東海東京証券、デジタル証取出資

日経新聞の令和元年11月14日付記事です。東海東京がシンガポールのデジタル証券取引所に出資し、将来は国内でも取引所の開設を企図しているとの内容です。デジタル証取とは、ブロックチェーンを利用した資金調達手段であるSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)を扱う取引所だそうです。STOは不動産、社債、知財など実物資産の権利を有価証券として扱うので、いわゆるIPOとは異なります。日本でも来年4月施行の改正金融商品取引法で取扱いが可能になるとのことです。

東海東京はSTO取引で先行するシンガポール取引所の子会社ICHX TECHに5億円出資し4.8%株主になります。日本から出資するのは東海東京だけです。同社は、日本にもSTO証取を設立し、それをSGXの取引所と接続することで、アジア経済圏のSTO取引をリードしようと考えているのでしょう。シンガポールはアジアのコア市場で、これからは東アジアの企業や富裕層が益々移っていきます。現時点で東京は太刀打ちできません。東海東京の他にはMUFGや野村グループがSTO取引ビジネスを計画中だそうですが、海外展開まで計画しているとの報道はありません。

東海東京証券は、事業規模からすればメガや大手証券に対抗できませんが、ここ数年はレバレッジの効く戦略を展開しています。それも、スピードが速い。預り資産4.5兆円、総社員数2900人弱(内2700人が営業)で中部地区を地盤としています。丸万証券、東海証券、東京証券を主な母体として、2005年頃から中小証券を合併し続けました。2007年頃から地銀と共同証券子会社の設立を始め、2010年のトヨタグループの証券子会社を吸収してから、こうした動きを加速しています。

地方銀行と共同出資した提携合弁証券は、ワイエム証券、 浜銀TT証券、西日本シティTT証券、池田泉州TT証券、ほくほくTT証券、とちぎんTT証券、十六TT証券の7社となり、全社合計の預かり資産 は、2019年3月末で1兆4,000億円を超えます。こうした共同証券子会社設立が報道される都度、幾つかの地方銀行から、東海東京はどんな証券なのか、どうして、これら地銀との関係を持っているのかという質問を受けます。筆者は東海東京と多少の関係はありますが、答えるだけの材料はありません。ただ、ノンバンクを含めた金融関連の情報収集や分析能力は高いものがあり、同社が主催する機関投資家向けの金融業関連セミナーには、名だたる金融機関や投資会社が集まるので驚いた記憶があります。

昔から、わが国GDPの6割強は首都圏以外にあり、その地域の経済は地銀が握っている。東京ばかりに目を奪われていると、大きな市場を見逃すと言うのが筆者の口癖です。60数%の市場といっても、県毎に特性が異なり、個別の県を見ても、更に別れるケースが多い。このような市場構成を持つのは、日本以外にはドイツくらいでしょうか?島国で同一民族だと思いこんでいると大きな間違いを犯します。メガバンクが地方県に1、2店しか出せない理由です。

全国の市場に一律な金融サービスを展開するネット証券やネット銀行は、結局はコモディティ機能で価格競争に陥ります。ネット専業金融の話を聞くと、ネット経由で口座開設する顧客の中には、クレーマー的であったり、事務ミスを頻繁に犯す顧客が相当数紛れ込み、その対応に膨大な手間とコストを要すると聞きます。できれば、対面で顧客の質を評価している地域金融機関に、中間に入ってもらって客の質を高めつつ事務負担を減らしたいというのが、全国展開企業の願いです。いくらDX時代といっても、こうした問題を解決しないと、デジタル完結のビジネスモデルは空論になってしまうのです。結局は、デジタルと対面のハイブリッドというチャネル構成を狙うことになり、ネット専業からするとアナログ接点を地銀などに負担してもらおうという図式が出てきます。

地銀など地域金融機関からすれば、当面はネットチャネルと対面チャネルを併存せざるをえませんから、ネット系などとのアライアンンスは悪い話ではありませんが、それをいつまで続けられるか。どうすれば対面チャネルの効率と付加価値を上げられるかが長期的チャネル戦略の肝となります。しかし、金融関連で時間軸を踏まえたチャネル戦略を、まだ見たことがありません。年率5%前後で来店率が減っているとの話がありますが、それに合わせてリアル店舗を減らせば良いといった単純な話にはなりません。そこに地域金融機関の悩みがあります。外部から見れば、何をぐずぐずと決断しないのか、DX時代ではないか?でしょうが。実際に顧客の顔を知り、家族・親戚のような社員を考えれば、DXで対応できない顧客を切り離すことは自殺行為にしか思えないのでしょう。

では、別ブランドにすれば良いという話になります。しかし、MUFGがじぶん銀の資本を引き揚げるとか、米国ではJPモルガンチェースがデジタルバンクから1年で撤退したように、別ブランド戦略が期待通りに成功する事例は稀です。最近はBaaSと称して、銀行機能をばら売りする戦略を標榜する銀行が出てきました。これはIT企業が、金融機能のアンバンドル化、オープンイノベーション化という流れから、思いついたストーリーなのでしょうが、考え尽くしたシナリオをまだ見たことがありません。今の時代だから、取りあえずやってみて、駄目ならやり直せば良いとの考えもありますが、それも程度問題です。

確かにクラウド、マイクロサービスなどといった技術において、BaaSを開発するのは難しくはないでしょう。しかし、金融業務の根幹はバック処理にあります。バックをSTPなどで全面的にデジタル化することは理論的には可能ですが、どうしても外部との連携で紙や人手の介入が出てきます。それはBPOに任せれば良いとの意見もあります。こうしてパッチング的に関係者を増やすと、気がついた時にはスパゲティボールになっている。これが金融ITの歴史が示す流れです。

では、どうするのか?理論的には、バリューチェーン、ビジネスモデル、プロセス・チェーン、データ・チェーンを整理し、各パートに最適なテクノロジーを使ってSTPを設計し、外部委託先を含めて実装と運用する主体者を配置することになります。その実現は容易ではありませんが。東海東京を見ると、テクノロジー主体では考えていません。バリューチェーンを中心にビジネス設計をしています。テクノロジーは使えるところで使うだけという発想に見えます。それが正しいのでしょう。地銀など銀行界にも適用できる戦略的思考法だと思います。

                    (令和元年11月14日 島田 直貴)