AI人材の不足

日経新聞の令和元年6月2日の記事です。AI関連のトップ級人材は世界に2万2400人ほどいるが、その半分は米国の1万295人で、日本には805人しかいないということです。中国が2525人、英国1475人、ドイツ935人、カナダ815人で日本は6位となります。人口比で見ると、日本の少なさは更に際立ちます。トップ級人材の人数は、国際学会での発表論文や著書、経歴などを調べて推測したそうです。カナダのエレメントAIという新興企業が調査しました。インドが意外と少ないと思うのですが、インド人の技術者は米英などの人数に入っているのかと想像します。

政府は、2025年に年間25万人のAI人材を育成するそうです。現在のAI専攻の修士課程修了者数は毎年2800人だけで、それをカバーする為に理系大学生のほぼ全てと文系学生の一部に研修を受けさせるそうです。この25万人というのは応用基礎レベルと称され、ビジネス現場で実際にAI技術を使いこなせるレベルとされます。相変わらず机上の空論というか、数字のお遊びという印象が強く、経産省も文科省も懲りない人達だと、かなり、不愉快な報道内容でした。

学生130人に専門知識を教育するには、30〜40人の教員が必要だそうです。すると、2025年には、6万人近くのAI教員が必要となります。今から5、6年でどうやって6万人の教師を育成するのか?AI指導できるレベルの人材ならば、企業に勤めれば年収3〜5千万は得られます。億を越える人もいるでしょう。他人を教えるなんて面倒なことをするより、企業で好きな研究や開発をした方が、遥かに勤務環境も生活レベルも高い。計画経済国家なら可能かも知れませんが、自由主義経済下では、役人がそろばんを弾くようにはいきません。これまで何度、同じようなことを繰返してきたのか、少しは学習すべきだと思ったら、経産省と文科省が3月にまとめた報告書に「経産省が情報政策における数学の重要性に気付くのが遅かった。」と反省文を入れたそうです。思わず、噴き出してしまいました。

金融機関でもAIと称して機械学習を使う事例が増えています。画像認識というかパターン認識の分野よりも自然言語解析を対象とする分野が多い。ビッグデータを使って経済、企業業績、株価、通貨の予測に使われています。最近は融資審査の判定やコンプライアンス・チェックなどに使われることが増えていますが、まだ、POCレベルが多いのが実態です。専門家に言わせると、教師データは当該業務の専門家が作成するので、要はエキスパートの判定ロジックを覚えさせているだけとなります。ですから筆者は、今の金融AIの多くを二人羽織AIと呼んでいます。

判定基準の透明性=ブラックボックス問題にも、まだ、解は見つかっていません。解決には、更に使い込みながら、アルゴリズムを管理するAIが必要なのでしょうが、それで関係者の納得を得るだけの説明性を確保できるかは判りません。今は、AIが出した結果をエキスパートが確認して、それを最終利用者に提示(判断は利用者に委ねる)という方式を取らざるをえません。ですから米系大手IT企業は、日本のようにAIなどと誤解を招く表現をしません。コグニティブなどと称して、あくまでも人間の判断を支援するという位置付けです。

機械学習や深層学習のアルゴリズムは研究者に任せるとして、ビジネスなど実務に活用することが経済的な価値を生むという考えがわが国では強い。筆者もそれで良いというか、そうするしかないと思います。するとAI人材には機械学習ツールの利用スキルとビジネス・スキルの双方が不可欠となります。金融機関にそんな人材は殆どいませんから、ビジネス・ニーズを取りまとめて機械学習への搭載はベンダー技術者に依存する。それが、金融AIの実状です。タクシーに乗って、どこそこへ行ってと頼むのと同じです。それだと金がかかるとか、自由も融通も効かない。ビジネス・エキスパートも不足だから、共同でやりましょうと乗り合いバスになってしまう。独自性も創造性もありません。つまり戦略性を最初から放棄する。国内同業の競争ならば、構わないでしょうが、他業や他国でAI技術とビジネス・スキルの双方を持った少数精鋭の組織との競争になったらどうするのか、思わず、百数十人のスペイン兵が1600万人のインカ帝国を征服した話が思い浮かんでしまます。

金融機関は、政府を頼らず個別に自社のAI人材計画を立てるべきだと思います。AIスキルだけでは金融サービスでの価値はありませんから、AIとビジネスの双方に精通した人材を育成確保することです。AIスキルといっても機械学習のアルゴリズムを開発するスキルはなくても構わないというか、優先順位は低い。重要なのはデータサイエンスと呼ばれる分析・解析スキルです。それと学習データなどの整備投入に関わるスキルとツールも不可欠です。

この部隊を何人で構成するか。一人前になるのに、4年かかる(前提スキル次第ですが)として、最初に二人を確保して4年毎に一人が二人を育成する。すると8年後には18人となる。並行してAIツールを使える人材も養成する。こちらは、ほぼ全ての社員を対象とする。生産性基準を決めて、人事評価や給与などは、生産性に比例させる。給与が倍でも生産性が3倍ならば、経営としては大成功となります。この育成は実務開発を通じて行なう。理系出身である必要はありません。数学=理系というのは間違った先入観です。特に経済学系には数学の得意な人が多い。しかし、もっと大事なのはアンテナとセンスです。

ある役所でRPAを使って大幅な作業効率改善があったそうです。そのRPAを作ったのは、パートの若い女性職員だったそうです。責任者は、そのパート職員に報いたいと省内努力したのですが、制度上、何もできなかったそうです。そうこうしている内に、その女性の雇用期間が終わってしまった。人材に対する思い込みの弊害です。

ITとデータが仕事の中味も方法も変えてしまう。これは確実です。しかし、いまの組織を全面的に作り変えることもできない。であれば、特殊部隊を作るしかありません。その部隊はトップ直属か、極めて近い所に設置する。併せて全社員を対象にAIツールを使ってデータで考え、実行する仕組みを作ることを金融経営者に提案しましょう。

                        (令和元年6月4日 島田 直貴)