると、銀行は、地域商社戦略において総合商社を模倣するのではなく、地域内商材をコアとして地域内外の商材などと組合せながら、地域内外の市場にリーチするプラットフォーム・ビジネス化を図ることが重要だと思われます。言葉だけ、商社とか情報銀行などと叫んでもビジネスとしては成り立ちません。夢を広げるとしても、必要な商材や人材がなければ実現性はありません。様々な組み合わせを考え、その共通機能や自行の強みを見出すことで、プラットフォームに必要な要件を見極めることができます。プラットフォーム・ビジネスは、思うより遥かに難しいビジネスですが、それが出来なければ、地域商社は生き残り策にならない。どなたか素晴らしいアイデアを出して、地域金融機関にビジネスモデル特許として提供してくれないでしょうか?成功報酬にすれば、高い単価と利益率が期待できますが。

              (令和2年1月7日 島田 直貴)