銀行インフラ握る巨人 (NTTデータ 公取が照準)


日経新聞の令和元年12月17日付記事です。銀行が全銀システムなど決済インフラを独占していることが、フィンテック企業の新規参入を阻んでいると疑う公取に対して、銀行界が反発を強めている。そこで浮かび上がってきたのがNTTデータで、公取が銀行とNTTデータの蜜月関係にメスを入れる可能性があるとする内容です。

外部からはこう見えるのかという感じです。決済はかつて銀行の占有機能であり、銀行免許を持たない他業種が決済インフラを持つことは、法制度としてありえなかったので、これを独禁法でチェックすることは考えられなかった。(ここで言う決済とは預金口座を通じてのファイナリティのことを言っています。)銀行界としても、自分達の業務と独禁法の関係には、随分と神経を使ってきました。

この問題のきっかけとなったのが、銀行オープンAPIです。記事では、半数以上の銀行がフィンテック企業とのAPI契約を締結できていないと書いています。その背景と公取の動きについては、11月21日付の当コラムで説明しました。問題となっている接続手数料についても触れました。金融庁としては、銀行法で努力義務化したものの、杓子定規にお前の銀行は接続していないからと処罰することも、スクレイピングを禁止することはないとしますが、銀行としては、「そうはいっても、何かあれば当局から叱責されるリスクがある。」と心配します。そこで、全銀協は、フィンテック企業の審査代行を委託する仕組みを用意するそうです。その委託先が、また、NTTデータ1社だというのですから、日経記者が銀行とNTTデータの蜜月だと書くのも仕方ないのかもしれません。12月14日の最悪タイミングのアナウンスでした。

古い体質の銀行にとって、NTTは今でも国営企業のイメージが強いようです。1970年代の電電公社には、データ通信事業部(NTTデータの前身)というIT受託部門がありました。そのヘッドは副総裁の北原さんという著名な方でした。北原さんが、地銀を訪問する時に、居合わせたことがありますが、まるで行幸のような出迎え方で驚いた記憶があります。

1985年4月に日本電信電話公社が中曽根内閣によって民営化されるまで、通信事業は電電公社による独占でした。電信、電話だけでなくコンピューター処理を異なる企業間で共有するデータ通信事業も、民間企業には禁止されていました。いわゆる共同使用、他人使用の禁止です。ですから、複数の銀行間で決済を行なう銀行間為替や勘定系システムの共同利用は、電電公社の独占となります。その時に、使われた契約形態がデータ通信サービス契約です。初期投資と運用費(DC関連費用などを含む)を8年間で償却するのですが、利用企業には月額料金だけが負担となります。サブスク・モデルのはしりと言えるでしょう。ただ、契約解除には、相当な違約金が必要となります。何よりの問題は、全てのハード、ソフト資産が電電公社の所有となることです。ですから、改変も自由にできず、仮に改変する場合でも膨大な費用が発生する。コスト算定根拠は一応は示されますが、透明性ある詳細がない為、納得し難くとも突っ込んだ追求はできません。

成果物の所有権が利用者にはないということは、全銀プロトコルやCD・ATM制御などの知財権も電電公社にあり、他のIT企業がこれらのプロトコルを使うには、公社にフィーを払わなければなりません。(全銀プロトコルは特別な経緯がり、今は銀行協会が所有権を持つ。)筆者も大昔に、その交渉に携わったことがありましたが、通信デバイス1台当たり40万円といわれ、総台数が1千台を越えるので、数億円となります。とても商売にならない。両社の法務同士の交渉となりました。最後はクロスライセンスで決着したのですが、今の時代であれば、独占と国営という優越的地位の乱用となるでしょう。そもそも、イノベーションのエンジンとなるスタートアップには、とても付き合える相手ではありません。電電公社と全く無関係な分野でしか、新規事業開発はできなくなります。中曽根さんと土光さんが通信解放しなかったら、日本は未発展途上国になっていたでしょう。

このテ通サ契約は、一見、利用企業に不利なだけと見えますが、初期投資が不要となり、開発運用を丸投げできるメリットがあります。特に、単年度契約で予算の安定性が求められる公共機関にはなくてはならない契約方法でした。ただ、その後、技術革新や業務内容の変化が激しくなり8年で期間を固定すると、実状に合わなくなってきて、デ通サ契約を結ぶ利用者は減りました。特に、中央政府などは、コスト高止まりの元凶だとして、原則、不採用の省庁が増えています。

ところが、金融業界の協会システムでは、この契約方式が使い続けている。変えようとする動きも大手行から、しばしば出てくるのですが、最後は全員合意の意思決定方式が邪魔をして時間切れ(8年の契約期間が切れる。)となります。業務仕様やコードなどは、NTTデータのものですから、他のベンダーが参照したり再利用する術がありません。結果、価格的にも太刀打ちできず、公開入札しても猿芝居に終わるだけとなります。

ANSERは、1981年のサービス開始以来、さまざまな拡張、改良を重ねています。金融では外部接続のインフラとして関連システムの隅々で利用されています。何をするにも通らざるをえず、都度、従量制料金がかかる。多くの場合は3円前後なのですが、トランザクションは増える一方ですので、NTTデータのドル箱です。担当事業部の態度のでかいことが知られています。ANSER開発の中心メンバーだった友人がいるのですが、酒を飲む旅に自慢されるので、聞かされる方は、お前らは、通行料を強奪する海賊だとか、関所の悪代官だとか、元々は国有財産じゃないか、税金を倍額払えなどとやり返したものです。

デ通サ契約にしろ、他人使用・共同使用ネットワークの実質独占にせよ、独禁法対象外の時代からの経緯があって今日に至っています。それを見直さなかったのは、総務省、経産省など関連省庁の不作為であり、銀行界を悪者にするのは、筋違いです。金融業界が排他的な目的で、今の方式を続けて来たのではありません。疑問に思わなかっただけです。しかし、契約自由の原則があるとはいえ、第三者への影響が顕在化してしまった今日では、銀行は利用者であって、NTTデータの料金や契約方式に要望を出せても決定権はないとの姿勢は通らなくなったようです。日経記事は両社一体と見なしています。公取にしても、以前からこれらの問題のあることは認識していました。放置できない状況になったからこそ、動き出したということでしょう。銀行は巻き添えではなく、同舟の立場であると理解する必要がある。

政治的案件に対するNTTグループ各社の対応は、凄いと思わせることが多い。今回も、法的解釈の確認をした上で、改善案や対応策を詰めているでしょう。料金変更や契約方式を利用者側に向けて改善策を出す筈です。それも公取が具体的に動く前に手を打つと予想されます。金融業界としては、公社様にサービスを利用させて頂くという姿勢を改め、自分達が、デジタライゼーション戦略やビジネスモデル再構築を進めるのに必要なベンダーとのパートナーシップ再構築という目線で考えることで、同じ騒動を繰返さずに済むことになります。

                    (令和元年12月20日 島田 直貴)