来年、5Gが世界一斉に


日経新聞の平成30年2月27日付記事です。世界の通信事業者や機器メーカーが、5Gの商用化を1年前倒しして、来年2019年から一斉に開始する計画だとのことです。バルセロナで開催中のモバイル・ワールド・コングレス(MWC)での各社記者会見の結果をまとめた内容です。

日本では、元々2020年の東京オリンピックで首都圏から開始して順次、地方の大都市などでサービスを展開する予定でしたが、先進各国が計画の前倒しを発表したことから、日本でも1年前倒しされるとの見方が強まっています。総務省は、今年度内に5G向け電波割り当てを決める予定でしたから、来年から通信各社が商用化を開始することは可能です。ドコモなどは、既に、実証実験を行なっていますので、技術的に大きな問題はありません。現行通信設備の更新が1年早まることで、通信各社の設備投資計画に狂いは出るでしょうが、米欧中韓に遅れる訳にはいかないでしょう。

MWCでは、各社が様々な実演や実証実験風景の動画を発表しています。スマート工場やIoT、土木建築の無人化、自動運転、遠隔治療などです。5Gでは一般に高速大容量(最大20Gbps)、同時接続(100万台/平方q)、通信遅延の最少化などが特徴として列挙されます。筆者が通信回線なるものに接したのは、1971年4月の就職直後のことです。上司の指示で、近くの電電公社営業局に、顧客である証券会社の新設支店用に専用回線引き込みと端末機の認定申請を提出にいったときです、その時の回線スピードが250bpsでした。都内にも関わらず、通信料金は月額数万円でした。今では1億倍近くのスピードです。凄いと思わざるをえません。

金融機関に5Gの使い方を今から考えておいたらどうかと提言し始めたのは5年程前からです。しかし、反応は全くありません。何故だろうと思うのですが、前述のようなアプリケーション・サンプルでは、金融サービス提供者に響くものがないのでしょう。確かにその通りです。現金輸送車を無人にして5Gで運行するか? 取引の入力やATMの操作が変わるのか?通信速度が桁違いに変わったところで、プロセスに占める通信時間の割合は元々が微少です。バランスが悪すぎる。ICTサービスでは、一部機能が大幅に性能向上しても、サービス全体への影響が軽微だと意味をなさない。

昨年、通信事業会社の研究員と話をしていた時に、5Gの話になりました。回線を速くするのは良いが、何に使ったらよいか自分達には判らない。いろいろな人からアイデアを集めようとしているが、キラーとなるものが見つからないと嘆いていました。そして出てくるのが最近流行りのエコシステムです。通信事業者がプラットフォームを作るので、誰かに新サービスやデバイスを作って欲しいということです。エコシステムって、そんなに都合よくいきますかね?というのが私の台詞でした。

金融で言えば、例えば生体認証による本人確認などは便利になりそうです。今はデバイスに生体情報を記憶させるデバイス認証ですが、回線のスピードとセキュリティに問題がなければホスト認証が可能です。あるサーバーに顔、指紋、声紋などを登録しておけば、どこで、何をしようが、そのサーバーで認証させれば済む。デバイス毎に生体情報を登録する必要がない。FIDOの目指す認証方式が実現できます。

一方で、やたらサーバー側にログデータなどを蓄えると、サーバーがパンクしますから、エッジ・コンピューティングの重要性が増してきます。ファーウェイの新型スマホにはAIチップが搭載されました。使用者の使い方に合わせて、画面操作が簡略化できます。自動で操作手順のカストマイズができる。デバイスにマイク、スピーカー、カメラがついていれば、対面に近いインタフェースができます。お年寄りでも簡単にネット・サービスが利用できるでしょう。今はAIスピーカーが注目されていますが、ペット型や人型のデバイスがユーザー・インタフェースとなって、振込や金融取引の相談、契約が可能となります。米国のロボアドのように、顧客がロボットを直接使うのではなく、ロボットを持った営業担当者やFPが顧客を前にして使っても良いでしょう。いわゆるモバイル・ブランチが実現します。

こうして非構造化データがネットワーク上を大量に流れます。プラットフォーム事業者はこのデータを加工して、新たな収益源にしたいと思うでしょうが、そうはいかないと思います。利用者からすれば、勝手に自分のデータをコピーするな、ましてや使うのは許さん。それは匿名化云々の話ではないと言うでしょう。すると、事業者は有償でデータ利用の同意を利用者から得なくてはなりません。それで成り立つビジネスがあるのか?これからは、個人情報保護法が金融サービスでも業法とならぶ基本法制となります。法人間も営業機密という視点から、当初は民事訴訟の対象になり、やがて何らかの法規制がかかるようになる筈です。

ところで、5Gが全国くまなく普及するには2025年くらいまでかかると思います。顧客はネットワークで様々な生活行動や事業活動を行います。その過程で金融取引も発生します。商品を制限時間内に割引価格で注文をして、声で「○X銀行の口座から明日0時5分に振込んで。」と指示するとします。銀行のロボットから「今夜、XXカードの支払が予定されているので、その時間には残高が足りません。」と連絡がくるかも知れません。「では、○○保険から契約者貸付で10万円借りて、この口座に入れておいて。」などとやり取りするのでしょう。

銀行は、口座管理者であるだけでなく、顧客の金融資産管理とキャッシュマネジメントを提供する事業者になりそうです。しかし、後者は銀行免許がなくてもできます。個人向けや零細企業向けのフィナンシャル・アドバイザーがAIやロボットを使って活躍する時代がくるかもしれません。5Gから話が飛びましたが、シーズからニーズを考えるときは、生活感と飛躍の両方が必要です。エコシステムを作る時のメンバー選定で重要なポイントです。

                   (平成30年2月27日 島田 直貴)