7地銀、フィンテック新会社 (AIで融資先開拓)

 
日経新聞の平成30年5月25日付記事です。池田泉州銀行など地方銀行7行が共同でフィンテック会社を設立するそうです。資本金は1億円で7行が14%ずつ出資、金融庁の認可を前提に6月に開業予定とのこと。社名はフィンクロス・デジタルです。主な事業はAIの融資への応用で、その他にRPAやインターネットバンキング関連技術を研究するそうです。参加地銀は、北から、筑波、群馬、千葉興業、福井、池田泉州、山陰合同、四国の7行です。

AIで融資先を開拓するというのですが、その方法は、各行の持つ膨大な入出金データをAIで解析して、急成長企業や業績改善中の企業を素早く発見するシステムを作るといいます。その他にもRPAや店舗デジタル化、IBアプリのUX/UI関連も研究、開発対象として並べています。これらのシステムを各行がコスト負担して構築するとのこと。全国の地銀が、県境を越えてフィンテックで提携するのは初めてという記事でした。どうも筋の良いストーリーには見えません。メディアレベルでの深度しか感じられない。

記事を一読して、書いたのはITに通じ、かつ、地銀にも詳しい記者でないことが判ります。まず、個別地銀が膨大といえる入出金データを持っていることはない、また、メインバンクであろうと企業が全取引を同一地銀に集中することは少ない。仮にそうであってもAIで解析する前に担当営業が、当該企業の状況を把握している。7地銀のデータを集めたとしても営業地域が全く異なり、特定企業の入出金データを補完しあう関係にはない。分析パターンは増えますが。県境を越えたフィンテック連携をする地銀は、すでに幾つもあります。TSUBASAやiBankが代表的です。他にもブロックチェーンや仮想通貨などの連携ケースがあります。

念の為にクロスTECHのサイトを見てみました。全く触れていません。日経BPの専門記者の記事ではなく、相談や確認もしていないということでしょう。つまり、発表文章を適当に記事化しただけ。道理で、いつもなら複数の銀行から、この記事をどう思うかという確認が来るのですが、この記事については、全くなしのつぶてです。地銀の皆さん、良く判っているというか、事前に参加の勧誘があって内容を知っているのでしょう。

筆者の関心は、何故、この7行なのか、誰が仕掛けたのかということです。池田泉州銀が主導して、群馬銀が後押ししたとも聞きます。ただ、NTTデータのBesta加盟行が大半で、それに富士通自営の群馬銀、じゅうだん会の筑波銀、日立Nextの山陰合同銀です。どこでつながったのかは、地銀業界に相当詳しい人でなくては判りません。参考になるのは新会社の社長に元横浜銀行でNTTデータ経営研究所理事の伊東氏が着任することです。同氏は浜銀総研の社長時代から、融資審査にビッグデータを活用する調査研究、啓蒙活動に熱心でした。

最近、金融機関の共同化や連携の目的が変わってきたように感じています。勘定系オンラインの共同化には古い歴史がありますが、英語ではSharedOnlineと呼びます。一つのモノを皆で共有してコストを分担するのが目的です。相部屋の共同生活と同じでして、筆者は昔から、便所も台所も一緒では、学生ならまだしも、結婚もできないと生理的に嫌ってきました。IBMなどの共同は、建物の設計図や基礎は同じだが、別棟として家具やインテリアは各世帯自由です。その分高いと言われますが、要は、入居者である銀行の判断です。勘定系は相部屋でも、プライベート用にどこかにワンルームマンションかアパートを使えば良いではないかという銀行もあります。

海外では、近頃CollaborativeSystemという考えが拡がっています。これはコスト分担というよりは、知恵、スキル、情報、人脈、顧客基盤、商品サービス機能などを持ち寄る意味があります。IT化の重点がSORからSOEに移りつつあることと大きな関係があるようです。日本の地銀業界でも勘定系オンラインを越えた様々な意味での協業が拡がりつつあります。しばしば、こんなアライアンスを考えたいのだがと話題になります。筆者は親しい地銀同士で集まっても意味ありませんよ。このアライアンスにはどんな人材や資源が必要なのか、その人はどの銀行に所属しているかの順で考えないと、ただ、集まっても時間と金を無駄にするだけですと言います。

その人がどこにいるのか?これが難しい。昔は、地銀の協会に様々な研究会があり、知見のある人達が集まり、育っていました。夜は酒を飲み交わしながら情報交換し親交を深め、何か疑問があると電話で教え合います。今はそれが余りに希薄となってしまった。交通の便が良くなり、協会に出てきても会合が終わると日帰りしてしまいます、地域金融機関の情報過疎化は人口過疎化のスピードよりも遥かに速くて深刻です。

こんな話をすると賢い人は、では、ネットで知見者を繋ごう、彼等は、良質な情報があるところに集まる筈だ。こちらから、質の高い情報を頻繁に発信すれば、集まるだろうと考えて、会員制的なグループをネット上に構築します。しかし、その継続が難しい。質のよい情報を発信し続けるのがいかに大変か。参加者が、ただ情報を取るだけでなく自らも発信するように、いかに動機づけするかという問題で行き詰まります。まさにOSSの開発グループ管理と同じだと思います。

この仕組みを作り上げることができた人か組織は、圧倒的なパワーを持つことでしょう。銀行でも良いし、メディアでも、ITベンダーでも良い。様々な分野別にいろいろなグループができれば更に良い。日本の金融機関の競争力はこんな知的集合体を通じて強化できると思います。ビッグデータと称して、ただ素データの量を競うのではなく、希少性が高く、質の高い情報が競争力を決めるというのは、アナログ時代から変わりません。その情報の集め方が飲み会ではなく、チャットのようなツールに変わるだけではないかと。そう考えると、記事にある新会社は、少々、昔の発想に見えます。

 

                       (平成30年5月29日 島田直貴)