米IT人材獲得に異変 (H1Bビザ厳格化の影響)

日経新聞の令和元年9月29日付記事です。米政府は2017年より米国人の雇用優先を掲げて、就労ビザ手続きの煩雑化と発給厳格化を進めている。今年2月には、H1ビザという専門職向けのビザ発給を厳格化している。その影響がIT人材の採用に大きな影響が出ているそうです。昨年度の承認件数を出身国別にみると、インド系IT大手は2017年約6万件が、2018年には2万強に減ったそうです。今年はさらに減少しているとか。その承認率は、95%から70%弱に低下。一方で、グーグル等米系GAFAはほぼ100%近くの承認率だとか。

その差の原因は、支払い年収にある。インド系は年棒8万ドル前後で、米政府の中技能・中所得層の雇用を守るという方針に抵触し、GAFAは機械学習など高技能職を12万ドル以上で採用しているからだそうです。インドITのタタやインフォシスとしては、年棒を上げるか、開発拠点を母国などで広げるしかありません。巻き添えを食らっているのが、日系を含む一般開発企業で採用難に耐えるか年棒を上げるしかありません。

年棒8万ドルが境目だというのも興味深い。日本なら高技術者の給与水準です。わが国も随分と落ちたものです。20年以上も横ばい経済ですから、当り前ではあるのですが。日本を脱出してシリコンバレー等で企業しようとするベンチャーも頼りにしていたインド系技術者の採用が難しくなって困っているという話も聞きます。H1ビザの新規・更新承認件数は約33万5千件でインド出身者が74%、中国が11%だそうです。

こうして米国での就労機会が狭まると、即座にカナダとイギリスが受入れを拡大しているそうです。まさに、IT人材が卵を産む資源だということです。日本は蚊帳の外です。10年程前に米系大手ITがインド拠点を拡大強化するといって年2万人の技術者採用をしました。そんなに技能を持つ求職者がいるのかと思ったら、自然科学系の学卒者が毎年40万人いるとか聞いて、納得というか、あきらめというか、ショックでした。とても勝てない。日本で知り合いのインド出身者に聞きました。「インド進出米IT企業がインドから撤退するとして、その時にインドの技術者はどうするのか?国内の別会社に移るか、会社と一緒に米国に移住するのか?」と。米国に移るという即答です。「では、日本のIT企業の場合だったら?」と聞くと「米系に転職するか、欧米に移る。」との回答。何故かと聞くと、「日系企業では所詮自分達は使い捨ての単能技術者で終わるしかないから。」が答えでした。「ごもっともです。すみません。」としか言いようがありませんでした。

わが国にはITの高度技術者が圧倒的に不足しており、育成する仕組みも評価・処遇する仕組みもありません。もう手遅れだから高度な分野はあきらめて、ITを使いこなすアプリの分野で頑張るしかないと思ったのですが、この分野もなかなか進まない。更に、最近はこんな話を聞きます。中国のオフショア開発企業でCOBOLを勉強する若い技術者が急増しているというのです。何事かというと、日本の大手企業のレガマイ案件なのです。基幹系システムのソースコードを解析してJavaなどに変換する仕事です。変換ツールはありますが、100%適用できる訳ではなく、どうしても人間の判断が必要となる。最近では、製鉄業、造船業、生命保険業などが、大規模なレガマイに着手しています。

筆者も日本の若いエンジニアに「Javaを書けても、月に80万くらいの売上で、君の取り分はその半分くらいでしょう。COBOLとメインフレームを勉強すれば、100万円以上になるし、このレガマイ市場はいまから10年以上は確実にあるから、仕事を変えたら?」と奨めました。ところが、「今更COBOLやメインフレームなんて恰好悪い。友達に言えません。」との反応でした。ところが、中国の若い技術者は、短期間にCOBOLを習得しメインフレームを使えるようになり、日本の基幹産業のコア業務を稼ぎながら習得している。彼らいわく、「このアプリ知識があれば、転職にとても有利です。または、自分達で保険会社を

作れば、最初から日本の業務水準を確保できる。」と言うのだそうです。

残念ながら、国内に大規模レガマイ案件をこなせるベンダーは存在しません。あっても、それは、オフショア拠点を持つ中国系です。業務ノウハウを金払って提供しながら、高度技術を習得する意欲も機会もないとすると、我々はITによる恩恵をどこに求めればよいのだろうか。

成長性や収益性の高いIT企業としてOBICやNRIなどが常に上位にあります。OBICの営業利益率は世界トップクラスです。多くのIT企業は売上だけは大きいですが、営業利益率は5%にも満たず、昔なら国債持ってる方がマシと言われました。一向に改善しません。OBICとの違いは人月ビジネスとアセット・ビジネスの違いでしょう。NRIの高利益率もアプリケーション・スキルが貢献しています。

インド系や中国系との競合を避けるには、どうすべきかを考え尽くすべきです。経産省に頼っても時間の無駄です。するとすぐに、これからはクラウドだという話になります。クラウドも成長のピークに近づきつつあります。AWSが主導するIaaSの収益性も頭打ちとなり、これから下がり出すでしょう。その下請けをやって展望が開けるのか?その点で、PaaSやSaaSの収益性は相変わらず高いままです。この分野になると業務知識が勝負となり、まだ、日系企業が競争に参加できる分野がありそうです。

結論からすると、IT利用企業がIT企業と提携してSaaSの分野に参入してくれるとありがたい。それも複数が。勝ち残るサービスを改善し続ければ、業務効率やデータ活用の高度化を進めることができるかもしれない。今ある大手IT企業には、こうした動きを邪魔せずに、離れて見ていて欲しいのですが。こうしたIT変革のイニシァティブを持つ主体が出てくるかが、わが国ITの大きな分岐点になりそうです。

                           (令和元年9月30日 島田 直貴)