JPMチェースがデジタルバンクFNNから撤退



金融経済新聞の2019年6月24日付記事です。JPモルガン・チェース銀が昨年7月に開業した若年層向けデジタル・オンリー・バンクFNNのユーザーに、8月10日までにチェース銀のモバイルバンク口座に移管し、FNN口座は閉鎖すると6月6日付メールで通知したとのことです。鳴り物入りで開始したいわゆる「もう一つのデジタルバンク(Bank-X)」から1年で撤退するというのです。日本の他のメディアでは関連する報道を見ませんでした。

驚いて同行のサイトを見ても、ユーザー向けの通知文が掲示されているだけで、理由などの説明はありません。ただ、口座番号、暗証番号、カードをそのまま継続使用できると言うだけです。同行のIBユーザー数は5070万で内、モバイルが3320万だそうです。最大のネット利用者を抱え、毎年300万以上の利用者増でありながら、ミレニアル世代向けにスタートしたBank-Xを閉鎖する。それも抜き打ちで。日本では考えられない話です。毎年、10億ドル超のデジタル化投資する銀行が何を考えているのか?アメリカンバンカーの購読を数年前に止めたことを後悔しました。

金融経済新聞の7月1日号が続報が掲載されました。撤退の理由は、FNNが開始9カ月で4万7千しかユーザーを獲得できなかったことにあるようです。その原因は、低い預金金利だという見方が強い。FNNの金利は既存大手銀の0.01〜0.04%と同等で、新設ネット銀の2.35〜2.75%に比べると魅力に欠ける。若年層は金利で銀行選別することが再確認できたということです。提供するサービス・レベルは、既存大手も新設ネット銀も大差ない。であれば、わざわざ、大変なコストをかけて、別ブランドの銀行を立ち上げるよりは、本体の現有リソースを活用する方が合理的となります。

既存行からすると、預金の金利競争に加わりたくない。その一方、サービスで差別化しようとしても、具体策がない。であれば、Bank-Xとして別銀行化する理由はないのでしょう。ただ、簡単に撤退できるのは羨ましい。だからチャレンジし易いのかも知れません。日本では、無責任だと非難されるし、行政が何と言うか。採算が取れなくても、新旧ダブルコストが、最後のお客が消えるまで続くというビジネスには、誰でも慎重になるのは当然です。ベンチャーの文化とは程遠い。

Bank-X戦略は、他にもウェルズファーゴなど数行あります。彼らも革新的なデジタル・サービスを提供できなければ同じ運命になるという見方が多いそうです。FNNの場合、資産管理ツールだけは評判が良かったようですが、それでも差別化の決め手にはならなかった。口座管理・資産管理のUIやUXで頑張って先行しても、他社も簡単に模倣する。持続的差別化に結びつけることは、尋常な話ではないということです。徹底的に差別化できる何かがないと、価格競争に明け暮れながらコモディティ化する。FinTechベンチャーが小資本で参入でき、簡単にシステム化できるということは、差別化が極めて難しいビジネスだということを意味します。

日本では、久しぶりに新設銀行が続いています。キャンペーンによってそれなりに口座開設はしてもらえるのですが、どうやって儲かる仕組みに育てるのかは今後の話と聞きます。よくもまあ、撤退の自由のない日本で、気楽に銀行業を始めるものだと思います。今更、住宅ローンや個人ロンーンでもないでしょう。会計データで事業性ローンをやるといっても、例えばA銀行が会計データをAIで審査して10%で貸したとします。筆者なら、その顧客に当社なら7%で貸しますと借り換えを提案します。審査コストはゼロです。AI審査に怯える地域金融機関には、この方式を奨めています。

金融機関に対してデジタル化は幾つもの重い課題を突き付けます。対面チャネルとデジタル・チャネルの二重化が一番重い。何年でデジタルに移りきれるのか、それまで自行の体力は持つのか?そもそも、本当にお客はデジタル化を望んでいるのか?それは誰なのか?儲かるのか?確信のある答えは出てこない。メディアやコンサルは気楽にデジタル化が今後の姿だと言うが、それは何時のことなのか?誰もが毎年、5年後とか10年後と言う。そこで、出てくる案が、お試しのデジタルバンクです。銀行本体とは別動化することで、スピーディかつ低コストを実現できると考える。

ネット専業銀行に聞いた話です。顧客接点の業務をデジタル化しても、お客は必ず電話をかけてくるし、書類を郵送してくる。人手を介さなければ事務ミスはないと言うが、取引をキックするお客がミスをすることは頻繁にある。それを自己責任だなどと言って、切り捨てることはできない。AI用の学習データのない処理が発生します。過去の経験から、あらゆるケースを想定して処理ロジックに組み込む。(新設銀行にそんな経験はありませんが)そこに、反社対策、マネロン対策、個人情報保護云々と増加一方のコンプライアンス対応が絡んできます。店舗コストがないから預金金利を高くできると言っても、増えるのは預金という負債とIT経費ばかりとなる。

素直に考えれば、まずは、既存銀行は、今のIB(PCバンキング、スマホ・バンキング)をちゃんと使ってもらうようにリニューアルする。その際に金融以外サービスとの連携を進める。IBはニアバンク化します。これを進めていくとレガシー勘定系の業務範囲は狭まり、流動性預金と決済関連程度となります。この身軽になった勘定系をオープン系サーバー等にリライトするのは、難しいことはないでしょう。(クラウドにしてもコストは上がりますが。)気がつくと、これはチャレンジャーバンクのシステムと同じです。ニアバンクとかチャレンジャーバンクは、新規参入者の戦略かと思っていたら、伝統的銀行がイノベートするステップでもあるようです。新しい銀行モデルへの変革を、段階化することでコストと時間を稼げるのではないでしょうか。 

 

                              (令和元年7月4日 島田 直貴)