顧客本位へ改革急務 (リセット金融営業)


日経新聞が連載しているリセット金融営業というコラムの令和元年7月9日付記事です。独立系金融アドバイザー(IFA)の動向を報道しています。紹介されていたのはIFAを活用する楽天証券、法人IFAのフィナンシャルクリエイト、ガイア、フィナンシャルスタンダードなどです。IFAは、金融機関に所属するのではなく、あくまでも投資家から対価を得て、クライアントの為に資産運用を助言します。証券会社などの代理店として注文を仲介するケースも多い。

最近、流行りのロボットアドバイザーですが、IFAの替わりになるとも期待されています。米国では、顧客が自分のIFAにロボットアドの提言を見てもらい、コメントをもらうことが多いそうです。中には、ロボアドをIFAに預けてしまっている客もいるそうです。ロボアド業者は徐々に、サービスや提供情報の内容をIFA向けに変えつつあるとも聞きます。

日経記事の主旨は、資産運用のスキルを持ちながら顧客本位のアドバイザーになることが、金融業界に求められるということです。金融庁が数年前から重視するフィデューシャリーデューティ(FD)と同じ考え方です。IFA制度の拡大にも通じる話です。そこで思い出すのが、金融庁が6月10日に公開した金融制度スタディグループの報告案です。全25ページの報告ですが、大半が決済法制の変更に費やしています。最後の3ページで金融サービス仲介法制として仲介業者の参入規制一本化、所属制(特定金融機関に所属させることで、当該金融機関に仲介業者の指導監督を委ねている。)と仲介業者の収入源について簡単に触れながら、今後の金融審議会で金融仲介規制を検討すると書いています。

決済法制の改正は、来年の通常国会で審議し、再来年の施行が見込まれています。仲介法制はその一年遅れで国会承認、施行といった流れになりそうです。これはどういう影響を金融機関に与える可能性があるのか。制度的な設計は全くの未定ですが、荒っぽい予想で考えてみましょう。

金融仲介事業者として登録(認可?届出?)すれば、銀行、保険、証券等全ての金融商品に関する仲介が可能となります。業務統制は自ら行ない、提携する金融機関からは契約に基づく監視を受けるだけ。収入は個人を中心とするクライアントからのコミッションかフィーに依存する。つまり、金融機関の代理ではなく、クライアントの代理となるので、信義忠実義務の対象はクライアントとなる。結果として、回転売買や不正販売などのFDに反する行為を抑制できる。個人などの投資家はプロの客観的な指導を受けながら、資産運用を高度化させ、1800兆円を越える個人金融資産を今の遊休状態から活用できる状態に向かわせられる。

クライアントを良く知り、そのメリットを第一義とする仲介サービスが普及すると対面販売を軸とする地域金融機関、保険会社、金融商品取扱い業者のチャネル戦略は根本から替わることになります。商品開発力を持つ金融機関は多種多様な商品を開発し、仲介業者に商品を卸すことになります。開発力がなく、顧客との対面営業に依存する金融機関は、仲介サービス業者との全面的な競合が発生するでしょう。金利や手数料などもアンバンドルされて、透明性が高まる結果、情緒的な対顧客関係の価値は下がることになります。一方でラップやCMA、ロボットアドバイザーなどといったシステム商品が一段と普及しそうです。

こうした流れは、日本独自ではなく、米欧で以前から試行錯誤しながら発達してきた仕組みです。IFAの本場といわれる米国ではIFAという職名は殆ど使われずに、RIAとかIBDなどと呼ぶそうですが、約32万人いるそうです。日本では民間認定制度のFPとかFAという制度がありますが、金融機関に勤務する職員が持つ任意資格に過ぎず、顧客側からすれば多少の資産運用知識を保有する営業マンといった扱いでしょうか。

金融ビジネスをプロダクトアウト、プッシュ型から、顧客の実態とニーズに沿った、より合理的で効率的なビジネスに変える為には、顧客側の金融リテラシー強化とサポートサービスも不可欠です。IFAに期待されるところは大です。金融庁は、ここ数年、金融審議会等で「販売会社から独立した立場でアドバイスする者などに対し、顧客ニーズに適切に対応できるよう必要な環境整備が望まれる。」と繰り返し表明してきました。今回、金融審議会で金融仲介法制としてIFAなどを取り上げることにしたのでしょう。

米国のIFAの多くは、元証券会社や銀行の従業員だった人達で、より顧客視点でアドバイスをしたいという理念を持っているそうです。とはいえ、独立して収入を安定させることは米国でも容易ではないようです。IFAの収入は預り資産の1%程度なので、20億円の預り資産で年2千万にしかなりません。そこから事務所や事務員のコストを差し引けば、業としてのうま味はありません。加えて、コンプライアンスも求められますから、情報管理、事務管理、顧客や当局への報告事務などバックやミドルの負担も大きいでしょう。

そこで、TAMP(Turnkey Asset Management Program/Platform)というIFAをサポートするプラットフォームが利用されています。多様な金融機関との取引仲介や顧客資産を管理するカストディアンと繋ぎます。CRMや提案書作成、各種報告書の作成、ポートフォリオ管理、文書管理、Webサイト管理、データマイニング、親密IFA等とのコラボレーション・ツール、コンプラ・ダッシュボードなどの機能を備えています。日本でもTAMPの事業化を検討するIT企業が数社ありますが、その前に、本来の意味でのIFAが普及する必要があります。米国で30万人いるとすれば、わが国でIFAが10万人いてもおかしくありません。この人たち全てが顧客から信頼を得て、頼りにされる時代がくればTAMPは大きなビジネスとなるでしょう。それには、税理士などとの機能分担を含めて検討すべきことが際限なくありそうです。金融仲介法制は、ウォーターフォール式ではなく、アジャイル式で設計した方が良さそうです。

 

                              (令和元年7月10日 島田 直貴)