フェイスブックが仮想通貨参入 (決済サービス、ローンなどを視野)

日経XTECHが平成元年6月19日早朝に報道し、日経新聞などが同日夕刊以降、大々的に取り上げています。27億人のFB利用者に対してLibraという仮想通貨(正式には暗号資産)を発行するCalibraという子会社を設立し、2020年からサービスを開始する計画です。スマホ送金や支払い決済などの金融サービスを提供し、グローバル金融サービスのインフラを確立することでデジタル経済圏を構築することが狙いとのことです。

Libraには、マスターカード、VISA、ペイパル、ストライプ、コインベース、イーベイ、リフト、ウーバーなどが参画する予定ですが、銀行は一切、名前が出ていません。世界に銀行口座を持たない人が17億人おり、当面は金融包摂を名目にLibraの普及を図る意図なのでしょう。その後は、好き放題が期待できる。強みは27億のユーザーとされます。メディア各紙は二言目には27億、27億と叫びます。だからなんだ?27億人が口座を持ったとしても口座維持手数料を払うかは別、金融関連サービスを使うかも別だろう・・・と思うのですが。日経新聞はセキュリティ、個人情報保護、世界各国の関連規制など課題のあることも指摘しています。

日経の20日付朝刊には、岩下京大教授、楠JDD社CTO、野口早大顧問のコメントが載せられていました。岩下さんは、流石に客観的な論評で、FBの金融サービスへの本気度を疑問視するとともに、ケニアのエムペサの二番煎じなどと指摘したそうです。意外だったのは、仮想通貨推進論者の野口さんが、金融政策への影響やマネロン、顧客資産保全などに触れて慎重な評価をしていたことです。思わず、どうしたのだろうと心配になります。

米国中心に銀行界や政府関係者からは、FBの計画に批判的な声が相次いでいます。FBは個人情報の扱いを巡って批判されている最中で、いかにもタイミングが悪い。米下院の金融委員会の委員長が、即座に開発停止を求める声明を発表したそうです。米英EUなどでプラットフォーマーによる金融サービス事業などへの参入規制を急ぐ流れとなりそうです。そうなるとアマゾン、グーグルなども事業拡大の選択肢が狭まります。中国系GATTの欧米展開も阻害されます。それが、FBの狙いだとすれば、凄い戦術だということですが。

日本では、楽天やLINEが銀行業への参入を実施済み、或いは計画中です。GAFAに対する規制論は、国内プラットフォーマーにも影響します。自民党や関連省庁で検討が進められていますが、現時点ではプライバシー(個人情報保護)と不公正取引に関する規制が議論の中心で、新法までの話にはなっていません。独禁法と個人情報保護法による行政対応で当面は収めるという流れです。クロスボーダー取引の扱いに関しては外為法の適用も考えられるでしょう。

独禁法の扱いが重要となります。独禁法の正式名称は,「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。わが国では、シェアが重視されますが、この場合は対象の市場定義が肝となります。ネットワーク・ビジネスのように多くの企業が入り混じったビジネス、サービスとなると市場の定義が難しい。まして法が想定する大企業対中小企業・個人という構図が時代遅れになっています。不公正取引の扱いでは、どんな行為やビジネスモデルが不公正と見なされるのか。行為規制は基本原則を定めても、個々の事業行為が該当するかは都度の判断となりますので、事後判定中心となります。

公取が6月14日に公表した報告書では、1万6千社の調査で726件の知財搾取事例があったとしています。いわゆる「なんちゃって共同研究」などを通じて提携先のノウハウや特許情報などを搾取するケースです。随分と悪辣なやり方をする企業があるものだと思います。公取委は、独禁法や下請法の違反行為にあたるか監視を強めるとしています。ここでのポイントは優越的な地位にあるかないか、知財の扱いに不法行為、不公正行為があるかないかです。

プラットフォーマーも知財や営業機密情報に関わる監視を受けるでしょう。自社のプラットフォーム上で商行為を行なう事業者に対して、優越的地位にあることが普通です。代替できるプラットフォームがあっても移行に伴うデメリットとコストを考えると、変えることは容易ではありません。プラットフォーマーにはこうした自分の立場を理解している会社、あるいは社員が少ないように思います。顧問弁護士は何をしておるのか?最近は「やたらとアリババに憧れるのはやめなさい。国の制度も国民の意識も違うのだから」と言うのですが、同感という反応を示す人は少ない。メディアがこぞって誉めると、何か怪しいぞというよりは、皆がそう言うのだから、そうなんだ。」と信じ込むのが日本人だと最近はあきらめました。

自分の頭で考える人が比較的多いと思える米国で、最近、プラットフォーマーとその上で行なう商行為は、別事業者とすべきだという意見が広まっています。即ち、FBのようなSNSプラットフォーマーは、自分のネットワークを使って金融サービスなどを提供してはいけないとなります。1970年頃に米司法省がIBMを独禁法で訴え、結果としてハードとソフト、サービスを別商品として有料化するアンバンドリングをさせました。その後、すぐにAT&Tに対して訴訟を起こし、通信事業とその上で提供するデータ処理事業を分離させました。それが日本でも電気通信自由化に結び付いた。その後、マイクロソフトなども独禁法の訴訟対象となりブラウザの強制使用などが禁止されています。早晩、プラットフォーマーも対象となるでしょう。その時期は意外と早そうです。

プラットフォーマーが現在の強みを活かして新規事業を開始したとして、採算のとれない段階で規制を受けるというリスクをどう考えるか?筆者は、この質問を受ける時、「黙って見ていればよろしいのでは?やがて、事業を分離せざるをえなくなるから、その時には、当該事業を簿価の1割で買収したらよろしい。その準備をなさっておくように」と答えることにしています。

                          (令和元年6月21日 島田 直貴)