金融庁がシステムコスト調査 (ITガバナンス対話論点)


日経XTECの令和元年7月23日付記事です。記者は日経FinTechの岡部編集長です。岡部氏は日経BP社で長年、金融業界を担当しており、金融ITに精通しています。

https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00139/071700054/

金融庁のITコスト調査の目的は、従来のFSA検査のチェック材料捜しではなく、個別金融機関との対話の材料にすることにあるが、経営とITを連携させるITガバナンスの確立が最終目的であるとしています。DXなど新たなIT施策を検討し実行する際に、地域金融機関の8割前後が採用する勘定系オンラインの共同化が大きな制約要因になる可能性があると言います。7月16日に次世代オンを稼動させた肥後銀やユニシスBankVision参加行の北國銀、紀陽銀などの前向きな動きを紹介しながら、寄合世帯化した共同オン参加地銀の変革姿勢と様々な呪縛を懸念する記事内容です。

日経新聞の7月14日付には、「地銀のIT投資負担を金融庁が調査」という記事がありました。こちらは、経済部か日銀記者クラブの記者が、金融庁を取材して書いたもののようです。IT分野の事業計画が過度な負担となるリスクや人員配置を含めた組織体制を7月からの新事務年度で重点的に調査するとあります。そして、みずほ銀の4600億円システム開発費除却処理を参照しながら、IT投資の見極めやコスト削減が急務であるとも書いています。その一方で第四銀行がTSUBASAアライアンスによるシステム共同化で昨年度1.8億円のコスト削減効果があったと紹介しています。

この日経記事は、余計な波紋を広げました。多方面からこの記事の解釈を求める電話やメールをもらいました。金融庁はITコスト削減を進めようとしているのか?個別システムの採算性をチェックして除去処理を指導してくるのか?TSUBASAアライアンスに参加したいのだがどうすれば良かろうか?勘定系をクラウド化すれば金融庁検査では問題ないのか?などなどです。

この日経記事を書いた記者は、金融庁が3月にリリースしたITガバナンス・ディスカッション・ポイント案(DP)、その後のパブコメ、6月21日リリースの確定版DP(継続的に更新することを予定)をキチンと読んでいれば、金融庁の意図を正確に理解して記事を書いた筈なのにと思います。やはり、メディアは記名記事にすべきです。さすれば、この記事は金融ITの素人が先入観で書いたと読者は理解できます。さすれば、余計な心配をせずに、独自の持続性のある事業戦略と連携したIT戦略を立案、実行すれば良いだけのことだと判る筈でした。トップから担当部門に「ウチは対応できるだろうな?」と質問が飛んで、右往左往した金融機関も多かったことでしょう。

もっとも、こうした記事で右往左往するということは、その銀行ではITガバナンスが確立されてないということなので、まんざら、悪い影響ばかりでもありません。驚いて、心配して、一生懸命考えて、自社の事業戦略とIT戦略を見直す契機となれば、結構なことです。ただ、しばしば耳にするのが、当行には経営戦略がない、だから、IT戦略など立てられないという意見です。筆者は、「それは意見ではなく、愚痴ですね。明文化された経営戦略がなくとも、中期経営計画などである程度整理された方向性はわかるのだから、そこからITのあるべき戦略を考えてトップと議論したらいかがですか?」と言うのですが、それをやるIT部門責任者を見たことがありません。受け身のIT戦略こそが、金と人を無駄にするのですが。

金融庁は、ITガバナンスを「経営者がリーダーシップを発揮し、ITと経営戦略を連携させ、企業価値の創出を実現する為の仕組み」と定義しています。パブコメではCOBITなどを参照して別のITガバナンス定義を提案する意見があったようです。COBITのような国も業種も組織規模も千差万別な対象に最大公約数的な定義やフレームワークを適用することは、むしろ混乱の元だと思います。経営者の定義にしても、パブコメでは、CIOを経営者とする意見がありました。へ〜、こんな人もいるのだと驚きです。金融庁は頭取や理事長など経営トップに加えて、取締役は勿論、非取締役でも事業部門長、IT部門長なども対象にしています。

ITガバナンスで一番問題となるのが、経営とITの連携をどのように整理するかでしょう。以前、某大手地銀の中計立案作業を手伝ったことがあります。事務局は企画部門ですが、支店や本部から若手行員を公募し、選抜した約30名が兼務で作業しました。皆さん、日頃感じていることを並べます。項目の多さだけでなく、レベル感、粒度、緊急性などが混在しています。それを環境要因はSWOTで分けたり、時間軸で整理したり、影響度でクラス分けしたりしながら、業務面での対応策(ソリューション)とそれを実現支援するITソリューションの技術的評価、実現可能性、コスト/リターンなどとすり合わせます。最終的には、優先付けして、実行計画と評価基準・プロセスに落として、中計としました。

こうした作業を通じて、個々人のアイデアが銀行全体の計画の中に組み込まれていきます。同時に関連各部署が何をすべきかが明確になり、それが進捗管理とともに各部署の業績評価基準ともなります。実行計画には、当然ながら必要資源の配分計画や研修計画なども加えられます。我々コンサルは、ただ、整理手法をアドバイスし、外部の目線でコメントするだけですが、若い人達の熱意と勉強熱心さには大いに触発されたものです。

今では、この銀行は、外部の力を借りずに、全て自力で中計を作成しています。それも、日常的に現計画を追加・修正する為に、情報収集と意見交換をしています。戦略は、ある期間だけで作成するのではなく、現場感覚を大事にしながら、常時、補強するものだと体に染み込ませています。こういう地銀では、経営とITが綺麗に連携することになりますが、外部コンサルに任せると、ビューティフル・チャートは出来るのですが、血が通わないままに、どこかにしまわれて、忘れ去られる。そこに、金融庁が対話として来訪すると、大混乱になるか、他人が作った計画で説明しても、即座にばれる。

ITガバナンスは、一部の人達が、ある時だけで作っても、結局はただの絵で終わってしまいます。金融庁のDPでは、PDCAが廻る仕組みになっているかも対話論点だとしています。

                              (令和元年7月29日 島田 直貴)