ネットで勘定系システム (日本ユニシスなどが来月から検証)


日経新聞の平成30年3月23日付記事です。ユニシスとマイクロソフトが銀行勘定系システムをネット経由で使えるようにするサービスに乗り出すと書いています。クラウドで情報を管理するなどして、重厚な自前システムが不要となり、維持開発負担が減り、新サービスの追加が容易になる。4月から実用化に向けた検証を行い、北国銀行など地方銀行に導入を働きかけ、20行程度への導入を目指すという内容です。

この記事を見た時に「ユニシスは良い所に力を入れ出した。オープン系BankVisionを持つ強みだな。」と思いました。メインフレームで勘定系を展開する地方銀行にとって、現在の勘定系本体、インターネットバンキング(IB)に加えて、オープンAPIシステム、FinTech関連ネットサービス用システムなどが乱立すると、コストが膨れ上がるだけでなく、勘定系システム内のスパゲティーボールが全システムに転移してしまいます。デジタルバンキング・システム(ネット・サービス)を新として開発し、現行の勘定系と併存し、現を徐々に縮小していくしかないのですが、その新をどうやって作り、新旧併存をどう行なうかが、銀行基幹系オンライン最大のテーマです。それにユニシスが解を見出したのだと解釈しました。

それにしても、「ネットで勘定系」という見出しには惑わされます。何のことかと思いましたし、扱い記事も小さなものです。ユニシスが本件を正式発表したのは3月23日です。日経は同日の朝刊で報道しています。つまり、ユニシスから事前に資料が渡っていることが判ります。他に報道がなかったので、日経だけに渡したのでしょう。ユニシスには気の毒ながら、扱った記者に銀行システムのノウハウがなく、単に銀行オンラインのクラウド化という程度の認識なのでしょう。20行を販売目標とし、北国銀行に売り込むといった記述もありますから、ユニシスからの説明付きだったことも判ります。適切な記者を知らなかったのがメディア戦術の失敗その1です。日経朝刊で報道されてしまったので、他のメディアが大きく扱うことはありません。知人に、「ユニシスがAzureで勘定系を始めるね。」と言っても誰も知りませんでした。これが失敗の2です。ユニシスの関係者は、さぞ、悔しいことでしょう。

ユニシスの公表資料を見ると、要はこういうことです。

1.地銀向けコアバンク・システムであるBankVisionをパブリック・クラウドAzure上で提供する。

2.2016年以降、稼動検証してきたがこの度、米MS社Azureエンジニアリング部門との連携体制や国内データセンターの利用体制が整備できたので、4月から両社共同の検証プロジェクトを開始する。

3.検証内容は、銀行勘定系に必要な要件を満たすサービス・レベルと体制、Azure新規リリース時の機能確認とテスト、これまでにリストアップされた技術的課題への対策、Azure上のデータとサービスを利用した新サービスの開発などです。

FISCは近くクラウドを想定した安全対策基準の全面改訂版を公表します。ユニシスとMSの検証環境は、新しいFISC基準の充足状況を目に見える形で銀行に説明できることになります。

4.BankVision on Azureの特徴は、以下のようなことです。

@ミドルウェアMIDMOSTを使ったオープンプラットフォームで高いコストパフォーマンス

A処理とデータをカプセル化し、テーブルウェアを採用。そしてデータ連携基盤によるSOE化支援

BオープンAPI「Resonatex」との連携で周辺システム、他システムとの連携容易性

CあらゆるサービスをAPI化、シンプル化、媒体レスによりモジュール化を徹底

D上記により個々の銀行が自由にカストマイズできる。

以上はユニシスの立場からの発表ですから、利用側としてはそれぞれの事情から検証すべき事項をリストアップする必要があります。ただ、ユニシスはユーザー銀行と共同で幾つかの研究会を組織しています。こうした場を通じて、地銀や信金のニーズは吸い上げている筈です。

銀行勘定系は、24時間365日稼動です。IaaSを使うメリットは従量制料金によるコスト大幅削減ですが、24・365だとむしろコスト高とならないかという懸念が出てきます。ハードやインフラ運用のコストを下げることができる筈なので、後は契約期間などによる価格優遇策で調整できるのでしょうか。

ユニシスとしては、販売対象として地銀などの他に異業種から銀行へ新規参入する企業やFintech企業なども想定しています。銀行の競合先にも売るのかと思いましたら、銀行と新規参入者の協業促進を支援すると言っています。筆者が考える使い方はこういうことです。現在、稼動するBankVisionは当面、今のままで稼動させる。BankVision on Azureには、FinTech関連サービスを搭載し、両システムをResonantexで連携させる。その上で現勘定系からAzureに、順次業務を移行させ、最終的に現行BankVisionを廃止するというシナリオです。

地銀経営者の多くは、クラウドは安くて便利という程度の知識しかありません。パブリックとプライベートがあることも知りません。契約すれば明日からでも利用できると考える人すらいる。メディアや行政が安易にクラウドのメリットだけを強調するからです。IT部門がいろいろと説明しようとすると、「え〜い、ややこしいことを言って、また、俺を言いくるめようとするのか?」などと怒る人すらいる。筆者が、「お宅のオンラインはメインフレームというハードとOSの上で、銀行用に作られたミドルウェアとガチガチに絡んだ1千万以上の命令で動いているのですよ。クラウドに乗せるには、それをオープン技術用に全て書き換える必要があり、新規に作るよりも大きなコストと膨大な労力、時間が必要です。クラウドで20%安くなるとしても、移行コストで何百億円もかけていたら、投資の回収は全く無理です。」と説明すると、大きく落胆の表情を浮かべます。20年以上もろくな投資も改修もしなかったのは誰の責任かは、考えてもくれません。その意味で、ユニシスは良いポジションを確保したものです。十数年前に同社のオープン系銀行オンライン構想を聞いた時には、思いもしなかったことです。他のベンダーがどう対応してくるのか、楽しみに待つこととしましょう。

                         (平成30年3月29日 島田 直貴)