ロボアドのエイト証券を野村アセットが買収


日経新聞の平成30年3月30日付け記事です。資産運用大手の野村アセットがエイト証券の株式を第三者割当増資27億円で引き受け、過半の株式を持つ予定です。エイト証券は、香港の金融持株会社8リミテッドを親会社として、ロボットアドバイザーを中心とした証券ビジネスを展開しています。野村アセットとしては、53兆円の運用残高を誇るものの、顧客の多くは中高年齢層で、顧客ポートフォリオの再構築が必要とのことです。エイト証券は、野村アセットのインデックスファンドの取り扱いを予定しており、更に提携商品を広げる考えだそうです。

筆者はエイト証券が、香港系の証券会社とは知りませんでした。同じグループ会社である8 Securities Limitedは、香港のフィンテック企業として、ロボアドバイザー・サービスや株式取引サービスを展開しており、フィンテック関連技術に強みを持っているそうです。野村アセットが27億円を出資する目的はこちらかも知れません。

日本でのロボアドは2年前にお金のデザインのTHEOが開始して以来、16社程が参入しています。大手4社(ウェルスナビ、楽ラップ、THEO、MsvLIFE)の運用残高は2月末で1220億円と1年で4倍に伸びています。(日経新聞調査)利用者は3、40歳代が圧倒的でウェルスナビもTHEOも65%以上と聞きます。投資経験の浅い人にとっては、ロボットに運用を任せておけば良いですし、実際に現時点における各社の運用利回りは市場平均を上廻っています。何よりも売買手数料が安いのは魅力です。残高の1%が全てを含む年間手数料ですが、最近ではそれを下回る手数料率が出ています。

良く聞かれるのが、ロボアドのようにAIで自動運用するのは大丈夫かという質問です。どうも、AIが運用判断をしていると思っている人が多いようです。筆者の回答は「運用にAIを使っているかも知れないが、AIだけで運用しているわけではない。そもそも、機械学習のベースとなる教師データは過去の市場情報であり、市況が過去にない変化をする時には役に立たない。各社とも投資戦略委員会のような機関で、専門家が議論しながら投資方針を決めて、それを運用システムに組み込んでいる。市況の動きも、担当者が常時モニタリングしており、全てをAI任せという訳ではないから、その心配は無用です。」となる。

むしろ、ロボアド業者の方が、ビジネスとして継続できるのか心配です。ネットで取引を完結するというビジネスモデルなのですが、それが思う通りにいかないと聞いているからです。第一に顧客層が若い人中心ではあるものの、意外と高齢者や投資経験豊富な人、主婦などもいる。この人達は口座開設時だけでなく、日常的に電話や書類を送ってくる。その対応にかかる労力は想定を遥かに上回るそうです。ここで、コストモデルが予定から崩れてくる。第二に手数料競争が激しくなってきたことです。特に新規参入者はキャンペーンと称して、0.5%とか0.3%を提示する。今のところ先行大手はこの手数料引き下げ競争に加わっていませんが、いつまでそうしていられるか。

一番困るのが、クレーマー的な顧客のようです。ロボアド業者は公開の場では言いませんが、裏では結構、不良顧客の扱いに関して愚痴を漏らします。ネットだけで口座開設していますので、顧客のアナログ属性は全く判りません。反社チェックやマネロン・チェックをしていますので、反社勢力ではないのですが、やたらクレームをつけるタイプはどこにもいます。優良顧客の選別には対面と取引履歴が必須ですから、地域金融機関などとの提携で道を開こうとなります。

ウェルスナビは、SBI証券と組んで大きく顧客数、運用残高を伸ばしました。THEOは地域金融機関との提携を広げています。現在で12行庫と提携しています。更に増えるでしょう。THEOの話では、地銀から紹介される顧客には20歳代が多いといいます。地銀が若い人に推奨しているようです。ウェルスナビもTHEOもNISAなど制度積立の受け皿になるという戦略がありますし、地域金融機関としては若年層との関係構築にもってこいの商品ということなのでしょう。何よりも、銀行にはスマホを使うキラーアプリがない。だから、スマホ・バンキングが定着しません。その点で評価額が頻繁に変る証券取引は、キラーアプリになり易い。そこに、さりげなく銀行アプリを添えると効果的かも知れません。よくて1%の手数料収入を両社で分配ですから、手数料以外のリターンが不可欠です。

若い人達からすれば、ロボットに任せておけば、うるさくセールス電話を受けることもないという気軽さが受けるのでしょうが、それでは金融機関として知恵がなさすぎる。チャットロボなどを使って、顧客と双方向の情報交換を図るなど、インティマシーを強める施策が必要になります。気になるのは、ロボアドと提携する地域金融機関側に、こうした包括的な営業戦略があるのかということです。

一方、ロボアド業者には持続的な事業拡大戦略という生存をかけた戦略が求められています。預かり資産300億円では、よくて年3億しか収入がありません。それで80人の社員では、人件費にも遠く届きません。展望が開けないと、エイト証券のように、実質的に売却するしかなくなります。新規事業で勝ち抜くには、2次元(売上=顧客数x客当たり売上とコスト)のビジネスモデルでは不十分で、それに時間軸を加えて、資本政策、人材政策、IT政策との複合的な経営が必要です。当り前のことですが、メディアが煽るより難しいビジネスだと思います。

                         (平成30年4月1日  島田 直貴)