買い物難民問題 (総務省の政策部会での資料)


金融経済新聞の平成30年3月5日付け記事です。総務省が情報通信審議会の郵政政策部会に提示した資料を紹介していました。対象となった資料は「買い物難民の増加」です。65歳以上で自動車がなく、店舗まで500m以上の人口を将来推計しています。

面白い推計なので、その推計方法が知りたくて調べてみました。農林水産政策研究所が平成26年10月に発表した資料を転用していました。加えて商業統計の店舗数と国政調査結果、人口問題研究所の人口推計を用いて算出しています。役所の資料は、こうして作られるのだと今更ながら思います。他の機関の資料が次々と転用されていきます。少し気を抜いた使い方をすると途端に矛盾をはらみます。先日の厚生労働省の統計資料問題などが典型でしょう。

総務省が言いたいことは、こういうことです、生鮮食料品店舗へのアクアセスに困難が想定される人口は、2010年の382万人から2015年には598万人に56%増加すると予測される。少子高齢化が進む結果であるが、そうした状況において郵便局の役割と利用者目線に立った郵便局の利便性向上に向けた取組の方向性はいかにあるべきかということです。2月14日に野田総務大臣から情報通信審議会に諮問がなされました。6月頃に答申が提出される予定です。

金経記事では、郵便局ネットワークの状況という資料から、生活に不可欠な施設への距離が金融機関業態別で列挙されています。コンビニが530m、郵便局ATM600m、郵便局630m、ゆうちょ銀640m、小学校690m、農協770m、地銀1140m、信金1150m、市町村役場1290m、第二地銀1790m、都銀1890m、信組2400mだそうです。昔ほどではありませんが、今でも個人が金融機関を選択する時の理由の第1位が店の近さであることを立証する数字です。個人預貯金額とこの距離が相関しています。

高齢化と買い物難民という問題は、金融業界にとって大きなテーマです。金融業界は自らが構造不況業種と呼ぶほど、収益源が先細り状態です。今は、預金過剰の為、運用に焦点が当たっていますが、遠からず預金集めも苦しくなってきます。理由は、高齢者が生活資金に貯蓄を取り崩し出す為、貯蓄率そのものが下がると予想されるからです。シルバービジネスをどうするかは、郵政事業だけの問題ではありません。あらゆる生活産業の問題であり、特に地域金融機関にとっては大問題となります。

それに対して地域金融機関の動きは鈍い。保険業界などは、数年前から業界上げて対策を展開しつつあります。地域金融機関でも、FinTechなどを通じて顧客チャネルのダイレクト化、デジタル化を進めようとしていますが、支店網は小型機械化店舗とか廃統合という動きもあります。乱暴な言い方をすれば、1800兆円の個人金融資産の3分の二を占めるシルバー市場を捨てる気だとの見方も取れます。銀行には、高齢者はネットを使わないという先入観があるようです。しかし、高齢者のPCやスマホ利用率は急速に上がりつつあり、7年後の2025年になれば、恐らく70%以上がスマートデバイスを使っているでしょう。ましてや音声アシスタンスが更に使い易くなれば、ほぼ誰でも使えるようになります。

金融は物流が不要な分だけ、通販などより取引全体をデジタル化し易い。業務改革の大きな制約要因は、現金の扱いです。電子決済で全てを賄うことができないとすれば、デジタルマネー・カードやキャッシュアウト・サービスなどでキャッシュ・ハンドリングを減らす方法があります。そこに独自性を組み込みたいのであれば、地域デジタル・マネーという方法もあります。

次の問題は、デジタル化だけ進めると、メガバンクなどと同じ土俵に上がることになることです。ネット専業銀行などでは、次から次へと新商品や新サービスを提供することで、顧客のロイヤリティを維持しようとします。しかし、結局のところは金利や手数料などの勝負となっていきます。地域金融機関としては耐えられる戦略ではありません。ゆうちょ銀は、ユニバーサル・サービスとして実質的に国が展開する郵便局を代理店とすることで地理的な優位を維持し続けるでしょう。地域金融機関が店舗を減らしたいのなら、郵便局かコンビニを代理店とするしかない。しかし、コンビニに今の銀行代理店制度に乗るメリットはなく、大半の地域金融機関は郵便局を百年来の敵と思い込んでいる。何とも、国民経済的に無駄なことを続けています。

金融サービスがオープン・イノベーションなどを通じて革新されると、金融機能や付随するサービスがアンバンドルされていきます。しかし、それらを利用する為には、必ずリバンドルされます。そのリバンドルに金融機関の差別化ポイントが出てくると考えられます。個々の顧客の側に立って、顧客に必要な金融機能や付随するサービスを集めて、デリバリーする時に、使い方を指導支援することが重要です。「ウチは銀行なので、そのような商品、サービスはありません。」とか、「ウチはメガの○X銀と親密なので。」などと言っていると、顧客から「お宅は使えないね。」と言われることになる。お客のデリバリー・ハブとなる為には何をすれば良いのか?

郵政グループが、買い物難民や独居老人を対象とするサービスを考えていることは、とても良いことです。残念というか気の毒なのは、その方針や中味を外部有識者なる人達が考えて、法的な手当てが前提となることです。職員が自ら考え、創り出すサービスではないので、どれほど全組織に血の通ったものになるのか?

顧客の側にたった金融サービスとそれに付随する機能の総合代理人的なポジションを確保することが、地域金融機関が地域とともに活きる最大のポイントとなります。それを郵政グループに勝るように構築する必要があります。これまで、こうした考えを提案すると、金融機関の反応は殆どが無視でありました。天動説から地動説に変わるようなものなのでしょう。しかし、最近、少し様子が変わり出しました。FinTechに関する講演依頼を受ける時に、対象が法人取引先ということが増えだしました。特に若手経営者向けの研究会・勉強会です。地元の法人取引先とのオープン・イノベーションを考え始めたと理解しています。この流れを活かす為に、関係者で考え尽くし、クイック・アクションに結び付けたいものです。最大のインヒビターは、地域に密着したIT技術者がいないことです。IT産業政策の大チョンボの一つです。

さて、今回のこのコメントから、どのようなITソリューションが考えられるでしょうか?地域金融機関、ゆうちょ銀行、メガバンクや大手証券、大手保険などの視点で考えると、意外と面白くて大きなビジネスチャンスが見えてくる筈です。

                    (平成30年3月8日 島田 直貴)