アマゾンが当座預金を開始か?


日経新聞の平成30年3月16日付、USA金融事情NOWの記事です。アマゾンがJPモルガン、キャピタルワンと提携して当座預金を開始するという観測が関心を呼んでいるそうです。何かの調査では、アマゾン利用者1千人の内、45%がアマゾンで当座預金口座を持ちたいと回答したとも書いています。筋が良い話だとか、既存銀行へのインパクトが大きいとかの意見もあり、今後の展開が注目されるとの論調です。

当座預金を決済ツールとして、そこで集めるデータを再利用できれば、アマゾンとしても好都合ですし、利用者としては、わざわざワレットなどを通さずに済むので決済管理の利便性が上がり、決済資金の安全管理も改善できます。しかし、JPモルガンのようにダイモンCEO自らが、GoogleやAmazonのようなネット企業をDisrupterと見なす銀行が、そこと提携する理由は何だろうと思います。Amazonにしても革新路線の先駆者であるキャピタルワンとならば理解できますが、JPモルガンと組む理由は何か?顧客カバレッジなのか、伝統的銀行の代表すらも提携先だというイメージ狙いなのか?いずれにせよ、Amazonの発想にはこちらがついていけないので、考えるだけ無駄か?などと思っています。

テメノス社がアクセンチュアの協力で実施した「金融サービス部門の課題、優先事項、トレンドに関する第10回Temenos年次調査結果」という報告があります。これはテメノスが主催する顧客向け年次総会に参加した248名の銀行役員達へのアンケートと面談調査の結果をまとめたものです。10年続けている調査でヒストリカルに銀行経営者達の意識変化が読み取れる興味深い資料です。

その中に「新興フィンテック企業は敵から味方へ」という項目があります。銀行にとって競争上の最大の脅威としてフィンテック企業をあげるのは、2015年で14%、2016年19%、2017年が16%だそうです。昨年から下がり出しています。既存の大手銀行を相変わらず最大の脅威とする回答は、21%、22%、20%ですから、こちらは大きな変化が見られない。特徴的なのはチャレンジャーバンクです。11%、16%、22%と急速に存在感を増しています。レポートでは、その理由として、銀行免許を保有することで銀行の強みを持ちながら、レガシーのITシステムや店舗、業務処理態勢など高いコスト基盤を持たないことが強みだとしています。既存銀行も、同じ方向を目指して、保有する顧客基盤を活かせればよいのですが、新旧ふたつのビジネス基盤を保有するというコスト問題とマルチビジネスモデルによる複雑性が大きな制約になるとしています。

10年程前からネオバンクという概念が注目され、一時、下火になりましたが、2、3年ほど前までフィンク企業の目指す方向として再び論議の的になっていました。それが最近ではチャレンジャーバンクという表現に変わってきました。明確な定義があるわけではありませんが、一般的にネオバンクは、銀行免許を持たずに銀行のデジタルインタフェースとして、モバイルバンキングやキャッシュ管理などを行なう事業者をさすことが多い。フィンテック企業などが代表とされます。対してチャレンジャーバンクは、銀行免許を取得し、銀行に許される預金、決済、融資などを全てデジタル・チャネルで提供します。デジタルバンクだとか、フィンテック3.0だとか呼ばれることもあります。英国発で米国にも進出したMonzoや韓国のKakao Bankなどです。背景には、既存の銀行だけに任せておけないとする政府が金融ビジネス革新を図る為に新規参入を促進することがあります。

日本では今のところ、そうした動きはありません。チャンレンジャーバンクに近いのが、じぶん銀行などネット専業銀行やイオン銀のように多くのリアルチャネルを持つ小売系新設銀行の動きでしょう。銀行からのATM手数料ビジネスの代替事業を求めるセブン銀も今後の動きに注意すべきです。他に商社などが様々なチャレンジャーバンクのビジネスモデルを検討していますが、具体化の速いのは通信系かと思っています。KDDIとかソフトバンクが以前から活発に動いていますし、ドコモも関心を示し出しました。ただ、通信事業者には、「規制産業が別の規制産業に参入しても、手かせに足かせがつくだけですよ、利用者が多いだけではチャンレジャーにはなれませんよ。」と言っています。フィンテック企業も、期待した程の新ビジネスが発生せず、今では既存銀行に対する新サービス開発ベンダーのようになっています。米国も同様で銀行とフィンテックは協業する関係になりつつあります。

海外では小売業や通信事業者の銀行業参入に目立つ動きはなく、テメノスの調査でも、脅威だとする回答は10%前後です。躍進する韓国のKakaoBankは通信事業者ではなく、テクノロジーベンダーとしての位置付けになります。Amazonが仮に、既存銀行と提携してネオバンク的な成功を収めたとして、彼らがそのまま、満足するとは思えません。提携銀行と様々な試行錯誤をして充分に学習したあと、次に何を考えるのか、その時に、JPモルガンやキャピタルワンとの業務提携契約がどうなるのか。要は、国民が既存の銀行をどう評価しているか、それを受けて行政がどう動くかが、今後の流れを読むポイントです。

その点、日本の国民は銀行の悪口は言うものの、信頼できるか否か判らない新規参入者に変えようとする声は希少で、むしろ行政の方が金融革新に前のめりです。その行政も、自らがオーバーバンキングと言っており、チャレンジャーバンクを積極的に参入促進する気配がありません。まずは、既存の銀行にサービス革新を進めてもらうことを優先しています。日本でのフィンテック展開は海外のスピードと比べると余りに遅く、フィンテック企業でも気力と資金力の制約から、離脱を考えだすところが増えています。このまま、大山鳴動ネズミ一匹でフィンテック騒動が収束するのか、どこかの既存銀行が、業界をパニックに落し込むような新戦略を打ち出すのか。その場合、下手に打ち上げると、自分のところの社員が大量に流出し、自身の身が危うくなりかねない。やはり、銀行がノアの箱舟としてチャレンジャーバンクを作るのが、最も実現性が高いと思います。銀行業務は外から見るほど、単純でも簡単でもありません。百年かけて築いた安心安全な業務態勢は弱みでもありますが、圧倒的な強みでもあります。

 

                                    (平成30年3月22日 島田 直貴)