大手4行が情報銀行の開始へ準備


ニッキンの令和元年8月2日付記事です。大手銀行が情報銀行設立に向けて準備を進めているとし、三菱UFJ信託、みずほ銀、三井住友銀、三井住友信託の動向を紹介しています。各グループは、事業モデルに差があることから扱う個人データに違いがあり、また、事業者認定を行なう日本IT団体連盟への認可申請にもスタンスの違いがあり、顧客からの信頼を認定制度で補完するか否かの判断が異なるとのことです。

MU信託は19年度下期の開業を予定して準備中だそうです。同行は歩数や睡眠時間、預金残高などを扱い、収益源はデータ提供先から得るという。みずほ銀は、信用スコア融資Jスコアで入手したデータを顧客同意を前提に第三者に提供し、同意顧客に便益(ポイント、サービス等)を提供するモデルです。三井住友銀は、医療データに的を絞り、診察結果や投薬データなどを個人が管理できるようにし、本人の意思で指定する医療機関との医療データ共有を可能とする。現在、総務省の委託を受けて、日本総研や大阪大学付属病院と実証実験を進めている。三井住友信託は、ビジネスモデルの調査研究中だとのことです。

情報信託制度は、国家戦略であるデータ駆動型社会Society5.0を受けて、個人が自分の個人データを安心して企業などの第三者に提供できる仕組みとして推奨されています。しかし、よくあるパターンで、お上が笛吹けども民は踊らずでして、大手金融グループがプラットフォーム戦略の一環として名乗りを上げている程度です。一見すると合理的な仕組みなのですが、少し考えると誰がどうして、どんな情報なら第三者提供して良いと思うのか?自分ならどうするのか?面倒だし、たかが数円や数十円相当のデータ提供料に魅力がある訳でもない。

以前に見た調査結果では、医療データと金融データを匿名化し、提供者への見返りとして価値ある情報やアドバイスがあるのであれば、提供しても良いという意見が多かったと記憶しています。筆者個人もそんな所かと思うのですが、ではそのアドバイスをどう使うのか?かかりつけの医者との調整をどうすれば良いのか云々と、簡単に割り切り、判断できそうもありません。どうもマクロ政策を考える人達には生活実感のある考えは出てこない。もっと社会貢献に結びつくとか、自己成長につながるとかのシナリオが必要なように思います。

NIPPON Platformという会社が、POSデータ情報信託という構想でコンソーシアムを立ち上げています。同社は、POS機能を搭載したタブレットを無料で配布し、そこでキャッシュレス決済サービスやPOSデータ解析の還元情報提供などをビジネスとしています。設置先は、中小零細小売店や飲食店などです。QR決済を含む多様な決済手段を提供しながら、この7月末時点6万5千台を設置しています。今年12月で10万台設置を目指しているそうです。

そのNOPPON PlatformがPOSデータをベースに地域経済振興、特に中小店舗の生産性向上を目的として情報信託を構築する予定です。同社の話を聞くと、どんな情報が望まれていて、誰が提供しても良いと思うかと追求した結果、POSデータと匿名化した決済データを活用できれば、地域に貢献できるということだったそうです。個人情報を扱うことで、機密データ管理や規制対応などに余計な資源を取られたくないとの考えもあったそうです。ですから個人識別どころか個別店ベースのPOSデータ提供もしない。

小口決済を対象とするキャッシュレス・サービス競争は相変わらずです。提供業者に「小口決済で儲からないでしょう、どうやってマネタイズするのですか」と聞くと、「決済での赤字は覚悟している、決済データを使ったビジネスを狙っているのです」と返ってきます。「決済データから何が判って、それはいくらで売れるのか?」と聞くと、具体的な数字はなく、「アリババのようなビジネスにしたい」と言います。中国はプライバシーを意識しないで4千年やってきた国だが、日本でそんなビジネスが受け入れられると思うかと聞くと、「それがデジタル化経済の姿なのです。やらないと経済源流データがGAFA&ANTなどに占有されてしまう」という。なら、それでも良いという人達だけ相手におやりなさいと言って、議論が止まります。今、一番、聞きたいのは、情報信託銀行構想を進めたがる役人や銀行員に、「自分自身や家族の情報を提供したいと思うのか、思うとしたら、どんな条件になるのか」ということです。

その点ではやはり、NOPPN Platformのシナリオの方が素直に見えます。地域金融機関が、同社のコンソーシアムと地域通貨などと連携させて、地域内小売業者などへの情報還元、個人へのポイント優遇などを検討していると聞きます。それでも、成功するかは判りません。失敗するとしても、それから得られる教訓は多いでしょう。メディアには華のないストーリーと役者なのでしょうが。こうした新サービスを考える際には、脚本、役者、演出家、監督、舞台、観客をうまく揃えることが必要です。メディアや役所は、いつも、観客の目線が弱いようです。

                             (令和元年8月5日 島田 直貴)