地銀、相次ぎ「地域商社」

日経新聞の令和元年5月28日付け記事です。地域金融機関で地域商社を設立する動きが広がっているとし、伊達信用金庫や北海道銀行などの動きを簡単に紹介しています。地域商社は地銀経営者から、しばしば話題になる経営テーマの一つです。残念ながら世間の関心は殆どありませんが。この記事でも、表面的な事例紹介と道銀など地域金融機関6社のリストを掲載しているだけで、とても深堀りした取材記事には見えません。なんで記事にしたのかと思いつつ、ふと見ると珍しく記名記事です。日経新聞札幌支社の記者名がついていました。北海道地域で金融の関連するテーマを記事にしようとしたが、スペースの制約から内容を盛り込めなかったのでしょう。

地域商社という概念は、政府の「まち、ひと、しごと創生本部」が3年ほど前から提唱する概念で、政策投資銀行が企画運営などを後押ししています。地銀64行中、20行近くが新会社を設立し、大半の地銀では地方創生部といった部署が地域振興策として似たような事業を展開しています。銀行が本業以外の事業を行なうことは不可能ですし、別会社で行なう場合でも5%の出資比率規制があります。2018年の銀行法改正により、銀行業高度化等会社としてIT企業などへの出資比率が緩和されました。地域商社も緩和の方向にあるそうです。

今ある地域商社の事業内容を見ると、地産外商が主です。有名でないが特色ある地元商品を県外に販売促進します。楽観的に見て、1商品の売上増1千万円、100種類を売るとして10億円です。平均的な県の総生産が5兆円ですから、僅か0.02%増です。起爆剤にもならない。銀行は以前からビジネスマッチングを推進してきました。中には経験と創造性、対面営業力を活かしてマッチング率を平均の数倍に引き上げている常陽銀行や西部信金などもありますが、多くは、形式的なフェアやカタログ作成に留まっています。銀行員にとって、本業ではないので、そこで頑張っても報われないということなのか。

政策投資銀行は、地域商社に不可欠な成功要素として、ビジネスモデルなどの企画力、商品や技術のマーケティング力、商流と資金流を地域内に環流させる巻き込み力の三つが必要だとします。地域商社の多くは、政投銀の奨めるお作法で経営計画を建てているようです。しかし、農産物やその加工商品を前提として考えている限りは、新しい販売チャネルができるだけです。それも余り強力とはいえないチャネルです。アマゾンを活用した方がマシではないか。

最近、注目されているのが東京にある第一勧業信用組合です。地方の信用組合と組んで、東京の市場に紹介するのです。需要と供給側双方のメリットを追求します。地銀の間でもアライアンスと称して連携する動きが広がっています。軌道に乗れば、放っておいても販路は広がります。駄目な場合は反省をまとめて撤退すれば良い。しかし、それにしても地方創生にはマグニチュードが低すぎる。5兆円の経済規模を毎年2%成長させるとすれば、年1千億規模の事業拡大が必要です。労働生産性も2%を越えて改善しなければ、人口減に対応できません。勝負は労働生産性です。

労働生産性を上げるには、外部に向けて販売するだけでなく、付加価値製品を創るために、外から中間生産財など技術や機材を購入することが効果的だとの調査があります。また、企業規模も大きくする必要があります。つまり、地元企業、産業の再編成を進めることも必要です。そして、技術研究や商品・製品開発も強化しなくてはなりません。それには人材育成も不可欠です。女性や高齢者でも働けるようにしながら、その人達のスキルを育成する仕組みが要ります。要は、地域経済の総合経営を立て直さなくては地方創生などあり得ない。

昔、総合商社の経営者から話を聞いたことがあります。世界の中で日本の置かれた状況、その中で生き残り、勝ち残る方法、その為に必要なモノや技術、そして人について考え抜いた話でした。日本経済の道筋を作っているのは、通産省や政治家ではなく、総合商社なのだと感じたことを覚えています。彼等は叫ぶよりも実行を優先し実利を国にもたらそうとしていました。経営でいうコミットメントです。(最近はおとなしいようですが。)地域金融機関は、地域商社という呼称に踊るのではなく、地域経済をいかに経営するか、経営者目線で考え、地元を巻き込んで実行するしか生き残りの方策はありません。地域経済の出納係からCEOに変わるべきだと思います。県庁など頼りにしていてはいけません。

地域商社が大きく発展して、銀行はその子銀行になることが、これからの地域金融機関の経営目標になれば良い。しばしば、引き合いに出される東欧のエストニアは人口が130万人です。地銀の頭取には、御行の地盤はエストニアより大きいのだから、エストニア並みにはできるでしょう・・・と言うことがあります。IoT、機会学習、データサイエンスなどを駆使して労働生産性を20%くらい上げられたら、人口減少も吸収できる。10ケ年計画くらいで、実現できるだろうと思うのです。(中国に比べると半分以下のスピードですが。)地銀の経営という目線から離れないと、地銀の持続性は得られそうもありません。

 

                            (令和元年5月30日 島田 直貴)