三菱UFJがIoT社会へ高速決済

日経新聞の平成30年5月21日1面トップの大きな記事です。MUFGがIoT普及により小口資金決済が飛躍的に増えることを見越して、ブロックチェーンを使った高速決済処理システムを開発したとあります。2019年に実用化の予定だそうです。

またまた、日経記者がいい加減な(裏取りのない)記事を書いたと思いました。月曜朝刊というのは、土日に政治や経済で大きな動きの少ない日なので、企業が大きく記事にして欲しい場合は、スクープ扱いで事前に原稿を渡したり、記者に説明をしておきます。編集も休日態勢なので甘い。そこで結構いい加減な記事がトップに載って、それを見た競合各社が慌てるというケースが余りに多い。

記事を読むと、以下のような疑問が次から次へと湧いてきます。

1.処理量が最大10万件/秒の10倍になる。そんなブロックチェーン技術が何時できたのか?

2.ブロックチェーンは通常、P2Pネットワークで構成されるが、それはアカマイの24万台のサーバーで構成するのか。つまり、パブリック型なのかプライベート型なのか。

3.取引コストが現在の10分の1になるというが、取引コストの定義はなにか?関連する全プロセスを新旧比較しながらのコストを言うのか?通常、決済データの送受信コスト、それも正常取引の場合のみで言うことが多い。それでは、金融サービス事業者や利用者の決済コストのごくごく一部にしか過ぎない。

4、世界のインターネット取引の3割が同社のシステムを経由するとある。同社とは誰のことか。MUFGなのか、アカマイなのか?どうして3割と言えるのか?

5.クレジットカードの加盟店手数料が安くなる可能性があるというが、上記3と同じコスト定義の問題で根拠が怪しい。また、加盟店手数料が大きな問題になっているのは、今のところ日本だけ。

6.カード会社や電子マネー運営会社、システム会社などの参加を募るとあるが、この決済システムの全体構成や参加者は誰で、役割分担はどうなるのか?日本国内だけなのか、グローバル展開するのか。

念の為にMUFGのWebサイトを確認したら、なんと、同日付で正式にニュースリリースしていました。

https://www.mufg.jp/vcms_lf/news/pressrelease-20180521-002.pdf

これを見ると、記事に書いてある内容から出てくる上記疑問の内、1、2、6については、きれいに説明されています。ご確認下さい。3、4、5については一言も触れていません。この3点については、MUFGの担当者が適当な説明をしたのか、記者が勝手に書いたのか。どうでも良いので忘れることにします。

要は、アカマイの技術とサーバー群、ネットワークと新型ブロックチェーン技術により秒100万件超の取引処理が可能と確認した。機能を改善すれば1千万件も展望できる。アカマイのネットワークは、世界130カ国、3800箇所、20万台以上のサーバーにより構成されるクラウド配信基盤により、日本国内だけでなく世界の決済ネットワークのインフラとして使える。

そのインフラには、多様な決済サービスに使えるインタフェースを備えることで、キャッシュレス化の進行に対応できる。例えば、時間単位課金やマイクロペイメントなど、IoTやシェアリング・エコノミー時代の少額決済に必要なインフラ機能として活用できるとしています。

要は、アカマイの技術とビジネス基盤にMUFGの決済ノウハウを組み合わせて、グローバルな小口決済インフラを創る準備ができたということのようです。R3やリップルなどが、大規模決済システム開発に四苦八苦し、コスト増が続いて脱落するコンソーシアム参加企業が続く中、アカマイの先行はダークホースが飛び出したということになります。

MUFGは、日本企業としては随分と大きな絵を描いたものですが、その割にリリースはおとなしい。勿体ないという感じです。アカマイは一般に知られた企業ではありません。1998年に技術者や著名な金融コンサルタント達が共同で設立したネットワーク企業です。今では、インターネットの隠れた主役と業界では思われています。共同創設者の一人がたまたま筆者も知っている人(既に引退)で、その人が三菱銀行と極めて親しかったので、あ〜、そういう繋がりかと納得した次第です。MUFGはR3を含めた多くのブロックチェーンPOCに参画していますが、その内の一つが当たったということになります。

最後の疑問ですが、秒100万件の決済トランザクションをこなしたとして、それにはクリアリングとセツルメントの両機能が必要です。その双方をブロックチェーンで処理するのか、クリアリングだけなのか?つまりアカマイ上では暗号通貨のような標準価値で処理して、必要な公的通貨とのセツルメントは参画する決済ネットワークが担うのか?それとも、決済そのものは当ネットワーク内で完結させ、各国公的通貨との交換は、それぞれの参加者が行なうのか?この当たりのビジネス・スキームはMUFGのリリースにも書かれていません。これから、いろいろなメディアや行政機関がMUFGにヒアリングして、徐々に明らかになることでしょう。

決済サービスのプラットフォーム・ビジネスでGAFAや大手通信会社の優位性が叫ばれる中、MUFGがアカマイという目立たないが強力なネット事業者と組んで打った手は痛快です。単なるアドバルーンではなく、記事にあるように、来年にも実用化して、いち早く、グローバル決済市場の先行者としての地位を確保して欲しいものです。まだまだ、本格稼働に向けて残された課題は山積みの筈です。ただ、三菱銀行が何かを公表する時には、殆どの検討が済んでいることが多い。昔からそうでした。

                             (平成30年5月22日 島田 直貴)