サンドボックス法案からフィンテックが外れる


内閣府が与党に説明するサンドボックス法案には、自動運転、ドローンが実験対象として関連法案の特例法案が記述されているが、フィンテック関連の記述がないとのことです。平成30年3月12日付の金融経済新聞が報道していました。例えば、ドローンのサンドボックスを認める場合には、航空法や電波法などに特例を設ける必要があり、政府案には金融関連法案の特例処置が盛り込まれていないとのことです。

この法案が閣議決定されたのが2月9日です。コインチェックから580億円分のNEMが流出したのが1月29日ですから、実験対象にフィンテックを加えると、野党から突っ込まれて審議時間が無駄になると考えたのかも知れません。先日、公明党の財務・金融部会が金融庁から聴取したテーマが「仮想通貨問題などフィンテックの現状と課題」です。仮想通貨が代表的フィンテックだと認識しているのでしょう。与党ですらこの認識でのところに、優遇する法案など提示しようものなら、野党から何を言われるか。フィンテックを外すのが賢明だと言わざるをえません。コインチェック騒動は、いろいろな所に影響を与えています。金融庁の政省令作りや組織体制にも影響がでていますし、今後の制度変更では、今の単純開放路線が変わる可能性が出てきました。確かに、少々、テクノロジーとベンチャーというビークルを信用しすぎたようです。制度を考える時に、人間という要素を抜いてはいけません。

本来であれば、仮想通貨のようなサービスこそ、サンドボックスの対象にすべきだと思います。実験システムを動かして、ハッカー役の技術者が様々な攻撃を仕掛ける、内部社員に扮して考えられる限りの不正を試行する、顧客役の人達は間違った取引や違法な取引をやってみる。ITベンダーは故意にストレージを停止させる。どんなリスクがあり、それぞれの関係が判るでしょう。

フィンテックでは、オープンイノベーションが叫ばれていますが、アイデアソンやハッカソンに留まるケースや業務提携・資本提携に留まることが多いようです。勝手な期待を持った連中だけが集まっても何も出てこないと気づいたのか、元々そんなものと承知だったが社内を理解させるのが面倒なので、ブームというか流れに乗ったということなのでしょう。実際に実証実験や本番サービスで協業した金融機関やベンチャーの話を聞くと、表向きはとても勉強になったと言いますが、酒を飲みながらの本音では、「二度とああいう人達と仕事したくない。」と双方が言うことが多い。理由は価値観や行動パターン、仕事のリズム、スピード、粒度がまるで違うので疲れるし、楽しくないのでしょう。しかし、これこそ実証実験で見極めるべき、重要な要素だと思うのです。技術的な融合ばかりに目をむけると、とんでもない穴に落ち込みます。

最近、銀行内のフィンテック・チームを別会社化する動きが加速しています。銀行内だと意思決定が遅れるとか、仕事のやり方が違うとか理由はいろいろあります。筆者が見るフィンテック関連の別会社で、うまくいっている所とメディアにはやたら出てくるが、実際の顧客ベースや収益性、成長性は時間とともに厳しくなっているところに二分できます。両者の一番大きな差は、銀行本体の営業部門との連携です。戦争と同じで空からの攻撃だけでは市場を制覇できません。地上軍が最終的な戦力です。銀行で言えば、支店であり営業渉外です。この部隊との連携次第でフィンテック別会社の業績が決まってくる。「あいつら、俺達の稼いだ金でネットごっこやっている。」などと思われたら、終わりです。

ネット完結型のサービスなら、陸上部隊は要らないとする考えもあります。ネット専業銀行として全国から新規客を集めるのならば、それもあり得ますが、既存の銀行顧客に対してネットサービスをどうやって売り込むのか?新聞のニュースにしてもらって、Webで広告をだしたところで、集まる顧客は採算ラインに程遠いのが実際でしょう。顧客がゼロの方が撤退コストは圧倒的に低い。うまく行く別会社と失敗するところの違いは、大きく2点です。第一に経営トップの参画度合い。第二は別会社の人達の銀行本体への忠誠心です。「古い連中に俺達のネット戦略が理解できる筈がない。」と思うととんでもないことになります。別会社化して従来の企業文化の枠を越えようとしたのに、ただ独りよがりで徘徊することになる。ですから、経営トップの舵取りとバランス取りが最大のポイントとなります。トップが、後は勝手にやってみろというと失敗は間違いない。

サンドボックスからフィンテック別会社に話が飛んだようですが、実は根っこは同じことです。制度や技術やアイデアも重要ですが、事業では戦略とコミットメントが決め手となります。オープンイノベーションも共通の戦略と参加者達のコミットメントが不可欠です。サンドボックスはオープンイノベーションにとって絶好のプラットフォームになる可能性があるので、早くコインチェック騒動が片付いて、世間がフィンテックに対する理解と参加意欲を取り戻して欲しい。その為には、多くの人が喜ぶサービスを作るしかありません。

銀行のように100年を越える経験を積み重ねた組織力と遵法意識を持つ企業体とベンチャーは全く違います。この全く異なる文化と行動様式をもつ人達との協業においては、目に見えない組織文化をどのように理解し、足りないところを補い合うのか。サンドボックスは、この点を確認するのに恰好の場だと思います。

                  (平成30年3月15日 島田 直貴)