横浜銀と千葉銀、包括提携



日経新聞の令和元年7月10日号が1面トップで報道していました。総資産で地銀1位と3位の両行が営業面での協力を中心に包括提携するという内容です。同日に両行は取締役会の承認を経て、基本合意を結び、記者会見で提携の目的意義を説明しました。提携の内容は、千葉が横浜に遺言信託サービスを提供、法人向けのビジネスマッチングや協調融資、取引先の海外進出支援などの協業を想定しており、具体的には委員会を設置して詰めるということです。この委員会では、運用商品の共同開発、都内店舗の共同化なども議論されるともあります。日経は、11、12日にも大きく追跡取材記事を載せています。

経営統合でもないのに日経が何故、こんなに騒ぐのかと思います。将来の可能性を感じているのかも知れません。両行の組織文化には相当な違いがありますので、経営統合は無理筋だと筆者は思っていますが、記者は組織文化の重要性を余り意識していないのかもしれません。

勘定系オンラインの共同グループとは別に、営業や管理業務でのアライアンスが地銀で進んでいます。特に千葉銀は熱心で、TSUBASAアライアンスや千葉・武蔵野アライアンスだけでなく、以前から女性活用や人材育成などで、多くの地銀と提携しています。核となるTSUBASAの参加行は、第四、中国、伊予、東邦、北洋、北越、滋賀でして、いずれも首都圏以外の地銀です。メガと競合する千葉としては、メガ対抗の営業力、商品力が欲しいでしょうから、横浜と組むメリットが期待できるのかも知れません。埼玉の武蔵野銀ですと、対メガという観点からは少々ビジネスモデルが異なるのでしょう。

かつて地銀の共同といえば、勘定系オンラインでした。英語ではSharedOnlineSystemと表記します。一つのシステムをシェアすることでコスト負担を軽減することが目的でした。単独では開発構築しきれないので、どこか作れる銀行かベンダーのシステムを共同利用するということもありました。ところが、始めて20年もしますと、システムに関するガバナンスが失われ、一方でコストは高止まりしている。脱退したくとも、他の友好地銀にコスト負担のしわ寄せが行く、それを避ける為には想像を越えるペナルティを負担しなくてはならない。新しいことをやるには参加全行の同意がないと話が進まない。そうしている内にITに関わるスキル人材が消滅していたという、デメリットばかりが顕在化してしまいました。

もっとも、このことは、共同化を検討する時点で明白なことでした。時の経営陣は、その深刻さを理解しないまま、他行もそうするのだからと決めてしまった訳です。今では、経営環境が厳しくなり、自営に変更する投資に耐えられない。IT人材を確保育成する時間も資金もない。全く、身動きが取れない状況となっている。しばしば、どうしたら良いかと問われますが、当初から勘定系は戦略的でないという説に真っ向から反発していた筆者からすると、何を今更でして「何ともなりません。腹が立つなら、それを決めた時の経営陣の銅像でも立てて、この人達が決めたのだと現役行職員に言い訳するくらいしかないです。」との回答になります。

最近の地銀における共同は、少々趣が変わりました。以前にも書きましたが、Collaboration型に変わってきています。商品開発や営業活動、AIやブロックチェーンなど新しいITへの対応等でお互いのスキル、知見、情報を出しあうという共同化です。それに最も熱心な地銀トップが千葉銀の佐久間頭取です。

こうした新しい価値や競争力を生み出す提携で、合意文書を交すことは簡単ですが、実効を得るのは容易でありません。前述したスキル、知見、情報に加えて、それを実行するコミットメント・パワーを担当者と組織が発揮できるかが勝負となります。日経記事にあるような業界1位と3位の提携だなんて殆ど意味をなしません。誰ができるのか、やるのかという固有名詞が最も重要です。

地銀の経営に関わる記事では、メディアは必ず人口減少、地域経済衰退、低金利環境、フィンテックなど新規参入との競合を並べます。人口も地域経済も毎年何%ものスピードで減るわけではありませんから、対応する時間はあります。重要であることは確かだが、今年来年の生死に関わる問題ではない。一番の問題は、金融ビジネスが1%利幅の時代になったということです。これは一過性ではなく、グローバル経済化、デジタル化によるものです。間接金融は更に低バリュー化するでしょう。

フィンテックによる脅威といっても、一体何%のビジネスが新興勢力に持っていかれたのか?これからの数年で取られるのか。米国では、ここ10年で市場環境や規制環境が理由で銀行数が6千行強に激減しましたが、その約20%がチャレンジャーを含む新銀行だそうです。その新銀行が全銀行業務収益に占める比率は3.5%だそうです。(米アクセンチュア2017年)これは既存銀行のシェアが高まっていることを意味しています。チャレンジャーが大きく市場に喰い込んでいるのは英国くらいでしょうか。英国のケースは、伝統的銀行が余りにも国民に嫌われた結果と言えます。

日本では、預金が有り余っていますから、新銀行が預ってくれるのは有難い。小口決済も手間暇かかるだけで、ろくな手数料収入にならないから、どうぞお持ち下さいが銀行の本音ではないか。決済データが宝の山だなんて言いますが、どうせ何も出てこない。まともな地域金融機関にとっては決済データを見るまでもなく、お客の課題やニーズは把握している。融資もどうぞ、新しい市場を開拓して下さい、最後は顧客からの信頼が高く、審査・回収ノウハウのある我々が頂戴しますと。これが、確度の高いストーリーではないか。もっとも、メディアにとって、これでは商売にならないでしょう。

要は1%利幅のビジネスモデル確立に向けた時間軸の問題なのです。それを見誤ると茹でガエルになってしまう。先程、提携には担当者の固有名詞が重要だと書きました。トップバンクのブランドや担当者の学歴職歴も重要ではありますが、決め手は担当者同士でいかにシナジーを高め、創発するか、それを組織として実行するかです。地銀同士で横のアライアンス、各地域における縦の協業で深みのあるエコシステムを創ることが地銀の戦略となります。その実行には、外部に自信を持って押し出せる人材を固有名詞レベルでどれだけ揃えているかが、提携戦略の要となります。表面的、形式的な数値だけで地銀の実力を測ることはできません。2年後、3年後に千葉・横浜のパートナーシップがどのような具体的成果を出しているか楽しみにしましょう。

 

                                  (令和元年7月16日 島田 直貴)