アマゾンが米国防クラウド入札問題で裁判所に意見書


日経新聞の令和元年12月10日夕刊記事です。アマゾンAWSは米国防省のクラウド入札案件に関して、政府を訴えていますが、意見書を裁判所に提出したと報じています。トランプ氏に批判的なワシントンポスト紙のオーナーでもあるアマゾンCEOのジェフ・ペゾス氏を嫌って、トランプ大統領から不適切な圧力があった。国防予算を使って個人的で政治的な目的を追求することを許すのか?という内容だそうです。

周知のように米国防省は今年10月に、同省システムの80%を搭載するクラウドJEDIに、大方の予想を裏切ってマイクロソフトのAzureを選定しました。とりあえずは、2年間で2億1千万ドルの予算ですが、10年間で見ると100億ドルを越える見通しだそうです。AWSにとっては、売上損失もさることながら、クラウドNo1というイメージに大きなダメージです。

このニュースに接した人達は、「マイクロソフトのクラウド事業が何故、急成長しているのか?どうもOffice365だけではないようだ?」という疑問を持っていましたから、「そうか、AWSと同等以上の技術レベルを確保しているのだな」と推測することになります。なにせ、米国防省は、世界最大のITユーザーですし、世界最高レベルの技術力を持っています。ITは、米軍の研究開発とともに技術的進化を遂げているのですから、このニュースのインパクトは測り知れません。ただ、世界トップレベルの大技術者集団が、大統領に忖度するとも思えません。ましてや、米軍がトランプ氏に好意を抱いているとも思えません。両者の路線が余りに違いすぎます。AWSの意見書には無理があるという印象です。

AWSがクラウドのリーディング企業に躍り出たのは、2013年のCIAによる大型調達でした。一挙に信頼度があがりました。今回のJEDIの場合、AzureがAWSを越えたとする声は聞きません。追いついたようだという意見が圧倒的です。

国防省のIT技術者の大半は中途入省でしょう。彼等は、より良い仕事環境、処遇を求めて転々と勤務先を変えます。その時々に、多様な人脈を構築します。その情報ネットワークは日本のような同じ穴に籠り続ける技術者とは全く異なります。勤務先に対する忠誠心を疑う人も日本にいますが、彼等の今現在の勤務先にたいする忠誠心は日本人に劣りません。でないと、職を失います。

クラウド・インフラ選定に際して、技術的検討比較にとどまらず、企業としての安定性や成長性なども比較している筈です。今後、10年間、安心して国防のITインフラを預けて大丈夫かという視点は欠かさなかった筈です。技術だけであれば、金で外部からトップガン・チームを引き抜けば、とりあえず対応できますが、意思決定メカニズム、企業文化や価値観、仕事の進め方などは、簡単には模倣できないし、変えることも難しい。スキルは企業に付随するのではなく、個々人に組み込まれています。

筆者は、以前からわが国のクラウド戦略に危ういものを感じています。政府のeガバメント推進担当者は、二言目には行政と金融のIT化、クラウド化が遅れていると言います。そして、日本政府はAWSによるクラウド化を進めています。行政システムなんぞは、今が酷過ぎるので、米系クラウド使っても構わないとは思いますが、金融機関が、AWSファーストなどと政府の方針に追随したら、トランプさんよりもっと凄い大統領が出てきた時にどうするのかと心配なのです。政府関係者に会う都度、それを聞くのですが、誰も応えてくれません。質問自体が無視される。

しかし、政府もようやく、クラウド利用の評価基準を作成して、安全性を確保する動きになったようです。来年度にも基準を策定して公表する予定です。全省庁がこれに従うことになりますが、民間にも採用を奨めるとのことです。特に海外ベンダーの場合における対応を意識しているとも聞きます。大きな一歩になればと考えるのですが、どこまで当てに出来るか。

金融ITの高度化にはクラウドの活用が重要だという意見が行政や金融経営者、メディアには多い。都度、貴方のいうクラウドってどういうこと?と聞きます。安い、便利、高機能、手間が省ける、拡張が容易、外部連携も簡単などと並びます。では、それは、どうやって実現されているのですか?と尋ねると、何も出て来ません。その仕組みを知らずに、どうやってクラウドのビジネスモデルを理解できるのか?その理解もないまま、自社の事業基盤を丸投げして良いのか?と思ってしまうのです。

今のところ、わが国金融業界の皆さんは、クラウドに慎重です。というよりは、具体的に検討すると、そんなにコストが減らない、むしろ上がることがある。手間が増えることも多い。管理する為の技術者の育成確保も見通せない。その割には頻繁にシステムが止まる。これらやデータ・セキュリティの不確実性を理由に時期尚早と言っているだけです。

最近、レガシー勘定系が邪魔をして、金融のデジタライゼーションが進まないという声が大きくなりつつあります。某大手ベンダーの役員が、主張しています。途端に、勘定系オンラインをクラウドに乗せ替えるように、金融機関のIT路線をかえるにはどうしたら良いかという質問になって飛んできます。説明しても、理解できそうもないし、そもそも理解しようとする気配を感じない。そこで簡単なメモを用意しておき、それを渡すだけにしています。クラウドに移す為に必要な項目がズラっと並べています。そんなにややこしいのか?ならばどうしてネット銀や北國銀行は実現できるのか?と来るので、「彼等は前提条件の大半をクリアできている。」ことを説明します。

更に、近頃はBaaSが流行り言葉になっています。これも、これまでの問題を全て解決できる何かの魔法のように思われています。概念的には、まさに望む姿ではありますが、それを実装しようとすれば、数々の問題に行き詰まります。どうも、わが国のITは、理想論と魔法という手段だけで議論が空回りしているように見えます。やはり、ベンダーが悪い。自分でキチンと理解して説明や提案をしていない。ユーザーである金融機関も、技術的に評価できるノウハウと経験がない。結果としてPOCと称する、本番並みの時間と費用をかけた実験ばかりが行なわれる。POCがベンダーの本業なのか?BaaSを実装前提で研究する必要があると思っています。それも急いで。

                  (令和元年12月12日 島田 直貴)