ふくおかFGが地銀初のネット専業銀行設立



令和元年8月6日夕方のニュースです。日経XTECHが報じました。翌7日に正式に発表され、各メディアが一斉に報道しました。その内容に余り差はなく、ふくおかFGの発表をそのまま伝えながら、環境の厳しい地方銀行にとって生き残りをかけた起死回生の一手だとする論調が多い。

FFGの発表では、デジタルネイティブバンクが目指す姿で、@BaaS型のビジネスモデル、A顧客中心のデータ活用、Bアジャイル開発態勢、C組織・ガバナンスのシンプル化を実現することで、@徹底したフリクションレス、Aハイパーソナライズ、B成果主義へのシフト、Cコミュニティ重視 の対顧客サービスを展開する、そのためにセロべースで新銀行を設計するとあります。

どれも望ましい要件であると思うのですが、具体的にどんなことなのかは見えません。メディアがより詳細、具体的な計画を聞きたいと取材を申し込んでも、時期尚早と断られるそうです。この春に新銀行構想チームに近い人物から聞いた話では、危機感は全員で共有されており、旧来の銀行組織や行動規範では新時代に対応できないから新銀行を創ろうという点までは明確になっている。主とする顧客層は、九州地域を越えた若年層を想定しているが、どんなビジネスでどのくらいの収入を見込み、それにはどのくらいのコストが必要で、それを実行する人員の数と必要スキルまでは見えていないということでした。

ただ、預金、為替、貸付を柱として金融仲介、決済、信用創造という機能を再定義しつつ新サービスを設計しているとのことでした。トップダウンのアプローチで必要機能の設計を進めているような感じでした。筆者も1980年代の終わりに銀行機能を論理的整理するチームに加わったことがあります。学者や大手銀行の若手エースも参加していました。インフォメーション・ビジネス・モデリングという手法です。対象を抽象化しながら、現実の具体例とすり合わせを繰り返します。だんだんと話がズレたり、粒度が混乱したりしてどうにもまとまりません。ボットムアップ・アプローチにすれば、現実物理の整理だから簡単だろうとやり方を変えました。確かにまとまるのですが、それでは今までを整理しただけのこと。段々とメンバーが抜けだして、残った少人数でボトムアップの成果物とトップダウンの成果物を何とかくっつけて、もっともらしいモデルに作り上げたのです。

次に、そこから何か新しいアイデアを出そうとしたのですが、なかなか出てきません。作ったモデルを参照モデルとして使うことにして、このプロジェクトは解散しました。大変な陣容と費用、時間をかけたのですが正直なところ、とても成功とは言えない結果でした。参加したメンバーには良い経験でしたし、随分と勉強になりましたが。成果物は第三者にとって、まとまった綺麗なチャートの集まりで、一瞬期待が膨らむのですが、解釈も応用もできない代物でした。

昔の経験を長々書いたのは、FFGのメンバーが同じような過ちをしていると言うのではなく、論理モデルを作り、それを物理モデルに落とすのは簡単ではないということです。今であれば、コアを作って、それをアジャイル的に繰返しアップデートしていけば、それなりのものになると思うのですが、それの寿命がどの程度のものかは別の問題です。新銀行とって充分な市場規模があって事業性を確保できるのか、その為の市場開拓を実現できるのかも全く別の問題です。

FFGの創る「みんなの銀行」は地銀初のネット専業銀行で3年ほど検討してきた結論だと、各メディアは書きます。確かにこれまで幾つもの地銀がネット専業銀行の設立を検討して取りやめました。別銀行化するメリットがどうしても確信できなかったのです。筆者も創るのは良いが、ビジネスモデルとビジネスケースを良く練って、プランBを幾つも用意しておく必要があると忠告してきました。特に地域銀行としての強みが何も期待できないことが最大の課題でした。バーチャルチャネルの先にいる利用者のニーズに合わせ続けることの難しさは想像を越えます。地域金融機関の強みは、顔の見える取引先が抱える期待や課題を解決支援できることです。ペルソナなどとは全くレベルが違います。また、本体銀行とネット銀のシナジーは期待できるのか、むしろ逆効果にならないか?FFGは銀行本体とのカニバリズムは厭わないと言います。本気なんだなと感心しますが、銀行本体の営業部門もそう思っているでしょうか。最後は、インセンティブの問題になります。

今月の10日は、JPモルガン・チェース銀が、子銀行であるデジタルバンクFNNの利用者5万人弱に、サービスを停止するから銀行本体のサービスに口座を移すようにと通知した期限です。1年弱での撤退でした。日本では、KDDIがじぶん銀行を100%子会社化しました。つまり折半出資していた三菱UFJ銀行は、資本を引き揚げたという形です。いずれも、銀行本体で提供するサービスと重複するだけで、別ブランドで銀行業を営むメリットがなかったのでしょう。現銀行がよほど顧客から嫌われていない限りは。FFGとしては、ゼロベースでの事業設計で銀行本体との違いを徹底的に追求するので、重複は少ないと考えているのでしょう。

次に、筆者が懸念するのは、若年層を中心に百万人単位で顧客を獲得しているネット銀でも、紙や電話で困っていることです。顧客は新銀行の都合など考えずに、銀行なら他の銀行のように、こうすべきだといろいろと我儘を言ってきます。それをAIチャットでこなせるのか?無理でしょう。想定していなかった固定費が発生します。旧銀行との協力態勢があるのであれば、既存の集中センターやコールセンターを使えますが、カニバリズムを宣言した近親競合先に銀行本体の行員達がどこまで協力してくれるか。

もう一つの懸念は、システムです。営業開始が2020年度ということです。1年半しかありません。まだシステム開発には着手していません。アクセンチュアが開発受託してグーグルのクラウドを使うと聞きます。しかし、具体的なサービスをこれから決めて、アプリを開発しなくてはなりません。海外には、部品化、コンテナ化されたアプリ部品がありますが、それで済むのか?少しカストマイズが発生しても、時計の針は容赦なく廻ります。そういう時の時間は、あっという間に流れます。焦りがミスの連鎖を生みます。アジャイルで作るから大丈夫というのかも知れませんが、アジャイルは魔法ではありません。開発の方法とアクセンチュアのお手並みにも注目しましょう。これまでに、こんな短期間で新銀行のシステム対応を実現したのは、韓国のシンファ銀が設立したSBJだけですが、実例があるのでFFGが無理とは言いません。

 

                                 (令和元年8月8日 島田 直貴)