金融庁がアンチマネロン対策室を設置

金融庁は平成30年2月2日に「マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室」の設置を発表しました。そのミッションは二つです。

@来年予定されるFATF審査への対応策の企画と調整

A金融機関に対するAML対策状況のモニタリングの企画

総務企画局に所属します。新組織図や室長以下の職員数などはまだ公表されていません。マスコミもAMLには関心が低く、報道したところが見当たりませんでした。他のミッションとして、金融機関や利用者などへの周知を図り、国挙げての未然防止を進めたいとしています。

確かにメディアのAMLへの関心は低い。対象がテロ資金や犯罪資金の洗浄や不法移転などであり、日本人で対象となる一般人は極めて稀だからなのでしょう。来年、FATFによる第4次対日相互審査が予定されており、もし、次回も不適格な対応レベルと評価されると、国際的圧力が高まるだけでなく、金融機関などの外貨調達にも支障がでるという記事は時々見かけます。全ての金融機関(保険、金融商品取引業者等を含む)だけでなく、貸金業者や質屋、そして犯収法の特定事業者など広範な業種がAML対策の対象となっています。罰則付きの法律なのですが、いかんせん、国民の関心がない。

政府としてはG7首脳会議等で国際的に約束したことですし、何よりも来年のFATF審査が怖い。審査団は個別金融機関へも審査に入ります。対象金融機関は、審査団が決めます。メガかもしれないし、地方の小規模金融機関かも知れません。メガは専任組織もあり、巨額なコストをかけてシステム投資もしている。(充分かは別ですが) しかし、地方の小規模金融機関には、AMLが何のことか知らないところもある。平然と「ウチには妙な客はいないし、そんな心配はない。」と何も対応していないことに後ろめたさを感じないトップもいる。これでは、金融庁も焦ります。そこにFATFが入ったらどうなるか?

金融庁は、昨年秋から金融業界に圧力をかけています。対応状況のアンケートを取ったり、直接の監督下にない信金信組にも検査に入り、12月にはアンチマネロンの詳細なガイダンスを発しました。そして今回の専任組織の発足です。いかに本気かが判ります。しかし、金融機関としては際限のない制度対応に、苦慮しています。人も資金も限られますから。

銀行法など業法を理解しない経営者も増えている。新設銀行などです。検査官が「こうされたらいかがですか?こんな方法もありますよ。」と下手に提言したら、「あんたら営業妨害だ。」なんて叫んでしまう。部下の銀行員からすれば、「あんなトップはFSAが切ってくれたら助かる。」というところでしょうが、金融庁にそんな時間の余裕はありません。民間と行政のAML認識ギャップは相当に大きい。

FATFは一律の対策では実態と合わないと理解していますから、リスクベース・アプローチを提唱します。個別の金融機関が個別の顧客と取引に対してリスク評価と対策レベルを決めることになります。これにわが国も合わせています。業界共通の対応策がありません。それをビジネスチャンスと考えるのが、大手コンサル会社やITベンダーです。

大規模な調査分析と巨額なソリューションを制度案件として提案します。ソリューションといってもカストマイズコストが大きい。導入コストも維持コストも予算をはるかに超える。手作業が発生するプロセスにはRPAを提案してくる。ついでに全社的BPRも提案してくる。金融機関の経営者や現場からすると必死に稼いだ収益をあっという間に持っていかれる。規制産業の宿命なのですが、かつてのような規制を受けるメリットが殆どない今日では、腹がたって仕方ないようです。筆者は、「いっそ、免許を返して貸金に徹したら?決済に徹する方法もありますが。」と言うしかない。

こうした状況は日本だけなのか?規制は殆ど先進国共通です。大きく異なるのが、中堅規模以下金融機関のITパワーの差です。海外の金融機関は基幹系パッケージを使っていても、その維持管理は自社で行なうパワーを持っている。制度対応も基本的には自社で行なえる。自社に必要な最小限でシンプルな対応から始められる。日本のように、ここまで丸投げする国はない。そして、IT対応に時間もコストもかかることになった。ITパワーといってもプログラミングだけではありません。自社の業務手順や事務規程を含みます。丸投げの結果、その知識を持つ行職員が殆ど消えてしまった。今では事務管理という言葉すら死語です。

AML対応が遅れる背景にはこうした問題があります。これから、同様な案件が続出するでしょう。グローバルにつながる世界では、一部の国の制度的欠陥がすぐに他国に伝播します。当然、各国は共同歩調をとって新たなリスクを抑え込もうとします。次は仮想通貨でしょうか?高速処理取引でしょうか?構造改革ブームに乗って何年もかけて人減らしをやっている状況かと思ってしまいます。プロに確保育成が先ではないか。

経営者に問いたいのは、どんな企業を目指すのかということで、それを考え尽くすと、法人業務から撤退したり、個人ローンに特化したりする金融機関が出てくるかもしれない。上場廃止や異業態間合併を通じた業態転換を検討する地域銀すらあると聞きます。ITベンダーは海外の特殊事例を参照して普遍的な方向だと強調したり、制度案件への便乗ビジネスをやっていて良いのか。金融のITガバナンスを再構築しないと金融システム全体がおかしくなりそうです。

                                    (平成30年2月6日 島田 直貴)