地銀改革へ政策硬軟両様 (金融庁行政方針)

日経新聞の令和元年8月29日付け記事です。金融庁は今事務年度の行政方針を28日に公表しました。庁内では行政方針というよりも、実践と方針という表現を使っているようです。これまでの金融業界と行政の動きを整理し、現在抱える課題を列挙し、7月から来年6月までの事務年度において同庁が進める政策方針をまとめています。総数141ページの文書です。

主な重点施策として1.地銀改革 2.金融デジタル化 3.顧客本位の業務運営 4.個人の資産形成 5.仮想通貨が上げられています。昨年の行政方針ではデジタライゼーションが全ての施策の基盤として上げられていましたが、今年は各重点施策の中に組み込むのが当然という扱いになっています。結果としてITに関する独立した章はありません。金融機関のIT部門からするとホットするのかも知れませんが、それは逆でどんな案件にもIT対応に関する対話論点が出てきそうです。

ITに関する行政方針は、6月に公表されたITガバナンスの対話論点に詳細が記述されています。今事務年度では、ITコストとIT基盤が主として議論されそうです。日経新聞が7月14日付記事で、日経xTECHが23日付と8月19日付記事で銀行のITコスト問題を取り上げていました。金融庁がITコストの調査を行なうという内容です。8月19日付記事では、「無駄遣いがばれる?金融庁の投資調査に戦々恐々の銀行とIT大手」という表題で、自前主義で高コスト、それも勘定系維持が中心の自営勘定系銀行がやり玉にあがるという内容でした。

これを書いた記者は、最近のコスト構成を知らずに自営オンラインの方が共同よりも高いと思いこんでの記事のようです。実際の自営行オンは、更改などをしない限りは、共同よりコストが安いことを知らない。当り前のことです。償却が済んでいれば、維持運営費だけですから。まして、勘定系のコスト比率は全ITコストの30%前後に収まっており、100前後ある周辺システムのコストが半分以上となっています。行内に開発力があれば外部委託の費用を抑えられますが、丸投げすればコストは上がる一方です。今日、ITコストを大きく左右するのは、IT人材を内部に保有しているか否かになっているのですが、そのことは知らずに、自営は高いという先入観で記事を書いている。

金融庁は、そんなことは当然、承知しています。この記事を信じた銀行経営者が、検査官と対話すると、話がかみ合わないことになる。特に、自行が安いと思っている共同参加行は、他行や自営行のコスト実態など知りませんから、検査官と全く逆の発想で議論する。その結果、どういう展開になるのか?気の毒としか言えません。筆者は多くの地銀と情報交換しますが、共同参加行の多くは情報収集をしていない。「御行はITに関する情報源は業界誌と共同ベンダーだけなんですか?」と質問してしまいます。先方は、「それで何か問題あるの?」という顔をします。こりゃ駄目だと思いながら、顧客に目隠し、耳栓をしているベンダーに腹が立ってきます。

金融庁のシステムコスト調査ですが、FISCが今年も、コスト調査を5月に実施しています。筆者は昭和60年に出向先のFISCで第一回目のシステムコスト調査を実施した経験があります。都市銀行などは随分といい加減な回答でした。自分が所有している実データで補正した覚えがあります。その点、地域金融機関は真面目に回答する銀行が大半でした。数行、いい加減な回答をする地銀がありましたが、その銀行は今でも覚えていますし、私個人の銀行格付けが低いままで、その後の付き合いは一切ありません。35年前に比べれば、銀行はFISC調査にかなり真剣に回答しているものと思っています。金融庁の調査は、虚偽の報告が許されませんので、FISC調査への回答と不整合がないように苦労する銀行があるかも知れません。

体力に見合わない過大なシステムコストを放置、新しい環境に応じたビジネス・業務の転換、それに対応する企業文化や人材戦略の遅れなどが、対話の論点となるとされています。検査官は、千差万別な銀行経営者と議論します。知見のある人、論客などとも議論をするでしょう。超スピードで知識、ノウハウ、情報を蓄積します。コンサル会社の比ではありません。前述のように正確な調査も思いのままです。対話の相手となる金融機関経営者が、外部の正しい情報を把握していなければ、まともな議論にはなりません。銀行経営者に正確で中立の情報を提供する媒体がないことは、金融庁が金融機関にITガバナンスの確立を求めるにあたり、大きな障害になるでしょう。

 

                        (令和元年9月3日 島田 直貴)