「会計xAI」銀行に風穴 新興フィンテック台頭

日経新聞の令和元年6月25日付記事です。7面トップで大きく掲載していました。何か新しい動きがあったのかと読みましたが、金融ITやFinTechに関心のある人には、Nothing Newでした。要は、会計情報をAIで分析・審査するオンライン融資を提供する会計ソフト/クラウド会社や銀行などが増えているという内容です。記事の目的は、銀行に対して「AIを武器とする新たな競合先が相次いで参入しているから、銀行も頑張れ」ということなのか。それとも、中小零細企業に対して、「こんな新しい融資の形態が出てきたから、活用しなさい」というのか?今年の5、6月にこのサービスを開始した企業が相次いだので記事にしたということのようです。マネーフォワード、freee、みずほ銀、三菱UFJ銀などが開始しました。記事では、今年をオンライン融資元年と書いています。

会計情報によるAI審査の受信側のメリットは、日常的に会計情報を与信側に提示しておけば、融資を受ける手続きがネットワークで完結し、従来の対面に比べて短期間(2日後とか10日後)で資金が入金される。与信側にとっても、審査の手間がかからず、専門家の与信ノウハウを搭載したAIが審査するので貸し倒れを少なくできる。その結果、従来は対応できなかった小口(300万円とか1千万円)の運転資金を新たな市場として開拓できるということです。米国などでは、数年前から普及し出して、今では4兆円規模に急成長した有望市場だとされます。

確かに小口運転資金の融資は、これまで銀行はコスト面から積極的とは言えませんでした。融資を受けられる企業は限られ手間もかかります。だから商工ローンなどを利用します。一見するとオンライン融資は有望な市場に見えるでしょう。ただ、与信側にとって採算性が問題となる。オンライン融資の貸出金利は3〜9%です。延滞率は5%以下で、貸し倒れに至るケースは2%前後と聞きます。貸し倒れ率が1%としても、1億円を回収する費用と100万円を回収する費用に大きな差はありません。1万先に貸して、400社で延滞が発生したら、大変なコストになります。新規参入者は回収コストを甘く見ているようです。

まして、市場規模は極めて小さい。先行した弥生(17年12月開始)では1年後の融資残高が4億円だそうです。10%金利で4千万の金利収入。人件費4人分です。弥生に何人の担当者がいて、ITコストが幾らかかっているか知りませんが、採算ラインに達するには、融資残高をどこまで増やせば良いのでしょう。黒字化まで大変な先行投資が必要です。弥生の延滞率は1%強だそうで、この数字は立派ですし、その回収には親会社のオリックスを使えます。freeeやマネーフォワードが自力で全業務プロセスを展開しようとすれば、業容拡大よりも早いスピードでコストが膨らみます。それはブレークイーブンまで続きます。ですから、新規参入者の多くは、貸金業、クレジット、信販、銀行などと提携することになります。先程の例でいえば、4千万円の収入を山分けする訳です。

AIで審査の精度を上げれば、延滞や貸し倒れを減らせるので、金利を抑えられる。さすれば需要を増やすこともできるという考えがあるのでしょう。2018年3月末の貸金業者による事業者向け貸出残高は17兆円です。貸金業登録をおこなっているクレジット、信販、消費者金融、事業者金融などの残高を金融庁が集計した金額です。この既存業者との競合となります。彼等の貸付金利は、2〜4%が全体の42%、10〜14%が37%と二分化しています。オンライン融資で回収の人員を抑える為にはローリスクローリターンの顧客層を対象とすることになります。金利は2〜4%となるでしょう。ここに2、300万円の短期融資で採算を取るには、人件費もIT費用も殆どかけられません。それを判って参入するのでしょうから、本当は何を狙っているのかを知りたいものです。

AIを使うと審査精度は上がるのでしょうか?日銀高度化センターで金融AIに関するワークショップが昨年から今年の4月にかけて開催され、その中でAI審査が議論されました。興味深い議論がいろいろとおこなわれました。その議事録が日銀のサイトで公表されています。(通常、公式な議事録には生々しい箇所は殆ど掲載されてはいませんが。)例えば申込を拒絶した場合に申込者にどう説明するのかといったブラックボックス問題や詐欺目的の融資申込をいかに防ぐか、審査システム構築すら大変だが保守、更新をどうするのかといった課題です。

日銀WSでは、AI審査の精度はほぼ期待通りに作れることが確認できましたが、それは、統計手法による審査と殆ど同じレベルです。それなら、AIにコストと手間をかける意味があるのか?更に笑ったのが、預金残高の推移を見れば、ほぼ同等の審査精度が可能だという意見が大半だったことです。であれば、審査にAIを使うよりも、融資に関わるプロセスをデジタル化した方が、手間暇を省いて、実行までの期間短縮も簡単ではないか?審査判定だけでは、昔のスコアリングモデルの失敗の繰り返しにならないかなどと思ってしまいます。融資審査においては初期与信に意識が偏りすぎではないか、途上与信の方が効果が大きいのではないか?返済能力分析よりも返済意思分析の方が重要ではないか?

要は、ITをどこに適用すれば、自分も顧客も喜ぶのか?最近、ユーザーサクセスなる用語が流行っています。UI/UXが当り前になり新しいジャーゴンが欲しい米国IT業界が創りだした用語です。わが国のIT活用は、どうしても作業効率化、人員削減を目的とします。大きな市場を創るか、置き換えるか、夢のあるビジネス戦略を考え、ITで武装するという発想が必要だと思うのです。当り前のことなのに、それをできていないわが国金融界やIT業界(含むFinTech業界)には、真のイノベーションを追求してもらいたいものです。メディアには、もっと勉強して記事を書いてもらいたい。

                       (令和元年6月25日 島田 直貴)