キャッシュレス「後進国に焦り」 経産省、税優遇や補助金案


日経新聞の平成30年4月10日付記事です。5面トップ7段抜きの大きな記事です。「また、後進国扱いか、日本は現金先進国なのだと書けば良いのに」と思いながら読みました。内容はいつものパターンです。キャッシュレス比率が20%に満たず、韓国、中国などに大きく遅れを取っている。現金の扱いに年8兆円ものコストをかけて勿体ない。訪日客の消費減が懸念される。などなどです。経産省は、キャッシュレス普及策のとりまとめに産官学の有識者による協議会を設置して、韓国などの事例からキャッシュレス化の為の優遇策を検討するそうです。例えば、カード利用額の20%を所得税控除するとか、加盟店のカード会社への手数料の一部を補助する制度などです。

相変わらずの役所だなと腹が立ちそうになって、一息いれました。やはり、経産省に決済政策を考えさせるのは無理です。自分の立場でしか絵をかけません。消費者庁などにカード産業の所管を移すべきだと思います。韓国で何故、税金から控除するかといえば、その額よりも脱税防止による効果が大きかったからです。この政策目標は、小売店が、1千ウォン以上の購買におけるカード支払いを拒否できないという法律によっても支えられています。1万ウォンが一番高い紙幣で、10万ウォン紙幣発行の計画もありません。日本で同じような規制をかけて、1万円札を廃止したら、あっという間に、時の政権は倒れるでしょう。

カード会社への加盟店手数料を補助したら、クレジットカード関連の国民経済的コストはいくらになるのでしょう。8兆円とされる現金取り扱いコストも一部が減るだけです。利益のあがるのは、カード会社だけではないか。決済端末はバラバラで不便な上に高いし、加盟店手数料も高すぎる。日本だけの、このビジネスモデルを放置したのは、経産省そのものです。反省するなら、加盟店手数料に3%とかの上限規制を導入しろと言いたい。クレジットカード産業全体で一体いくらのコストをかけているのか?各社のディスクロージャから推計できますが、見たことがありません。誰か計算して公表して下さい。そもそもこの記事を書いた記者がそのくらいは調べるべきです。現金とクレジットカードのどちらの方がコストメリットがあるのか?

筆者はキャッシュレス化が不要だとは言いませんし、むしろ推進派です。推進するには、ステークホルダー全員にメリットがなくてはなりません、そうでなければ支払い手段としては不適当です。通貨やそれに準ずる決済手段とはそういうものです。経産省みたいに目的と手段を間違えると、社会に迷惑をかけます。現金通貨の扱いを減らしたいのなら、それを越える決済手段を考えなくてはいけません。今、一番、近いのは中央銀行がデジタルマネーを発行する方法でしょう。ただ、大きな課題が数多くあります。一つずつ解決していかなくてはなりません。時間がかかります。それまでの間、現金通貨の不都合をいかに減らしていくか?

キャッシュレス比率は、政策シナリオの中でKPIとして出てくるものです。近未来投資戦略の中のKPIとするのは良いでしょう。問題は、分母と分子に何をもってくるかです。分母は、一般には個人消費額や可処分所得です。経産省は、民間最終消費支出を使い、分子にクレジット、デビット、電子マネーの利用額を持ってきます。民間最終消費支出は分母として適切だと思いますが、分子が怪しい。何故か、他国よりはるかに普及している振込や振替は反映されません。全銀協加盟行の他行振込だけで、昨年、33.5兆円もありました。これには現金紙幣は一切動きません。このことをどう考えるのか。

カードやスマホを通さないとキャッシュレスとは見なさないのか。キャッシュレス=電子決済=クレジット+デビット+電子マネーという図式は正確といえるのか?目的がクレジットカードの普及促進ではなく、現金取扱いによる社会的コスト削減や国民の利便性向上だとすると、筋が違うことは明らかです。むしろ、紙の山やセキュリティに問題のあるクレジットを電子決済で置き換える方が、国民経済的メリットが大きいのではないか。利用者が複数のカードを持って、加盟店も無駄な端末投資や手数料負担をしない済む方が合理的ではないか。であれば、キャッシュレス化+カードレス化をKPIとすべきではないか。

経済効率という側面からすると、決済額を分子というのもどうか。電子決済であれば、1億円を送金しようが、100円だろうが事務コストは同じです。であれば決済件数も考えるべきではないか?決済タイプ別(B2BとかC2B等)の全決済件数に対する電子決済件数です。昔、国際決済銀行BISのレッドブックには決済の媒体別に金額と件数が出ていました。現金、小切手、振込・振替、クレジットなどの媒体別でした。今はどうかは確認していません。日本では何故、こうした統計がないのか、公表されないのか。全くない筈はなく、BISレッドブックには日本の数値も掲載されていました。正確といえるほどの推計が難しいからかも知れません。

ニーズが顕在化しているとされる訪日客の為の決済手段を考えましょう。中国からの顧客にはアリペイでしょう。但し、数年後にどうかはわかりません。欧米人だったら国際ブランドカードでしょう。台湾、韓国、香港、タイからのお客さんも国際ブランドカードで済むか、またはLINEペイかもしれません。どうして、それが地方で使えるところが少ないのか?それを見極めて、クレジット端末を半強制で増やそうとせずに、小規模小売店でも導入できるメリットやコスト抑制の手段を考えれば良い。それは経産省では無理そうなので(経産本省には中小零細のことは頭にないようです。)、銀行がやった方が良いでしょう。

ただし、海外でも決済手段は多様で、しかも変化し続けます。アリペイも別の決済手段に置き換えられるかもしれません。QRには、少々危ういものがありますし。それらに都度対応していては、銀行も小売店もたまりません。変化を吸収するようなプラットフォームを銀行界で作ったらどうか。スマホとクラウドを組み合わせれば簡単です。ハードでなく、ソフトで対応すれば良い。そこに地域マネーを組み込めれば面白い。JRや自治体が発行する優遇カード機能を組み込めば更に良い。創ろうと思ったら簡単な話です。利用者の限られるFinTechにばらばらと投資するよりはるかに効率的だと思うのですが。

今更、韓国や中国のような決済手段構成を目指しても、追いつく頃には理想形が変わっています。スウェーデンのように、もっと骨太な絵を描きたいものです。北欧がキャッシュレス化に力を入れるのは、人口が少なく、国民一人当たりの生産性を上げることが目的でした。日本には北欧諸国を上回る人口を抱える県が幾つもあります。キャッシュレス化は県単位でやってみたらと思っています。

                            (平成30年4月11日 島田 直貴)